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140字小説

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【140字小説】鬼(140文字)

【140字小説】鬼(140文字)

(22時か)

部長室の時計を見た私は静かにため息をついた。

報告書の調整にもう5時間。課長達も疲れ切っている。

「遅くなったな。終わりにしよう。後で指摘点を直しておいて」

部長が言った。

「明日の朝1番で直します!」

私は、そう言った後、安堵感に包まれた。

「え?俺が一休みする間に直すんだよ」

【140字小説】ステキなクラス替え(140文字)

【140字小説】ステキなクラス替え(140文字)

「孟!また、同じクラスじゃん」

「あー。また美波が一緒かぁ。迷惑だな」

「それはこっちのセリフよ」

美波は頬を膨らませた。

「今度は違うクラスかと思ってたんだけどな。高2まで同じだからな」

「いつもあんたが同じクラスにいるのって迷惑」

「なんでだよ」

「だって、孟がいると胸がドキドキするから」

【140字小説】届かぬ想い(140文字)

【140字小説】届かぬ想い(140文字)

「もう、終わりにしてくれ」

彼の口から放たれた言葉が、私の胸に着弾した。

胸の痛みで息ができなくなった。

「どうして?」

「わかっているだろ」

「私はこんなに好きなのに!他の女がいるのね?」

私は泣きながら叫んだ。

「違う」

「じゃあ何よ!?」

「僕は君のこと知らないんだ!付きまとわないでくれ!」

【140字小説】歓送迎会の落とし穴

【140字小説】歓送迎会の落とし穴

「おかえりなさい。今日の歓送迎会どうだった?」

「うん?まあ、たのしかったな」

「会場は?」

「会社近くのフランス料理屋」

「私もしってるとこ?」

「昔からやってる店だから知ってるよ。ビストロ◯☓」

「そこなら、一緒に行ったわよね」

「そうそう。その後ホテルに行ったんだ」

「え?それ誰との話?」

【140字小説】欲張りな彼女

【140字小説】欲張りな彼女

今日は異動の内示があった。

思いもしない異動に落ち込んだ。もう一年は今の所属で勤務できると思っていた。

さらに、来年度から今の所属に幸助が異動してくると聞いた。自分の異動以上にショックだった。

同じ職場なら、いつも一緒にいられるのに。

仕方ない。諦めよう。来月から二人は家では一緒だから。

【140字小説】彼からの手紙(140文字)

【140字小説】彼からの手紙(140文字)

今朝、彼から手紙が届いた。

彼からの手紙なんて初めてだ。

一昨日の消印。

開封すると、便箋には彼が書いた文字。

私へのプロポーズの言葉が書かれていた。

直接言葉で伝えるよりも、文字の方が私の心に届くと思ったみたい。

嬉しかった。涙があふれた。

でも、もう叶わない。彼は昨日事故で死んでしまった。

【140字小説】彼岸の報告

【140字小説】彼岸の報告

夫の墓前にいる。

「貴方がここに入ってもう1年ね」

夫との記憶を墓に向かって話した。

後ろから男性が私を呼んでいる。私は手を振った。

「大切にしてくれる人と出会えたの。喜んでくれるわよね」

私はそう言って後ろを向いて立ち止まった。

「あ、あの男性の奥さんは、あなたの不倫相手なの。いい気味ね」

【140字小説】やばい寝言

【140字小説】やばい寝言

親父が母と息子の私に話があると言ってきた。

「今まで話してなかったことがある」

家族に緊張が走る。

「俺、実は会社員じゃなく公安警察官なんだ」

「あーそれ?」

母も私も笑った。

「え?驚くだろ普通」

「知ってたわよ。私達」

「ん?」

「あなた、寝言で公安警察の事とか、捜査の事べらべら喋ってたわよ」

【140字小説】前頭葉の暴走(140文字)

【140字小説】前頭葉の暴走(140文字)

目が覚めた。長く寝ていた気がする。

ひどく頭が痛い。

起きてテレビをつけた。3月11日だと言っている。

嘘だろ。今日は9日のはずだ。3日間の記憶がない。

妻もいない。什器が破壊され家中めちゃくちゃだ。

ふらふらと洗面所に来た。

鏡で自分の顔を見た。

そこには坊主頭で額に手術痕がある自分がいた。

【140字小説】働き方改革の効果について(140文字)

【140字小説】働き方改革の効果について(140文字)

同期の結城と葛城が役所の食堂で昼食を食べていた。

「結城の課って仲良さそうでいいよな」

「え?うち?」

「事務室の前を通ると笑い声がよく聞こえるよ」

「ああ・・・」

「うちは、上がパワハラだからシーンとしてる。いいよなぁ」

「うちも同じ。それをごまかすために課長が笑い声だけ流してるだけだぞ」

【140字小説】アーマゲドン(140文字)

【140字小説】アーマゲドン(140文字)

それは真夜中だった。

尋常じゃない揺れが襲った。

飛び起きたが、とても立てないほどの揺れだった。

部屋の物全てがシェイクされているようだった。

俺は頭に衝撃を受け記憶が途絶えた。

どれくらい経っただろう。意識が戻り目を開けた。

板の上で寝ていた。誰もいない。あるのは赤く染まった海だけだった。

【140字小説】怖い2人

【140字小説】怖い2人

「すみません」

買物から帰ってきた美澄は、若い女性から声をかけられた。

「はい?」

「A不動産の井上です。アンケートよろしいですか?」

「ええ」

「何年こちらに?」

「5年かしら」

「治安は?」

「良いわよ」

「旦那さんは毎日遅い?」

「ええ」

「仕事ですか?」

「あなたがよく知ってるわよね。美優さん」

【140字小説】悪友

【140字小説】悪友

「勝也?悪い、ちょっと待合せに間に合わないわ」

「どうした?」

豊が電話にでた。

「腹痛くなって駅のトイレに並んでるんだけど、『大』のトイレが一つしかないのに誰かがこもってんだ」

「辛そうだな」

「すまん」

「気にするなよ」

「お前、今、どこ?」

「ん?駅のトイレ」

「は?この行列お前のせいか!」

【140字小説】逃避

【140字小説】逃避

「艦長。前方に潜水艦!」

「自軍か?」

「・・・。音紋を照合しましたが不明です!」

「魚雷発射管の前扉が開きました!」

「何!?」

「魚雷発射管に注水音!」

「艦長、魚雷戦用意を!」

「副長、味方かもよ?」

「そんなはずないでしょ」

「えー」

「艦長、判断を!!」

「追い詰めるなよ!パワハラだぞ!!」