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「ニンジャキャンパス」002 咲耶

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002 咲耶


C大学の8つの学部のうち、文系学部6つは八王子キャンパスにある。
駅からは歩きだと20分以上かかる。本当はバスを使えばいいんだけど、学生はなんだかんだでお金がない。
ので、結構歩きの人が多い。

いつもは空いている北門だけど、今日はめっちゃ混んでいる。
ベースをかついでずっと立ちっぱなしなので、肩が凝ってしょうがない。

──人ごみの中から、やっと「相方あいかた」が現れた。

「・・・・隼人はやと遅い!」
「ワリィ!8時には家出たんだけどさ……」
「・・・・」
「……電車遅れちゃって、そ、電車……」
「・・・・」
「えっと……最近多くね?人身……」
「いいから💢早くステージの準備するよ!」

わたしは五條咲耶さくや
みんなからは「サクヤ」とか「サキ」って呼ばれている。
誰にも知られていないけど、実は「ニンジャ」で、その「裏社会」で生きている。というか生かされている。

大学はめでたくC大の法学部に合格。国際法のゼミにはいって、バンドサークル「BEATWAVEビートウエイブ」でベース弾いて…って、絵に描いたようなキャンパスライフを送っているけど……
それはあくまでも表の顔。
「裏社会」ではいろいろとヤバいこともやっている。

隼人はバンドのメンバーでドラム。
そう、今日は年に一度のお祭り、大学祭なんだ!
わたしだって二十歳の女子大生、この日ぐらいは大学生らしく青春を謳歌したいもんだ。

「えっと、サキ…怒ってる?」
「・・・・いや」
「なんか、今日は妙に無口なんだけど」

わたしの「ニンジュツ」は「影分身」。
自分の「分身」を自由に遠隔操作できる。
……実は今、隼人と話しているのは「分身」のほう。

──つまり!!
寝坊して遅刻しているのは わたしのほうで、「本体」はアパートでめっちゃ慌てて準備中というワケ。


「影分身」はなにかと便利なので、仕事だけじゃなくプライベートでもついつい使ってしまう。
だけど視聴覚にタイムラグがあって、めっちゃ大変だ。
普通に会話するだけでも ものすごく疲れる。
コニュニケーションが取りづらい💦

「そうだ!前に言ってたビッケ団のチケット、取れそうなんだけど」
「・・・・ああ、・・・・あれ」
「い、いやあ、別に無理に行こうってワケじゃないけどさぁ……サキってBiTSビッツぽいの、あんま好きじゃなかったっけ?……」

そうじゃないんだけど!むしろ嬉しいんだけど!
──とにかくこの「ニンジュツ」のタイムラグは神経使うし、肩が凝る。

まったく、中国語の授業の10倍ぐらい、頭をフル回転させてる感じだ!

「おーーい!サクヤァー!急いでー!」

並木道の先で、コハクが手を振っているのが見えた。

「あと15分しかないよ!時間押したりしたら実行委員に目エつけられて来年出れなくなるよ!」
「えー!マジかそれ?俺のドラムは?もう運んでくれた?」
「と・に・か・く!急いで💢」

まずい!思ってたより遅くなってしまった…「本体」との入れ替えに時間がない!
トイレに行くフリをして「本体」と入れ替わる予定だったのに……
まずいなあ、コハクはキレてるし、何か理由つけないとなあ……

そのとき、アメフトのユニフォームを着たガタイのいいお兄ちゃんたちが、売り子をしながらこっちに近づいてきた。
看板には「俺のタピオカミルクティー」と書かれていて、中のひとりがでっかい鍋を持っている。

よし、これを利用するか!ぶつかって派手にこぼしてやろう。
どうせアバターだし。
そのドタバタの隙に本体と入れ替わるんんだ!

「うきゃーーーーッ!危ないぃぃッ!」
「ホゲゲーーーーッ!」

ドガシャーーーーーーーン!!

