【コラム】『しのぎを削った好敵手Part2(水戸、栃木、群馬、大宮)』~2022年にJ2で対戦して印象に残った選手~

2022年にファジアーノ岡山と対戦して個人的に印象に残った選手を全チーム1選手ずつ紹介していきます。Part2(全5回)

Part1はこちら


水戸ホーリーホック

DF黒石貴哉

クロスの重要性を語られる機会は少ない。しかし、僕は中学2年生から高校3年生までサイドを駆け上がってクロスを放り込むタイプのSBだったから、個人的にクロスには注目している。

5月4日に行われた第14節・ホームの水戸戦(〇2-1)に右SBで先発した黒石は右サイドからのクロスで椿直起の得点をアシストした。そのクロスがとても素晴らしいものだったため、強く印象に残っている。

67分に投入された左SHの椿が果敢にドリブルを仕掛けてきたことで、岡山は自陣で守る時間が続いた。水戸が左サイドを起点に攻めていく中、89分に左サイドから右サイドに展開し、駆け上がってきた黒石が1タッチでDFとGKの間にクロスを流し込んだ。インサイド(足の内側)でしっかりと面を作ってインパクトした鋭いボールが岡山のDFとGKが届かない絶妙なコースに飛んでいき、ファーサイドに走り込んだ椿の得点を演出した。

クロスを見る(蹴る)ときに意識している(た)ことが3つある。それはコース、タイミング、スピードだ。どこにクロスを蹴り込むのか、どのタイミングで放り込むのか、どのスピードのボールを流し込むのか。相手がいない、届かないところに蹴り込む。相手が跳ね返す準備をする前に放り込む。相手が触れない、かつ、オウンゴールを誘発することができる速いボールを流し込むクロスから得点が生まれやすいと考えている。黒石がアシストをマークしたクロスは3つのポイントに当てはまるものであり、理想的なクロスだった。


栃木SC

MF大森渚生

器用すぎる。

2022シーズンが開幕して間もない頃、第3節・アウェイの栃木戦(△1-1)で初めて大森のプレーを見たときに抱いた感想だった。すぐに選手名鑑を開き、大卒ルーキーということを知って驚いたことを覚えている。

左利きの選手で止める、蹴るの基礎技術が高い。東京Vユース育ちに納得したが、彼が印象に残ったのは戦術の要になっていたこと。3バックの左で先発すると、試合中に左SBに変化する。当時の栃木は攻撃時と守備時でシステムを使い分ける戦術を採用していて、大森がポジションを変えることがシステム変更のトリガーだった。

テクニックのある選手を後方に配置して、ビルドアップを円滑にしていく狙いがあるのかと思ったけれど、プレー強度も出せる選手だった。相手のアタッカ―に対して、激しく身体をぶつけてゴールを守るために戦うことができる。ただのうまい選手ではないからこそ、時崎悠監督が信頼をしてディフェンスラインに置いているのだろう。

ボランチでもシャドーでもプレー可能で、第27節・ホームの栃木戦では左WBとして先発していた。前線、中央、サイド、後方とあらゆるところでプレーできる。うまさだけでなく、現代サッカーに必要な強度をもつ。今後が楽しみなマルチロールだ。


ザスパクサツ群馬

MF長倉幹樹

ポテンシャルの塊だ。

8月28日に行われた第33節・アウェイの群馬戦(〇0‐1)では右SHとして先発すると、推進力を発揮して岡山のゴールを襲った。浦和ジュニアユース、浦和ユース、順天堂大学を経て、今年から加入した東京ユナイテッドFC(関東1部)では、9試合で8ゴール4アシストと大爆発。そして、同年8月に群馬に加入した。試合前は浦和の下部組織を指導していた大槻毅監督の秘蔵っ子かと思ったが、そんな色眼鏡は必要なかった。

右サイドをぐんぐんと縦に突き進む馬力のあるドリブルとシュートセンスをもつ長倉は、群馬に加入して、Jデビューから1カ月を待たずして既に攻撃の中心を担っていたように見えた。右サイドからタイミングよく下がって縦パスを引き出し、簡単に味方に落とす。ポジションを微調整しながら、それを繰り返す。パスワークのリズムを作りながら、攻め込んでいくと、チャンスシーンではゴール前に入っていきシュートを放つ。自分をフィッシャーの位置に持っていける能力があり、それをデビューしたばかりのJ2の舞台で発揮していた。また、ヨルディ・バイスを振り切ってPA右からシュートを放った40分のシーンは、堀田大暉の好セーブがなければ、得点になってもおかしくないものだった。

負傷もあって6試合の出場に留まったが、2得点を決めてチームの残留に貢献している。さらに怖い選手になって、岡山の前に立ちはだかる来年の姿を想像してしまう。相手チームの選手なのに、成長を楽しみにしている自分がいる。それだけ印象に残っている。


大宮アルディージャ

DF栗本広輝

異色の経歴に磨きがかかった。

順天堂大、ホンダFCでプレーした後、米国のメジャーリーグサッカーを経て、今年に大宮に加入した。31歳でJリーグの舞台にやってきた栗本のデビュー戦(第6節大宮0-1岡山)は記憶に残るものになった。

先発した南雄太、途中出場した上田智輝が相次いで負傷してしまい、ベンチにはもうGKがいない。類を見ないアクシデントに陥った霜田正浩監督は栗本にゴールマウスを託した。

GKが2人ともプレーできなくなるケースは極めて珍しい。ベンチの控えGKは1人ということが常識のようになっている。今シーズンはコロナ禍の影響を受けたチームが登録人数の問題で複数のGKをベンチに入れるケースがあったけれど、イレギュラー中のイレギュラーであることは間違いない。そんな不測の事態の中で、栗本は上田のユニフォームを着て、キーパーグローブを身に付けて67分からGKとしてプレーした。0‐0は緊迫した状況で、後半の終盤に差し掛かろうとしていたため、次の1点が勝敗を左右する。GKが重要な役割を担う試合展開だったけれど、栗本は慌てるそぶりを見せない。しっかりとゴールキックを蹴り込んで、GKとして再び試合に入った。そして、71分、左サイドから抜け出す宮崎幾笑を狙った徳元悠平のロングパスに対して、ゴールマウスから飛び出してしっかりとキャッチ。徳元のパスが長くなるという判断の下によるプレーだった。

この先、デビューを飾ったフィールドプレーヤーの選手がGKとしてプレーすることがあるのだろうか。米国を経由してJの舞台にやってきた経歴が珍しさに拍車を掛け、記憶位刻み込まれた。

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