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【書評】菊池秀明「中国の歴史10 ラストエンペラーと近代中国」(講談社学術文庫)

 4000年の悠久の歴史を誇る中国。今やアメリカと並ぶ超大国となった中国は、自らの歴史に高いプライドを持っています。

 一方、19世紀半ばのアヘン戦争以降の中国近代史は、中国人にとって極めて苦い記憶となっています。列強の侵略を受け、清の滅亡後も動乱が続き、日本との戦争によって大きな被害を受けました。

 本書は、日本とのかかわりも深い近代の中国史の概説書です。1940年のアヘン戦争から、1936年の西安事件までを範囲としています。

中国近代史の始まり

 中国の近代史は、清がアヘン戦争で敗北し、不平等条約を結ばされたことに始まります。とはいえ、「アヘン戦争=中国近代史の始まり」という歴史観は現在の中国政府の見解を反映しています。

「アヘン戦争=西洋の衝撃」というイメージは必ずしも当てはまらないことが解説されています。(詳しくは下記を参照のこと)

革命家たちの共通項

 20世紀の中国史は、多くの個性的なリーダーによって彩られています。

 辛亥革命の指導者・孫文、辛亥革命の後に独裁者となった袁世凱、孫文の後継者として国民党を率いた蔣介石、共産党で頭角を現した毛沢東などです。

 孫文と袁世凱、蔣介石と毛沢東はそれぞれ全く考えが違い、激しく対立しています。しかし、本書を読むと彼らの共通項が見えてきます。「組織の中で権力が自分に集中していなければダメ」という独裁的な性向を持っていたのです。

 共産党も国民党も、ソ連共産党を組織のモデルにしていたため、独裁色が強くなったという指摘もあります。20世紀の中国が混迷したのは、(日本をはじめとする列強の責任もありますが)妥協を許さない指導者が登場してしまったという事情もあるのです。

近代中国と日本

 近代中国史は、国民党・共産党のみならず各地の軍閥などが絡み合い、複雑な様相を呈します。それゆえ、敬遠されがちな時代でもあります。しかし、日本人として知っておくべき逸話も多くあります。

 日清戦争で敗れた清は、日本を近代化の手本として多くの留学生を送りました。しかし、少なくない日本人が清の留学生に対して差別的な態度をとり、留学生たちは反日感情を抱いて帰国してしまいました。

 一方、上海で「内山書店」を開き、魯迅とも親交のあった内山完造など、中国人に敬意をもって接した日本人も描かれています。

 政治的な対立はあるにせよ、隣国に対してどのような態度で接するべきか。現代に生きる私たちへのヒントも、本書に隠されている気がします。

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