「メリーのはなし」

メリーのはなしは沢山あるんです。メリーとの付き合いはもう7、8年になるかしら僕はバンドをはじめたばかりの学生とかでこれはすごい曲を作ってしまったぞと妙正寺川沿いのちいさな公園のブランコの裏のベンチでボイスメモをききながら悦に入ってたのをよく覚えています、あの公園には細いまま背の高い針時計があってそれはだいたい2時とか3時とか4時とかを指していてすべり台にはミニーマウスのでかいぬいぐるみが置き去りにされていたりペヤングがひっくりかえったりしていて俺はそれらが見えるそのベンチがお気に入りで、他のベンチにはまたそれがお気に入りの誰かしらが座っていた。俺は微睡みのなかにいた。でももう目を覚まさなくちゃ。

メリーはmarryではなくmerryでつまりメリークリスマスのメリーです。「Merry me, Merry you!!」っていうのは、そんな言い方は英語にはたぶんないんだけど、メリークリスマス!って言うみたいに、僕や君がまるっきり祝福されたらいい。きっとそれはとてもいい。そうするしかないと思って、それは他の言い方ではできない祝い方だったので、そういうのを自分で作ることにしたのでした。まるっきり、まるごと、ってのが大事です。肝心かなめなのです。

そもそも言葉というのは切り取るためにあるものなので、まるっきりまるごとを表すのにぜんぜん向いていません。だから例えばあなたのこういうところが好きだなんて言えば言うほど嘘みたいになってしまうもので、だから何も言わず抱きしめるぜとか、言葉にならないラララ的なものが世のなか奨励されているわけですが、しかしそれでもまるっきりを言葉にしてみたいわけです。そうしないとどこにも行けなかった。まるっきりを肯定したい、そういう祈りの込もったうたです。

わけのわからない日々、息をつける場所はあの公園くらいのもので、それから色んな人に出会ってどうにかこうにか俺は生きてる。あのときは考えなかったけど、微睡みながら呼びかけた「きみ」はどうせきっと自分のことだったんだろう。目を覚さなくちゃ。でもじゃあ呼びかけたのは誰なのでしょう、願わくばこれからは僕が彼になって、また他の誰かのためにうたっていきたい、そしてその誰かがまた誰かのためにうたってくれたら、そんなことを想像しています。

東京パピーズ 木村太郎

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