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【救世主】 統失2級男が書いた超ショート小説

高校の同窓会で大量に酒を飲んでしまった井上浩司は帰りのタクシーの車内で嘔吐しそうになりながらも、何とか堪えて下車後は千鳥足で1人暮らしのマンションに帰宅した。トイレで嘔吐した後、口を水道水で濯ぎベッドに潜り込むと短時間の内に眠りに落ちる。そして、翌朝は二日酔いもなく頭の中はすっきりしていた。浩司はベッドの上で胡座をかいてスマホを操作している。昨晩は夢の中に出て来た見知らぬ子供が「これは木村良明の大事な電話番号です。覚えて下さい」と浩司にメモを見せ11桁の数字を20回も復唱させていた。目覚めた浩司はその数字を忘れる前にスマホの電話帳に打ち込んでいるのだった。

その日、仕事を終え帰宅した時刻は19時を過ぎていた。シャワーを浴びた後、浩司は興味本位で夢に出て来た11桁の数字で電話を掛けてみる。すると直ぐに電話は繋がった。「木村さんですか?」「はいそうです、私は木村良明と言います。あなたは井上浩司さんですね、お電話お待ちしておりました」木村と名乗った男は澱みなく答える。興味本位で掛けた電話だった。相手が「間違い電話ですよ」と答えれば、「失礼しました」と謝罪し電話を切るつもりでいたし、恐らくそうなるだろうとも思っていた。だから相手の返答には正直面を食らった。浩司が動揺して黙っていると木村が言葉を続ける。「井上さんの夢にお邪魔したのは私の10歳になる息子です。本来なら私自らが井上さんの夢にお邪魔すべき所でしたが、あいにく私にはそのような能力がありません。ですから息子に使いを頼んだと言う訳です」動揺が続いていた浩司はやっとの思いで質問をぶつけてみる。「僕にどういったご用件でしょうか?」「井上さんはこの国の救世主になられるお方です。しかし救世主と言っても井上さん自身が何かを成すべきとか、そういう類の救世主ではありません。井上さんは私の娘を妊娠させてくれるだけで良いのです。井上さんのその子供が将来この国を救います。つまり井上さんの子供もまた救世主なのです。そして、その子供を認知する必要もありません、その子供は私が責任を持って大事にお育て致します。井上さんは私の娘と1回、性交するだけで良いのです。幸い私共の一族の女は1回の性交で確実に妊娠する能力を備えております。勿論、謝礼はお支払い致します。100万円でいかがでしょうか?」浩司は益々、混乱するばかりだった。そんな浩司を落ち着かせるかのように木村は優しい口調で更に言葉を続ける「井上さん自身、お気付きになられておられないようですが、井上さんには特別な能力があります。それは特別な能力を持った子供を作るという能力です。私の頼み事が現実離れしている事も重々承知しております。ですから井上さんの夢に私の息子をお邪魔させた訳です。あのような非現実的な夢で私たちは繋がる事が出来ました。つまりこの話は非現実的に聞こえて、実は現実なのです。信じて頂けますでしょうか?」

3日後、浩司は木村の家に招かれ、うな重を食べた後に木村の17歳になる娘の真理江と薄明かりの部屋の中で性交した。性交が終わると木村が「この前、良いウイスキーを手に入れたんですよ」と酒の席に誘って来た。浩司は木村に好感を持つ様になっていたので、快くその誘いを承諾する。会話も弾み愉快な酒だった。しかし深く酒を飲んだ訳でもなかったのに、浩司は強烈な睡魔に襲われ早い段階で卓上テーブルに突っ伏して寝込んでしまう。すると木村は寝込んでいる浩司の背後に静かな動作で移動すると浩司の首に腕を回し、無表情のまま浩司を絞め殺したのだった。浩司の子供は受精した瞬間から強力な霊能力者だった。だが後々、浩司が他の女との間にも子供を作ってしまうと、新しく出来た子供に木村の孫に当たる浩司の第1子の霊能力が吸い取られ霊能力が分散してしまう。だから木村は浩司を殺したのだ。10ヶ月後、生まれて来た子供は男児だった。木村はその子供に葉糸と名付けて大事に育て上げた。葉糸は大学を卒業すると直ちに宗教法人を立ち上げた。それから26年後、葉糸は11人の弟子を内閣に送り込み、その内の1人は総理大臣を務めていた。日本は葉糸の支配下に入ったのです。

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