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雑文

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ウソ話以外の文章
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原風景

原風景

神戸の下町。
高度経済成長期の吹き溜まりのような町。工場の粉塵と運河からただよう澱んだ水のにおい。

当時は公害指定区域で、空気はいつも濁っていたように思う。シュトルムに「灰色の町」という故郷を描いた詩があって、その詩に描かれた町と自分の住んでいた町を長い間重ねていた。詩をノートに写し、ことあるごとに開いて読んでいた。
町を南へ行くと地図上ではすぐに海なのだが、母の時代には歩いて泳ぎに行けたという

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5年目の雑感というか要望

ああnote5周年なのか。もう5年…というよりまだ5年しか経ってないんだなあ。書くのを再開して5年、怠け者の私としてはわりと頑張った感ある。
ひっそりと書いただけでも誰かに読んでもらえて(最初ユーザー少なかったしランダムボタンもあったし)、おかげで少しずつ書くのにも見られるのにも慣れることができた。お世話になりました。
一から始めるには悪くない場所だと思う。ただ今は発掘する/される機会が減ったから

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鳥の執筆環境

「わたしの執筆環境、あなたの執筆環境は?」
という記事を目にしたので。

ハードはWindowsパソコンとiPhone。iPhoneが充電中はiPadを使うことも。

ソフトはSimplenote というテキストエディタを使ってます。Wordも一太郎も入っているというのに(散財……)、どうしてもこの無料ソフトに戻ってきてしまう。読むのは縦のほうが好きでも、このソフトのおかげで書くのは横でも苦にしな

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アルプス席の思い出

アルプス席の思い出

もうはるか昔のことだけれど、母校が甲子園出場した。

創部3年目の公立校が地区準決勝まで勝ち上がった快挙から、春の選抜大会に出場が決まった。私が高2の秋のことだ。学力を上げて何らかの実績をつくりたがっていた新設校だったから、先生方は沸き立った。学校近くでは「甲子園出場おめでとう」の横断幕がかかった。
新設校ゆえグラウンドにはまだバックネットもなくて、急きょ野球部のための設備が整えられた。卒業生がま

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鼬

小山田浩子『穴』を読んだ。芥川賞受賞作とは知らずふと手に取って大変感銘をうけた小説なのだがその話ではなく。
この本に収録されている『いたちなく』という短編を読み、古い記憶で頭がいっぱいになったのだった。「いたちなく」は漢字をあてると「鼬鳴く」。ネコ目イタチ科イタチ亜科イタチ属の動物のことである。



私が小学校まで住んでいたのは、緑のまったくない工業地帯だった。戦後に建てられた長屋などが残る、

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地味めなおすすめ映画

地味めなおすすめ映画

hoshichikaさんの「みんなにおすすめ教えます」企画に乗って、ちょっと昔の、それほどヒットしなかった、でも大好きな映画を3つ紹介します!



『クイズ・ショウ』 (1994年)

(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/B000CFWNBM

マイベスト1位と聞かれたらもうずっとこの映画です。実際の事件をもとにした、どちらかと言えば地味なテーマなのですが

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図書室の記憶

大昔に読んだ庄野英二の童話集「海のメルヘン」を無性に読みたくなって、「庄野英二全集 4」を古本で購入した。とうに絶版で、単品は図書館でも見つからない。これは今のうちに入手しておかないと完全に失われてしまうぞと、慌てて検索して「海のメルヘン」が収録された一冊がこれだった。当時の価格より四割増しだったけど、六冊分の内容で状態も良いのでよろしい。まだ読んでいないけど、手に入っただけで満足している。ゆっく

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ハイパーノートチャレンジ…とは?

先日、とつぜんtamitoさんに呼び止められ、ひとつのバトンを渡されました。「ハイパーノートチャレンジ2015」というそのバトンは、noteに持ち込まれたばかりで、まだピカピカの新品。

ひところ流行った創作バトンなら知っているけど、この見慣れないバトンは何ぞや、とtamitoさんのノートをたどると、ライターさん界隈で流行っているとこんぴゅさんが紹介したのがはじまりで、バトンはまだ、林伸次さんから

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グレープ・ジュース

グレープ・ジュース

まだ九月は半袖の時期なのに、今年の夏は早仕舞いしてしまった。様子見していたが、戻ってくる気はなさそうである。夜が更けると寒いほどだからと羽毛布団の準備までしておきながら、カレンダーの九月という文字に圧されて秋物を出すのは躊躇している。服装と季節感を結びつけるのは窮屈でやめてしまいたい。米国のドラマなどノースリーブを着てる隣が毛皮のジャケットだったりする、あのくらい自由にモノを着たい。どうせ気候はこ

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辛味もほしい。

なにやら遠くでざわついているようで。

事情は薄ぼんやりとしか聞こえないので何も言えませんが、自分で普段思うところを書いてみたくなりました。note一周年にかこつけて、たまにはここで吐き出してみてもいいかと。(何にもかこつけてないが)

作品への批評って、ナーバスな話題なのか。
遠くの騒ぎを耳にしながら気付いたことでした。なんとなく合点がいきました。

私は学生時代に創作のクラスを取っており、授業

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おはなしのたのしみ

二人姉弟で、弟とは九つ違い。
だから弟が生まれた時のこともはっきり覚えているし、母の留守の間は私が子守でもあった。
弟が幼稚園くらいまで、夜は本を読んで寝かしつけていた。母が読むこともあったが、後半はたいてい私の役目だった。
母が保育士だったこともあり家には絵本がたくさんあった。時々は私の持っていた本も読んだ。出鱈目にその場で作ったお話を聞かせたこともある。どうせ途中で寝入ってしまうので、顛末とか

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私の30選

フォローした人のリストって自分の本棚に似てる、と言ったらけっこう同意の声があがったのだけど、何に限らず、選ぶという行為はその人を表す。他人の本棚は面白い。
先日yosh.ashさんが読者アンケートと称してご自身の50選をどーんと並べておられたが、知らないタイトルでもそれはそれで興味深い。自分の愛読者を見つけたら嬉しいし、苦手な本が含まれてたらそれは、その本(あるいはその人)の再評価のきっかけになる

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原風景

神戸の下町。
高度経済成長期の吹き溜まりのような町。工場の粉塵と運河からただよう澱んだ水のにおい。

当時は公害指定区域で、空気はいつも濁っていたように思う。シュトルムに「灰色の町」という故郷を描いた詩があって、その詩に描かれた町と自分の住んでいた町を長い間重ねていた。詩をノートに写し、ことあるごとに開いて読んでいた。

町を南へ行くと地図上ではすぐに海なのだが、母の時代には歩いて泳ぎに行けたとい

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