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ネクタイ(ショートショートシリーズ)

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「ネクタイ」がキーとなるショートストーリー集です。
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真夜中過ぎのタイトルマッチ(仮題)

真夜中過ぎのタイトルマッチ(仮題)

「それじゃあ、お疲れさまでした。」
「今日はどうもありがとうございました。」
「いや、こちらこそ。久しぶりに楽しい飲み会でしたね。」

 僕らは居酒屋の前で、そんなやりとりや軽い冗談を言い合って三々五々散った。
 かつて一緒に仕事をした仲間達が、久しぶりにみんなで集まって飲もうということになり、電話とファックス、メールでお互いのスケジュールを調整しあって、やっと全員が集まることができたのだった。

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企画会議

企画会議

 ストーリーは突然始まる。

 なんか、一昔前のドラマ主題歌のタイトルみたいな書き出しだな。

 別にドラマ性があるかないかは別として、物語の発端は、日常の中に散らばっていて、それを拾って、並べただけでも、ちょっとした物語ができあがる。ただ起承転結の組み立て方や、言葉選びを工夫したり、ほどよくスパイスをブレンドしたりすると、なんとなく面白いものになるわけなんだけど、この「面白くする」というところが

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練習問題

練習問題

◆ 次の状況を想像して設問に答えなさい ◆

<条件:あなたは[僕]です。(女性の場合は男性の立場で答えなさい)>

 年に2~3回会って酒を飲むという、いわゆる異性の飲み友達(つまり女性)と半年振りに会うことになった。彼女も仕事を持っていて結構忙しい立場だから、約束はいつも週末になる。
 でも僕の方は週末が仕事のことも多いから、お互いのスケジュールを合わせるのはいつも1ヶ月くらい前から調整が必

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花束の代わりに

花束の代わりに

 革靴の中、つま先のところのほんの少しの隙間がやけに冷たく感じて、氷につま先を押し付けて歩いているような、とにかく寒さが足元から上がってくる夜だ。
 いつもより少し早く仕事を片付けた僕はコートの襟を立ててバス停へと歩いた。
 今夜はこれから酒を飲むから、クルマは置いてきた。
 ああ、こんなに寒くなるなんて。春遠からじという表現を反語として使うしゃれた言い回しはないものかと思った。
 木曜日の夜の7

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40-40(デュース)

40-40(デュース)

*これには前半があります。まずはそちらからどうぞ*

 クルマのトランクには、常にテニスラケットが入っている。
 数年前まではゴルフクラブのセットと靴が入っていたのだけど、なんか急にカッコ悪く思えてしまって、今では滅多に積まれることはない。
 スポーツセットと呼んでいる使いなれたデイパックの中には、Tシャツとハーフパンツとソックスとタオルが入っている。いつもジムに行くときに持っていくセットだ。これ

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15-15(フィフティーン オール)

15-15(フィフティーン オール)

 夜の繁華街、メインストリートに面したこの8階の建物のテナントはすべて飲食店で占められている。いわゆるスナックやバー、メンバーサロン、割烹などであり、火曜の夜とはいえ、どこもまあまあの客入りに見えた。
 景気が少し上向きだというのも単なる“まやかし”ではないかもしれない。
 僕らは先ほどから、この建物の5階にある店で酒を飲んでいる。夜の10時過ぎに仕事を切り上げて、部下を一人従えてオフィスを出た。

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卒業式の在校生(仮題)

卒業式の在校生(仮題)

 木造の講堂から聞こえてくる楽器の音が気になって気になって仕方なくなったのはいつからだろう。放課後校庭でサッカーの練習をしているときも、夏休みのプールの時も気になって、気になって。

 ピアノ、アコーディオン、ピアニカ、木琴、鉄琴、ティンパニー、シンバル、それから大太鼓、小太鼓、オルガン、チェロ、コントラバス、とにかく、いろんな楽器が一緒に同じ曲を何度も何度も繰り返して演奏している。
 3年生のと

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