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1「チャックまに出会った日」 (11)

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■出会い その2「楽しい一日」

 チャックま の説明を聞いていたので、その二人がチャックま の友だちだということがコグマにはすぐわかりました。同じようについているお腹のチャックを見れば一目瞭然でしたし。チャックま がそれぞれの紹介をしました。それからみんなは取りあえずゴロゴロしながらおしゃべりをしました。何しろ気持ちのいい日差しでしたから、のんびりと日向ぼっこをするには最高の日でした。

「この辺の食べ物はどうなのかニャー」
さっそくファスニャンがコグマに訊きました。ファスニャンはこちらの世界に来る前に朝ごはんを食べたはずですが、昨日からこの世界の食べ物事情が気になって仕方がなかったんです。

「ボクはお魚とか小さいトカゲをよく食べるよ。おとうさんやおかあさんはシカさんみたいなもう少し大きな動物も獲ってきたけど、ボクには大きすぎて。お魚は上手くやればそこの川でもたくさん獲れるよ。あと樹の実はもう少し暖かくなって来たら、いろいろなものが採れるっておかあさんが言ってた」
「食べ物たくさんあるのかニャ!教えてくれればこの世界の食べ物も食べてみたいニャー!!」
ファスニャンはコグマの話を聞いて大興奮。いろいろ食べてみたいものが増えて、なおさらこの世界が好きになったみたいです。
「おとうさんとおかあさんが生きてたら、もっとたくさん教えてあげられるのにな」
コグマは残念そうに言いました。

お昼が近づいてきて太陽が高くなってきたので、気温が少し上がって少し暑いくらい。でもみんなが寝転んでいる草原には先ほどからそよそよと風が吹きはじめました。「気持ちがいいねぇ」みんなは口々に言いました。

「そうか、コグマは一人きりなのか」
ジッパンダがコグマの話を聞いてうなずきました。昨日様子を見ていてみんなが想像した通りでした。
「その人間ていうのはひどい奴らだな」
「うん、ボクのおじいさんも人間に殺されたって言ってたよ。でもおかあさんは人間に近づかなければ怖くないとも言ってたんだよ。おとうさんとおかあさんは分かっていたのに、なんで近づいちゃったのかな」
「そうだね、難しい問題だね…ボクたちも当面は人間たちに近づかないように気をつけよう」
チャックま が言いました。

実はチャックま たちが他の世界に出かけていって、その世界の人間みたいな存在に出会っても不審がられたことはありません。ですので人間に会うこともそれほど心配していませんでした。でも友だちになったコグマの気持ちを考えて、この世界ではしばらく人間には近づかないことにしました。
「おとうさんとおかあさんは死んじゃったけど、ボクたちもいままでウサギさんやシカさんやイノシシさんを殺して食べてきたから…しかたないのかもしれない」
コグマはお父さんとお母さんがいなくなってしまったことを、何とか納得しようとしているようです。

「ところで」ジッパンダが話題を変えました。「コグマはチャックま にそっくりだけど、どうしてだろうね」
「ボクにはそっくりって言われてもよくわかんないけど…ボクとチャックま が似ているとしたら、ボクのおとうさんとおかあさんにも似ていると思うしなぁ。くまとチャックま が似ているっていうことかなぁ」
コグマは自分の知っている精一杯の知識で考えて言いました。
「ジッパンダの姿のことはわからないけど、ファスニャンの姿は猫に似ているよ」
「ネコ!?それはどんな動物ニャー!」
「すばしっこくて、身体がやわらかいの。木の上とかにすぐ登っていっちゃったりするの」
「なんだかファスニャンの日頃の行動に似てるな」
ジッパンダが笑いました。ファスニャンも高いところが大好きだったので、昨日もチョコチョコ木登りをしていたのです。
「この辺りにも時々いるから、みんなもすぐ会うと思うよ」
コグマも笑って言いました。

 ファスニャンを筆頭にこの世界のことをもっと知りたくなった三人は、今日はお仕事を(一応)お休みということにして、コグマと一緒に森の中を探検することにしました。コグマも住んでいた丘以外の場所のことはそれほど詳しくありませんでしたし、チャック族の三人はもちろん何も知りませんでしたからね。

 いい天気でポカポカ陽気、気持ちのいいそよ風が吹いている今日は絶好のお散歩日和。あちらの樹が気になれば寄っていって樹の実を調べたり、川があれば入って魚を獲ってみたり。チャックま が転んでひっくり返るとお腹からりんごが出てきた時もありました。(もちろんみんなで美味しくいただきました。)気ままにその辺りを散策してみると、この辺りは本当に良い場所だということが分かってきました。

「景色もきれいだし、何より草の香りが気持ちいいねぇ」
「これからはここを拠点に仕事したり遊んだりしてもいいな」
「食べ物もたくさんあってウマいのがいいニャー!」
 そんなことを言っていると、気づけばアッという間に夕方になっていました。そして一日一緒に過ごしたお蔭で、もうずいぶん昔から四人の仲間だったような気がするほど仲よしになっていました。

「さて、そろそろ帰るか」
ジッパンダがみんなに声を掛けました。
「コグマはお家あるのかな?」ジッパンダが言うと、
「この辺りが全部お家みたいなものだから」とコグマは答えました。
「本当に?」チャックま がコグマの顔を覗き込んで訊くと、コグマはコクリとうなずきました。
「明日またここに来るから、一緒に遊ぶニャー」ファスニャンは楽しそうに言いました。

 チャック族の三人が難しそうな顔をして何やらブツブツ言っていると、朝と同じようになにもない空間にフワッと大きなチャックが現れました。
「じゃあ、またね!」
 ジッパンダとファスニャンがチャックの中に入っていきました。最後チャックま が振り返って、コグマのことを少しだけ長く見つめてから中に入ると、大きなチャックは勝手に閉じました。そして、何事もなかったかのようにフワッと消えました。

12・完 につづく

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