「大丈夫っすか!」
「ご、ごめんなさい、こっちこそ急いでて」

相手が頑丈そうだったのでどうなるかと思ったが、結構たくさんこぼしてくれた。
服がめっちゃ汚れてくれた。

「ごめんコハク!すぐ着替えてくる!サークルTに!すぐ!」
「ハァーーンッ💢  2分で行ってコイ!」
「余裕だわ!」

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(その夜、自宅の部屋 スマホのミーティングアプリにひとりの女性が映っている)

「はい、今月は3980ポイントね!」
「・・・・」
「ちょっとおまけしちゃったよ〜」
「・・・・」
「あれ?サキちゃん、今分身中?妙に無口なんだけど」
「いや……いいんですか?こんなに……先月572ポイントだったのに」

オトさんはバイト先の社長。
色白で目が大きく、口はおちょぼ口。可愛い女の子だ。
そう、社長なんだけど、少なくともオンラインでの見た目は普通の女子高校生って感じ。
まあ、バーチャルだけど。

「こないだ大学生の男女の生態、だいぶ見せてもらったからね。研究費ってとこよ。」
「!!!!」
「隼人君、だっけ?もっと優しくしてあげたら?男心分かんないの?」
「ちょ!何言ってるんですか? 社長知ってるわけないですよね?いや、ちょっと待って?え?」

わたしは頭をフル回転させた。
そういえば、大学祭には一般の人や中高校生もたくさん来る。
……まさか社長がそこに紛れて……いや、いくら何でもそんなヒマはないはず……
だとしたら密偵?

「しっかし、あんな山奥の大学、よく通ってるね…分身で行ったけど肩凝ったわ」

分身!?社長が!? 影分身を!?

「ベースもっと練習しないとね、2曲目のサビ、思いっきり間違えてたでしょw」
「・・・社長!分身できるんですか?」
「w あとハムカツ定食ばっかり食べてないでw 先週の金曜3回も食べてたでしょ。いくら何でも食べ過ぎw スニーカーも1足しか持ってないの、男子って結構見てるからね〜 あ、そうだよ!4月の誕生日に隼人君からプレゼントでもらったやつ、あれ履けばいいじゃん!ステージの時しか履いてないけど、彼からしたら普段履きしてもらいたいと思うよ。それと──。」

???!!!
この人は一体、どんだけ影分身でわたしのことを見ているんだ!!!

「それと、本体との入れ替え、困ってたでしょ。わざとぶつかってあげたからww タピオカミルクティー、派手にぶっかけてあげたからww」

(つづく)

第一話はこちらから↓
#01 コハク
https://note.com/trec001/n/nec99ec4e5432
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五條咲耶 C大学 法学部政治学科2年
ずぼらでマイペース 頭の回転は速い
口癖は「余裕だわ」
【ニンジュツ】影分身
自分の「分身」を遠隔操作する

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<登場人物とエピソード>

オト 「組織」のボス 経歴不明

【BEATWAVE】
大神コハク C大学 商学部金融学科2年
https://note.com/trec001/n/nec99ec4e5432
中村咲耶 C大学 法学部政治学科2年
https://note.com/trec001/n/ncda10af219c7
高見隼人 C大学 経済学部経済学科2年
https://note.com/trec001/n/n1ae615e16433
最上ひな C大学 総合政策学部政策学科2年
https://note.com/trec001/n/nd6f832fe48a4
今井風太 C大学 経営学部経営学科1年
https://note.com/trec001/n/na561974d8f62

【放送研究会】
佐々木あんね C大学 文学部心理学科2年
https://note.com/trec001/n/n9c5e05ed4bc4
森 ウカ C大学 情報学部情報学科1年
https://note.com/trec001/n/n9c5e05ed4bc4
葛城 結 C大学 理工学部生命科学科1年
https://note.com/trec001/n/n67c2be17669c

岡田ダン C大学 情報学部教授
https://note.com/trec001/n/nc5751b386939


【DNTFMT(ドントフォーマット)】
https://note.com/trec001/n/nbe0dddb67f3e
Vocal Torika
Guitar 弁天
Bass カルマ
Drums コンガ

※この小説は『CryptoNinja』(https://cryptoninja.space/)の二次創作です。

#バーチャル #学園祭 #俺のタピオカミルクティー

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