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「ニンジャキャンパス」 007 ダン教授とイーサリアム②

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#07 ダン教授とイーサリアム②


ビットコインは数年前から保有していた。
だがそれは言ってみれば研究対象だったし、ただただ保有しているだけだ。
しかしイーサリアムは少し事情が違った。

今後「NFTエヌエフティ―」を授業で取り上げるにあたり、実際に「OpenSeaオープンシー」で取引をしようと考えていた。
アート作品を何点か購入する予定だったのだ。
それだけならまだ研究対象と言えるが……
元々アート好きの私としては、本気でコレクションを物色していたのだ。

本当は「CryptoPunks」という有名なNFTが欲しかったが、100ETH イーサを超えるものが殆どだ。
ざっくりと1 ETH=50万円で計算すると、100ETH=5000万円。これはとても手が出ない。

そこで目を付けたのが「CryptoNinja」だった。日本の有名なNFTコレクションで、イラストレーターさんが1体1体丁寧に「1点物」として作りこんでいるのが特徴だ。

「CryptoNinja」の何点かはオーナーがオファーを受け付けている。
だが、私のようにステータスがない人間がオファーしても、まず無理だろう。
「CryptoNinja」のオーナーには名だたるインフルエンサーや実業家が名を連ねている。

ならばコレクションが二次流通するのを狙ったほうが、まだ入手できる可能性は高い。
いつチャンスが来るか分からないので、10ETH - およそ500万円相当のイーサリアムをウォレットに常備していた。

ウォレットにイーサを移したのは3日前だった。

「せ、先生!……大丈夫ですか?」
「先生のPCが狙われたって!……どういうことですか?」

学生たちが深刻な顔つきで私を取り囲んでいた。
私としたことが、少し取り乱してしまったようだ。

「ごめんごめん、大丈夫だ! 私のPCは、不測の事態に備えて、二重三重のセキュリティをかけている」

──そう、私の「ニンジュツ」を持ってすれば、何も心配することはない。

私はPCのディスプレイを凝視した。
私の眼はハードディスク内部のファイルやテキスト、プログラムなどを透視することができる。プログラムの動きまで見ることができる。

想像したとおりだ……ウイルスがクリップボードのデータをコピーし始めた。

ウォレットのパスワードを盗むつもりだ。

私はさらにディスプレイを凝視して、眼から普通の人間には見えない赤外線のような光線を発射した。

ビビビビビビビビビ!!

一瞬でそのウイルスは消去された。

ついでにクリップボード上の、ランダムな文字列のパスワードも光線で消しておいた。

これが私の「ニンジュツ」、「閃光 - レイザー」だ。PC内部のテキストやプログラムを透視できる。
さらに、データを自由自在に消去することもできる。

・・・我ながら「ランサムウェア」などより、よっぽど怖い能力だと思う。

ただし射程距離が非常に短く、目の前にあるPCでないと術が使えないが。

カタカタカタカタカタカタ・・・
「これで……よし!と」

私はコマンドプロンプトに意味のない打ち込みをして、まるで何かを処理したように見せかけた。

「こっちは大丈夫だ。もう一度そっちの共用PCの方を……今度は『システムの復元』を試してみよう」

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「今日は散々な1日だったみたいね」

自宅のPCは24時間365日、立ち上げっぱなしにしている。
だからオトは、いつも何の前触れもなく、ふらっとディスプレイに現れる。

私は作業中のキーを打つ手を止めずに答えた。

「あれは『敵』の仕業だったのかな…それともただのクラッカーなのか……」
「すくなくとも『ガーナ計画』には関係ないわ。単に貴方あなたのオタク趣味を嗅ぎつけた、その辺の三流クラッカーの仕業よw それにしてもあの程度のクラックに引っかかるって......C大の情報学部教授としてはちょっとアレじゃないw ゼミ長さんもちょっと引いてたわよw そもそもPCにパスワード残してるって情報学部の教授としてどうなのw」

