記事一覧
「天使のきもちになって」
人の時間はいいかげんだ。のびたり縮んだり、弛んだり、錆びたり、乾いたり、みじめでまじめで、際限なく自由で不自由で、そして俺たちはなんとなく、人の時間の外側に、もうすこしちゃんとした時間があるんじゃないかと、そんな気がしている。そいつが、できれば世界とか歴史とかそんなみみっちいものじゃなく、もうすこし清潔で柔らかいものだったらいいと俺は思う。なんとなくそれを天使と呼んでみる。
人の頭はいいかげんだ
地球儀を自転車にのせて 第四回「ワールドターニング」
地球儀を自転車にのせて
木村太郎
第四回「ワールドターニング」
きみは、いつもいつも。時を止めようとばかりしているね。ヒトの欲。ヒトの形。ヒトの頭。遠慮なくごりごりと音をたてて回る地球。どでかい土の塊。その摩擦。噛み潰すように筆を走らせる。その摩擦。不細工な詩人たちは、時を俎にたたきつける。打刻。その摩擦。熱、水蒸気のように立ち上る幻覚。咳き込んだのは誰だ。俺じゃない。俺だったらいいのに。 もっとみる
地球儀を自転車にのせて 第三回「やさしい人」
地球儀を自転車にのせて
木村太郎
第三回「やさしい人」
そんなに熱心なファンではないけれど、サウナは好きだ。というか水風呂が好きだ。冷たい水が大好きだ。水道水だって、いつもがぶがぶ飲んでいる。
水はなんというか清潔な感じがいい。雨とか川とか、風呂を磨くときとか。漱石の何かに出てきた花瓶みたいなやつの水とか。海の良さはまた少し違うけれど、でも海もたまにそういう感じになる日がある。
そういう もっとみる
地球儀を自転車にのせて 第二回「火星の暮らし」
地球儀を自転車にのせて
木村太郎
第二回「火星の暮らし」
ピカデリーだったか、バルト9だったか忘れたけど『ボヘミアン・ラプソディ』はペドラザの足立と観に行った。
映画は好きだけど、シネコンなんて年に一度も行かないものだから妙に気合いが入ってしまう。デートだねえなんて笑いながら、コーラを買ったり、ポスターの前で写真を撮ったり、浮かれていた。
暗くなって、おしゃべりを止める。正直ちょっとな もっとみる
地球儀を自転車にのせて 第一回「オレンジ」
地球儀を自転車にのせて
木村太郎
第一回 「オレンジ」
このあいだ、マイアミパーティのさくらい君と神宮辺りを散歩した。
病的に真っ白な本屋の地下で、彼が読みたがったサリンジャーと、俺が好きなジョイスの短編集を買ってあげた。彼は川上未映子と森絵都をくれた。蛍の光が流れるレジで、今日もいちにち暇だった学生風の店員は、存外愉しそうに4冊分のカバーを付けてくれた。1冊は端が折れていた。
さくら もっとみる