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ドラマ『重版出来』から見る「クリエイティブとビジネスのはざま」の正体とは?

2016年春クールに放映された漫画原作のドラマ『重版出来』。

まずはじめに、社長役の高田純次が一切おちゃらけなしでカッコよかった。

以前に2話まで鑑賞していました。あまり展開が面白くないと思っていたのですが、同僚が「面白かった」と言っていたのを小耳に挟み、再度検証を行いました。
そしたらどうなったか。はい、泣きました。最終回は素晴らしかったです。

本題に入る前に所感を少し綴ります。

何事にもまっすぐな新人編集者・黒沢心(黒木華)が主人公。怪我により柔道を引退した黒沢は大好きだった漫画の編集者になります。編集者として、漫画家や同僚の編集者と真正面からぶつかっていく、という王道ストーリーです。まさに猪突猛進。このようなありきたりな主人公の場合、脇役たちがより際立ちます。

特に心に残るのが、三人。安田顕演じる安井、永山絢人演じる新人漫画家・中田、小日向文世演じる三蔵山です。

安井は、過去のある一件から冷徹に漫画が売れること最優先に考えており、漫画家を売るための道具のように扱っていました。当然、アツい猪である黒沢と衝突します。
良かった点は、安井が黒沢に影響されて熱血になる、なんてことにならなかったこと。安井はあくまで冷徹を貫きます。そこには、誰にも負けない愛がありました。
他人のすべてを受け入れることはできなくても、認められる部分を尊重することはできるのです。

中田は、絵が下手だけれど独特の世界観を持つ期待の漫画家見習い。彼は、暗い性格で、人付き合いが苦手で、誰よりも不器用で、世界が狭いけれど、どこまでも無邪気で素直です。まるで子どものような存在。中田は、他人に興味がなく、自分の描きたい漫画だけを書いていたいと願っています。
他人は無視して、自分のやりたいことだけを追い求める、って実はとても難しいですよね。彼の無邪気さが画面越しから、私にこう問いかけます。
「君は何のために生きているの?」
答えはすぐに出ませんが、この問いに即答できるようになりたいと感じました。

三蔵山は『こち亀』並みの長編シリーズを手がけるベテラン漫画家。一時期は、“オワコン漫画家”と呼ばれて、前世紀の遺物のような評価だったが、見事復活を果たして、その後の物語では若い人たちの案内人として存在します。最終回、三蔵山先生の壇上での言葉は胸に迫るものがありました。

クリエイティブとビジネスのはざま

前置きが長くなりましたが、本題に移ります。テーマはクリエイティブとビジネスのはざまです。漫画『バクマン。』では、発行部数や売れなくて消えていく漫画家の話はありましたが、ビジネスツール“漫画雑誌”の側面はありませんでした。

漫画家はまさにクリエイティブな作品を生み、人々に喜びや感動を与える役割です。一方で、編集者(出版社)は、漫画家の伴奏者という側面ももちろんありますが、漫画雑誌という媒体で漫画を商品として扱い、利益を得なければなりません。

その象徴が、安井が変わってしまった一件です。まだ本作を見ていない場合は、これ以降ネタバレを含むのでご了承ください。

その一件とは、売り上げが伸び悩んでいた漫画雑誌が上層部の決定で廃刊になったことです。ここで“雑誌は誰のものか”ということを考えてみてください。

作家のもの? 編集者のもの? 違います。
読者のもの? それらしいですが、違います。
間違いなく会社のものです。続けるも辞めるも会社に決定権があります。

コンテンツを作るのは作家です。作家は、当然ながら第一に質を追求します。けれど、質を上げれば上げるほど、売り上げにつながるかといえば、そうとも限りません。会社はあくまで商売なので利益が優先です。利益のない赤字事業は、明確な意図がない限りは切り捨てるしかありません。慈善団体とは違います。

つまり、あることを生みだすクリエイターと、商売で成功を目指す営利組織は必ずしもイコールで結べないということです。

実際に、私が属する企業でもこのことが露見されています。Webエンジニアは生み出したサービスをしっかりとケアして質を上げてより良いものにしていきたいと思っています。けれども、企業側は開発してみても思うような成果が得られなければすぐにクローズするか、コストをほとんどかけずに維持しようとするかです。実際に、私が属する企業でもこのことが露見されています。Webエンジニアは生み出したサービスをしっかりとケアして質を上げてより良いものにしていきたいと思っています。けれども、企業側は開発してみても思うような成果が得られなければすぐにクローズするか、コストをほとんどかけずに維持しようとするかです。
私はエンジニアではありませんが、開発に関わっているため前者の気持ちが強いです。

これが、タイトルで示したクリエイティブとビジネスのはざまです。
このはざまに橋をかけて、お互いを往き来できるようになれないものでしょうか。

『重版出来』の話に戻って1つのエピソードを取り上げます。

連載を勝ち取った中田でしたが、作品にのめり込んでしまった挙句にアシスタントや黒沢と不協和音状態に。黒沢は中田の作品を売るためにいろいろな施策を用意しますが、中田は自分のために描いていたいと心を閉ざします。

いち視聴者として感じたことは
「何甘えているんだ。会社がなければ、雑誌がなければ、連載できないだろ。自分のために描いていたいのなら最低限の協力はしろ。どうしても自分のためだけならブログでアップしてろ」
でした。

先ほどクリエイティブ側の目線に立っていた自分が、企業側の立場で感想を抱いていたのです。自分は何て都合の良い人間なんだろうと思いました。
でも、もしかしたら重要なのは意見が替わったことではなく「軸」がなかったことなのかもしれないと思ったのです。

ちなみに、そんな中田に対して、黒沢は決して私が抱いた感情のことは言いませんでした。中田の立場に寄り添おうとしていたのです。

クリエイティブとビジネスのはざまができたとき、自分の立場と思想から「軸」を置き、その上で他方に目一杯寄り添ってみることが大事なのではないかと思いました。軸は、RPGゲームで言う“セーブポイント”です。

「クリエイティブだから」「ビジネスだから」と自分の意見や主張だけを押し付けてはいないですか? 私はしていました。

この押し付け合いが“はざま”の正体ではないかと思うのです。
私は、ハシゴをかけて渡ってみようかと。
どうしてもダメだったら戻ってきます。

もし、あなたも分かり合えない人がいれば、全力でその人の立場になりきってみたらいかがでしょうか。

最後に。
三蔵山が漫画賞の受賞パーティーでご老体にして新作漫画を発表したときに興奮と涙が止まりませんでした。

進化を続ける人間に、私もなりたい。

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