見出し画像

「ニンジャキャンパス」 006 ダン教授とイーサリアム①

---------------------------------------------

#06 ダン教授とイーサリアム①


C大学の都心キャンパスは、東京・初台はつだいにある。
都心だが敷地面積は広く緑も多い。研究・教育に適した落ち着いた環境だ。
総合大学であるC大学の8つの学部のうち、理工学部と2020年に新設された情報学部は、この初台キャンパスにある

私は岡田ダン。この情報学部で、情報セキュリティ論とデジタルメディア論を教えている。

「ダン」という名前から、よく「ハーフですか?」と聞かれるが、生粋きっすいの日本人だ。
それほど目くじらを立てる訳でもないのだが、そういう質問者に対しては「この人はそういうこと・・・・・・を気にする人なんだ」と思ってしまう。

ダイバーシティがうたわれ始めてからもうだいぶ経つというのに、日本人はもう少しオープンになった方がいいのではないだろうか。
ちなみ私は「バツイチ」だ。そして物心ついた時から「両利き」だ。
そしてそれらも特別なことではないと考えている。

「あ!岡田先生!おはようございますゥ!1年の森ウカです!」
「ああ、森さん……確か水崎先生の授業で……」
「そうです!VRoid ブイロイドでエクセルの学習ビデオ作りましたッ!」
「あれは面白かったね!…森さん、2年になったらうちのゼミ来る?」
「行きます行きます!ブロックチェーンとかやってるんですよね?」
「そうだね。他にもVRとかメタバース、情報系の最新分野が研究テーマなんだ」

情報学部はC大の他学部に比べると人数も少ない。だがその分、教員と学生、また学生同士、教員同士も距離が近く、居心地は良い。

「先生、ブロックチェーンの授業とかで『NFTエヌエフティ―』って扱います?」
「ああ!ちょうど『NFT』もテキストにしようと考えていたところなんだ。つい先日、共同研究しているゲーム会社さんもNFTゲームへの本格参入を発表したし…そうか、君たちにも身近なテーマなんだね」

私は本音で会話した。「学生とは対等に」が私の信条だ。
若者は私たち大人の想像以上にススんでいる。「情報」の分野に関しては彼らの方が達人と言ってもいい。
彼らから学ぶことは大いにある。

「なんかァ、高校の時の友達がイラストやってて、最近NFTも始めたんです」
「ほう…NFTを始めるには専用のマーケットプレイスでアカウントを作らないといけないし、イーサリアムなど暗号資産の知識も必要だ。まだまだバグもあるし・・言ってしまうと、ハッキングの被害にあう可能性も高い。きちんと知識を得ながら扱わないといけないよ。」

「そうなんですか?やっぱ危険なんですか?」
「いや、短絡的にそう言うのとは違うんだ。確かにNFTは、まだ法整備が整っていないという議論はある。

だけど『テクノロジー』が常に『法律』より先に進化してしまう以上、完璧な法的整備は不可能とも言える

…これはまさにうちの学部の研究テーマそのものなんだけどね笑
だから、そこだけを見て『危険だ』『詐欺だ』と決めつけてしまうのは違うと思うんだ」

おっと、またしゃべり過ぎたかな?
そう思って彼女の表情を見たが、その瞳はキラキラと光っていた。
まるでおとぎ話を聴いている子どものようだった。

こういう若者に出会えるのもまた、大学教授という職業の醍醐味だいごみだ。

「情報学部のキャッチコピーって『文理融合で情報と法律にアプローチする』ですもんねッ!」
「そう!さすがうちの学部生だ!でも本当に近い将来、暗号資産やブロックチェーン、そしてそれらによって形成されるメタバースの世界というものが当たり前になると思うよ!」
「わあ!面白そう!やっぱ情報学部入ってよかったなあ!」

──その時、廊下の向こうから、ゼミの学生の叫び声がした。

「先生!先生!大変です!ゼミのパソコンが乗っ取られて!!」

---------------------------------------------
研究室に入ると、ゼミ生たち数名がPCを取り囲んでザワついていた。

「あ、先生!これって『ランサムウェア』ですよね!身代金要求されてます!」

男子学生のひとりが興奮した口調でまくし立てた。
黒い画面にピンクの文字で、そして標準的な日本語を用いて、身代金の送金方法が記されている。それほど高い金額ではないが、ビットコインでの支払いを要求している。