カタカタカタカタ・・・カタン!
(キーを打ち終わる)

「……そうやって、君はまた影分身の術かなにかで、僕のことを近くで見ていたって訳か……」

オトは、目が大きくて、口は小さめで、鼻は高くはないが形が良くて、髪の毛はピンクアッシュに染めていて、声は「キングダム」の「河了貂かりょうてん」を演じているときの、声優、釘宮くぎみや理恵りえさんに似ていて……
私だけが知っていることかもしれないが背中にハート形の「あざ」がある。

「しかし僕の行動履歴を知っての犯行だとすると『敵』の可能性もある。僕のイーサリアムを狙ったふりをして、さらにその裏で何かを企んでいたのかも・・・」
「あなたのそういう考えすぎなところ、変わらないわねw 今日だってそう、何かをしながら次のことを脳内で考えるってヤバくない?ミスする確率が高くなると思うんだけど。
Twitterでスペース聴きながら作業してるといつの間にか手が止まっちゃうとか、そういうことあるでしょw 私は無理」

「君のそういう『自分の考えだけで判断する』ところも変わってないな…」

しばらくの間沈黙が続いた。オトが黙るのは珍しい。

彼女にはふたつ、わかりやすい癖がある。
ひとつはその大きい目をさらに大きく見開いた時。そういう時は絶対何か良くないことを企んでいる。
もうひとつは今みたいに押し黙る時だ。そういう時は珍しく本音を話そうとしている。

「はい、今月は160ポイントね」
「ありがとう、大学教授といっても世間が思っているほど高給取りじゃないんだ。助かるよ」

「……それとあなた、『CryptoNinja』の#006にオファーしてるでしょ。あのオーナー『usamimi_jp』って、あれ、私だから」
「!!!!」
「譲ってあげてもいいわ…NFTのオファーは売り手が買い手を決めることができるから……
クリエイターが、自分の作品を信頼できるオーナーに保有してもらいたいって気持ち、私にもわかる気がするの。特に最近はね」

「・・・変わったんだな」
「・・・変わらなきゃいけない時もあるってことよ」

(つづく)

第一話はこちらから↓
#01 コハク
https://note.com/trec001/n/nec99ec4e5432
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岡田ダン C大学情報学部教授
日本人 バツイチ 両利き アート好き
【ニンジュツ】「閃光 - レイザー」
PC内部のテキストやプログラムを透視できる また眼から発射する光線で、それらを消去することができる

<参考URL>
CryptoPunks公式サイト
https://www.larvalabs.com/cryptopunks

CryptoNinja公式サイト
https://cryptoninja.jp/

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<登場人物とエピソード>

オト 「組織」のボス 経歴不明

BEATWAVEビートウエイブ】

大神コハク C大学 商学部金融学科2年
https://note.com/trec001/n/nec99ec4e5432
五條咲耶 C大学 法学部政治学科2年
https://note.com/trec001/n/ncda10af219c7
高見隼人 C大学 経済学部経済学科2年
https://note.com/trec001/n/n1ae615e16433
最上ひな C大学 総合政策学部政策学科2年
https://note.com/trec001/n/nd6f832fe48a4
今井風太 C大学 経営学部経営学科1年
https://note.com/trec001/n/na561974d8f62

【放送研究会】

佐々木あんね C大学 文学部心理学科2年
https://note.com/trec001/n/n9c5e05ed4bc4


森 ウカ C大学 情報学部情報学科1年
https://note.com/trec001/n/n9c5e05ed4bc4
葛城 結 C大学理工学部生命科学科1年
https://note.com/trec001/n/n67c2be17669c

岡田ダン C大学 情報学部教授

https://note.com/trec001/n/nc5751b386939





【DNTFMTドントフォーマット

Vocal Torika

Guitar 弁天

Bass カルマ
Drums コンガ

※この小説は『CryptoNinja』(https://cryptoninja.space/)の二次創作です。

#NFT #OpenSea #イーサリアム #ウォレット


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