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恋と学問

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もののあはれとは何か?本居宣長「紫文要領」から読み解く、源氏物語の魅力と本質。
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#小林秀雄

恋と学問 第28夜、聖典から他者の心に達した人。

恋と学問 第28夜、聖典から他者の心に達した人。

今夜お話するのは、紫文要領の目次を作った時に一括して「補説」と名づけた、本論と結論の中間にある部分です。(岩波文庫版、151~162頁)

本居宣長はここで、源氏物語について言い残したことがないように、思いつくかぎりの論点を列挙しています。

補説1.栄華と物の哀れ
補説2.仏教・再論
補説3.人の情の本当の姿
補説4.物語中の迷信について
補説5.過去を想像する力

以上の5項目を、質疑応答の形

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恋と学問 第12夜、地獄に堕ちた紫式部。

恋と学問 第12夜、地獄に堕ちた紫式部。

時の流れは恐ろしいもので、かつて支配的だった価値観も、人知れずゆっくりと崩れてゆき、いつの間にか、ある人物の評価が正から負へと反転していたり、価値を失い忘れ去られたりするのは世の常です。

そう遠くない時代、マルクスはインテリの必読文献でした。肯定否定、どちらにせよ、一応は読んでおかなければインテリとはみなされませんでした。今は見る影もありません。むろんマルクスが変わったのではない。時代が変わった

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恋と学問 第7夜、江戸思想の大河。

恋と学問 第7夜、江戸思想の大河。

前回、紫文要領の「まえがき」についてお話した時、文中の「人をもて言を捨つる事なかれ」という強い口調が注意をひきました。誰が言ったかではなく、何を言ったかで主張の是非を判断して欲しい。現代の学問では当たり前とされていることでも、当時は相当の勇気が要る発言でした。

これはひとつの例に過ぎません。こういった、当時の常識なり通念なりが分かっていないと意味がよく呑み込めない場面は、今後も出てくることと予想

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恋と学問 第6夜、異様な「まえがき」について。

恋と学問 第6夜、異様な「まえがき」について。

今夜は、紫文要領の「まえがき」を読み解きながら、この文章の「異様な切迫感」は何に由来するのか考えてみたいと思います。(あとがきに相当する部分を冒頭に持ってきたことは前回を参照のこと)

まえがきは非常に短い文章ですので、いきなり全文を引用してみましょう。

右紫文要領上下二巻はとしころ丸が心に思ひよりて、此の物語をくりかへし心をひそめてよみつつ考へ出だせる所にして、全く師伝のおもむきにあらず。又諸

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