間違いない。
コンピューターウイルスの中でも、近年その被害が拡大して問題になっている「ランサムウェア」だ。

「落ち着いて!対処方法はある。まずLANケーブルを抜いて。」
「もう抜いてます!」
「OK!では被害は?暗号化されたファイルは?」
「マイドキュメントの中身が全部……ワードもエクセルも、全部開きません」
「何か重要なファイルはあったかな……もちろんみんなの研究レポートは大事だが……個人情報に関わるものとかは置いてなかったよね……ふむ……」

私は自分のデスクにあるPCの電源を入れながら、次に何をするかを、脳内で順序立てていた。

研究者の悪い癖かもしれないが……ランサムウェアの被害はそれほど深刻ではないだろうと判断し、同時に、もしかしたら学生たちにとって良い経験になるかも、という考えが脳裏をよぎった。

「柴田くんのゼミのレポート、フォルダごと全部USBにコピーしてこっちに持って来て!暗号化されたファイルから、ランサムウェアの種類が特定できる場合がある。それができれば復号ツールも手に入る可能性が高いんだ。」
「大丈夫なんですか……感染したファイルを先生のPCに移したりして……」
「感染したのはPCであって、その結果ファイルが暗号化されてしまったんだ。そのファイルを『No More Ransom』というサイトにアップロードすれば、ランサムウェアの種類が特定できる。」

「じゃあ、そのサイトに復号ツールの情報も載ってるんですねッ!!」

振り返ると先ほどの学生、森ウカさんも騒動に便乗してここまでついて来ていた。
なんにせよ、好奇心の強い学生は私のゼミには向いている。

「みんなもこっちに来て見てごらん。これが『No More Ransom』のサイトだ。オランダ警察を始めとする官民連携のプロジェクト・サイトなんだ。
暗号化されたファイルを2ファイルと、身代金要求文の含まれたファイルをアップロードすることでランサムウェアの特定ができる」

私はUSBメモリーの中のファイルをアップロードして『結果を見る』ボタンを押した。
結果は数秒で出た。しかし『BAD NEWS』と表示され、その下の文章には『あなたが感染したランサムウェアを特定できませんでした』と表示されている。

──何か妙だな?

「機動戦士ガンダム」の「ニュータイプ」とはよく言ったものだ。
人間の感覚は、何かに特化して研ぎ澄まされていくと、非常に特異な嗅覚が働く。
私は普段使い慣れているPCとそのブラウザから、明らかに異質なものを感じとっていた。

「こ、これは──!!」

私の素っ頓狂すっとんきょうな叫び声に、周りにいた学生たちも一斉にビクついた。

「このサイトは違う!フィッシングだ!!」

私は全集中で脳内検索していた。
最近の自分の行動履歴と、PC内の個人情報、先ほどの身代金要求文の内容・・・

「狙われていたのは私のPCだ!おそらく……私のイーサが狙いだ!!」

(つづく)

第一話はこちらから↓
#01 コハク
https://note.com/trec001/n/nec99ec4e5432

---------------------------------------------

※本小説の内容はフィクションです。また、作中に登場する暗号資産やメタバース等の概念は、2021年現在、作者個人の見解によるものです。

<参考文献>
【連載】NFTと法
https://www.businesslawyers.jp/articles/942h

The No More Ransom Project
https://www.nomoreransom.org/ja/index.html

---------------------------------------------
<登場人物とエピソード>

オト 「組織」のボス 経歴不明

BEATWAVEビートウエイブ】

大神コハク C大学 商学部金融学科2年
https://note.com/trec001/n/nec99ec4e5432
五條咲耶 C大学 法学部政治学科2年
https://note.com/trec001/n/ncda10af219c7
高見隼人 C大学 経済学部経済学科2年
https://note.com/trec001/n/n1ae615e16433
最上ひな C大学 総合政策学部政策学科2年
https://note.com/trec001/n/nd6f832fe48a4
今井風太 C大学 経営学部経営学科1年
https://note.com/trec001/n/na561974d8f62

【放送研究会】

佐々木あんね C大学 文学部心理学科2年
https://note.com/trec001/n/n9c5e05ed4bc4
森 ウカ C大学 情報学部情報学科1年
https://note.com/trec001/n/n9c5e05ed4bc4
葛城 結 C大学理工学部生命科学科1年
https://note.com/trec001/n/n67c2be17669c

岡田ダン C大学 情報学部教授

https://note.com/trec001/n/nc5751b386939


【DNTFMTドントフォーマット
Vocal Torika

Guitar 弁天

Bass カルマ
Drums コンガ

※この小説は『CryptoNinja』(https://cryptoninja.space/)の二次創作です。

#NFT #暗号資産 #イーサリアム #ランサムウェア

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?