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「ニンジャキャンパス」 005 ひな

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005 ひな


「ひな、隣いい?」
「ああ、サクヤ、いいよ別に。」
「『情報リテラシー』久しぶりだわあ」

私は最上もがみひな。C大の総合政策学部2年。
サクヤは「BEATWAVEビートウエイブ」っていうバンドサークルの友達。
学部は違うんだけど、この授業は全学部共通科目なので、時々一緒になる。

「ひな、年末のライブで一緒になんかやらない」
「いいけど……隼人君とやるんじゃないの?」
「いや、あいつ練習しないからもういい!」
「ケンカでもした?」
「最近アニメばっか見てて練習しないんだよ……って、ひなもアニメ好きだっけ」
「私も練習しないからなあ」
「あ、そういう意味じゃないからね」
「大丈夫、私本能型だから。練習しなくてもw」
「余裕だわw」

サクヤとは久し振りなので、もう少し話をしていたかったが、教室の後ろの入口から教授が入ってきた。

ここは200人位入れるすり鉢型の教室で、出入口は前後左右の計4つある。
設計が古いみたいで通路が狭い。
どの教授も、後ろの入り口から入ると、前の教壇につくまで、机にぶつかったり歩きにくそうにする。

案の定というか、教授の腕が私の座っている机にぶつかり、荷物を落としてしまった。
レジュメが数束、バラバラと落ちて階段をすべっていく。
私は素早く拾い集めて教授に渡した。

「先生、どうぞ」
「ああ、ありがとう、ありがとう」

岡田おかだ先生は情報学部の教授で、メディアでもよく取り上げられる人気の先生だ。
まだ30歳代?若いと思うんだけど、その割には渋いダンディな声だ。
ちょっと鼻にかかったいい声で、私的にはツダケン - 津田健次郎に似てると思う。

声がいいと、講義も楽しい。

この時期になると学年末試験の情報欲しさで大勢の学生が押し寄せ、教室はいつもの倍ぐらいの人数になる。
結構ガヤガヤするときもあるんだけど、岡田教授の声はよく通る。

教授や学校の先生のスキルのひとつに「声」っていうのは絶対あると思う。

「ねえひな、今日試験のことなんか言うかな?」
「シッ、もう授業始まるよ」
「わたし、全然出てないからさあ……でもバイトで忙しかったんだよ、結構社長とかにも頼られちゃって……でさ、後でノート見せてくれない?」
「分かったから、ちょっと静かにしよ」

岡田教授は教壇に立つと、ぐるっと教室を見渡した。
「えー、では学年末試験のことを話しますね。」

「お、急にきたよ!ひな、急じゃね?」
「だからちょっと静かにって、これから試験問題のこと、話すよ」
「試験問題??」

岡田教授は声のトーンを上げると、試験範囲どころか、試験問題とその解答まで、全てバラすかのように話し始めた。
私はいそいそとメモをとる。
iPhoneのボイスレコーダーも、もちろん、回してる。

学生の中にはキョトンとして、ただ話を聞いてるだけのものもいる。
まさか学年末試験の問題と答えを教えてくれるなんて、誰も予想しなかっただろう。

これが私の「ニンジュツ」だ。
火遁かとん - ハートに火をつける」
相手に「ありがとう」と言わせたら、それがトリガーになって、聞きたいことや知りたいことを、すべて喋らせてしまう。

「ありがとう」と言わせるだけで、相手はなんの疑いもなく、たとえ大事な秘密だったとしても、ペラペラ喋ってしまうんだ。
ただし「ありがとう」に込められる、気持ちの本気度によって、術のかかり具合も変わってくる。

そう、私は「ニンジャ」。
一見普通の大学生だけど、実は「裏社会」で生きている。というか生かされている。
そして「裏社会」ではいろいろとヤバいこともやっている

(授業終了)

「腹減った〜!ね、ハムカツ定、食べに行こう」
「またハムカツ定?ほんと好きだよねー」
「ひな、お弁当派だったっけ?」
「今日は違うよ。行こっか。でも今の時間めっちゃ混んでるでしょ」
「テラス席なら空いてんじゃね」

(移動)

「……てか、寒いんだけど!空いてるはずだよ!テラス席!」
「大丈夫!ハムカツ食べればあったまるよ」
「ないないないないない!おでんじゃあるまいし」

そういえば……
学祭終わってすぐの時だっけ、このテラス席で隼人君にバッタリ会って……
隼人君に好きな人がいるかどうか聞き出そうとしたんだけどな……
あのとき、なんでうまくいかなかったんだっけ……?

『ヌルポップ』 もやけにシュワシュワ感が弱かったんだよなあ……

(食事終了)

──寒かったけど、ハムカツ定食は確かに美味しかった。
目の前に見える桜紅葉さくらもみじもめっちゃ綺麗だ。
サクヤとは「ちょうどいい距離感だ」とか思ってたけど、実際は、もっとすごく気が合うんだと思う。
自然体で付き合えるし、ずっと友達でいられそうだし、なぜか分からないけど向こうもそう思ってる気がする。

「そろそろ行く?……そうだ、ノート貸すよ」
「マジで?どうした!今日優しいじゃん」
「いつもな」
「ありがとう!今度おごるからさ!」

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(その夜)

「ひなちゃん、お疲れ様!今月はボーナスも合わせて17000ポイントね」
「え!いいんですか!そんなに」
「ひなちゃんには、いつもすごくよくやってもらってるから。これでも足りないくらいよ」
「ええ〜そうですか!ありがとうございます」

オトさんは私たちのボス。
目が大きくて、口は小さめで、鼻は可愛くて、髪の毛はピンクアッシュで、声は……声は声優の釘宮くぎみや理恵りえさんに似ていると思う。
釘宮さんっていってもいろんな役をやっているけど、「キングダム」の「河了貂かりょうてん」の声に似ている。高校生ぐらいに見えるけど、その割には少しスゴみがあるというか。
どっちみち全部バーチャルだけど。

「ひなちゃんは仕事だけじゃなくて、いろんな情報を持ってきてくれるから、本当に感謝してるの。今月はなんかあった?」
「……実は最近、気になることがあって」
「気になること?」
「私以外に『ニンジャ』がいるような気がするんです、大学に。それもすごく身近に」
「……それは誰?友達?」
「そうです……五條咲耶さくやって言うんですけど」

「情報リテラシー」の授業の後、サクヤが隼人君のことをどう思っているのか、聞き出そうとした。
だからノートを貸して「ありがとう」を言わせてみたんだけど……。
サクヤには「ニンジュツ」が効かなかった。

正確にいうと「効いたのか効かなかったのか、よく分からなかった」んだ。
サクヤは表裏がないド正直な性格だ。そもそも秘密がないのかもしれない。

だけど秘密がまったく無い人なんて、この世にいるんだろうか?
そこがよく分からない……。

「だからよく分からないんです……五條咲耶の秘密が聞き出せないんです」
「珍しいね、ひなちゃんがそんなの……」
「でも、友達に術をかけるなんて……プライベートで使うとか、よくないですよね しかも男子をどう思ってるか聞きだすとか……」
「あれ?もしかして三角関係w」
「まあ、そんな感じですかね」
「否定しないんだw……分かった、話してくれてありがとう。私のほうでも少し調べてみるわ。それと…いい機会だから、ひなちゃんにだけ教えとくね──」

(つづく)

第一話はこちらから↓
#01 コハク
https://note.com/trec001/n/nec99ec4e5432

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最上ひな C大学 総合政策学部政策学科2 年
本能型 声フェチ ツンデレ
高見隼人のことが好き
【ニンジュツ】「火遁 - ハートに火をつける」
相手に聞きたいことを喋らせる。相手に「ありがとう」と言わせて発動する

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<登場人物とエピソード>

オト 「組織」のボス 経歴不明

【BEATWAVE】
大神コハク C大学 商学部金融学科2年
https://note.com/trec001/n/nec99ec4e5432
五條咲耶 C大学 法学部政治学科2年
https://note.com/trec001/n/ncda10af219c7
高見隼人 C大学 経済学部経済学科2年
https://note.com/trec001/n/n1ae615e16433
最上ひな C大学 総合政策学部政策学科2年
https://note.com/trec001/n/nd6f832fe48a4
今井風太 C大学 経営学部経営学科1年
https://note.com/trec001/n/na561974d8f62

【放送研究会】
佐々木あんね C大学 文学部心理学科2年
https://note.com/trec001/n/n9c5e05ed4bc4
森 ウカ C大学 情報学部情報学科1年
https://note.com/trec001/n/n9c5e05ed4bc4
葛城 結 C大学 理工学部生命科学科1年
https://note.com/trec001/n/n67c2be17669c

岡田ダン C大学 情報学部教授
https://note.com/trec001/n/nc5751b386939

【DNTFMT(ドントフォーマット)】
Vocal Torika
Guitar 弁天
Bass カルマ
Drums コンガ

※この小説は『CryptoNinja』(https://cryptoninja.space/)の二次創作です。

#ありがとう

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