【コラム】『しのぎを削った好敵手Part1(岩手、仙台、秋田、山形)』~2022年にJ2で対戦して印象に残った選手~

2022年にファジアーノ岡山と対戦して個人的に印象に残った選手を全チーム1選手ずつ紹介していきます。Part1(全5回)

いわてグルージャ盛岡

MF奥山洋平選手

僕が知っている“洋平くん”なのに、同じ中学校のサッカー部でプレーしていた頃とは異なるプレースタイルでJの舞台を駆け抜けていた。

今から9年前、僕が入部した岡山市内の公立中学校のサッカー部に、洋平くんがいた。1つ上の先輩で、とにかくうまい。ボランチやトップ下を主戦場とし、タッチの細かいドリブルで踊るように相手を翻弄し、正確なスルーパスで相手の陣形を切り裂く攻撃の中心選手だった。テクニカルかつ創造的なプレーで攻撃をけん引する“洋平君”に抱いていた憧れの気持ちが懐かしい。

“うまい”洋平くんは“速い”洋平くんになって、Jリーガーとして活躍していた。3月20日に行われた第7節の岡山VS岩手、71分からピッチに登場した洋平君は爆発的なスピードでピッチを切り裂いていく。岡山の選手が対峙しても、構うことなく縦突破を狙う強気なドリブルを何度も仕掛ける。局面を打開する、自分の存在価値を示す強い意志を感じたし、誰よりも必死で、全力でプレーする姿がそこにはあった。

リーグ序盤で対戦してから5カ月後、再び対戦した第30節。そこでも洋平君は変化していた。スーパーサブではなく、局面打開を任せられた岩手の槍となっていたのだ。さらにスピードに磨きが掛かり、ゴールに向かっていく推進力もアップ。そして、41分にカウンターから得点を決められる。走力で決定機を作り出し、GK堀田大暉の股間を抜くシュートでネットを揺らした。ゴール前での冷静な判断とGKのタイミングを外した股抜きシュートは中学校の頃に感じていた“うまさ”を彷彿とさせるものだったし、“うまさ”と“速さ”を兼ね備えた彼から大きな脅威を感じた。

“うまい”洋平くんは“速い”選手になってプロサッカー選手のキャリアをスタートさせた。そして“怖い”選手になり、ファジアーノ岡山に立ちはだかった。


ベガルタ仙台

MF氣田亮真選手

僕は2年前から彼を知っていた。

初めて1人で行ったアウェイゲームは、2020年の長崎戦。0‐5で敗れるという衝撃的な試合で、長崎の強さや手も足も出せなかった様子を今でも覚えている。圧倒的な力の差を感じた当時の長崎の左サイドに氣田がいた。優れたテクニックと切れ味の鋭いドリブルという武器をもち、堂々とプレーする大卒ルーキーの彼を“バイタルエリアの申し子”として僕の中の辞書に登録した。

あれから2年経ち、着用するユニフォームが青色から黄色になっても、氣田は脅威を感じる選手だった。左サイドでボールを持つと、縦にも突破できるし、中にも切れ込んでいける。 僕はドリブルで局面を打開できる選手に怖さを感じる傾向にあるんだけれども、より大きな脅威になったのは、彼のドリブルが目的ではなくてゴールを決めるための手段だから。

ドリブルをしているときに顔がしっかりと上がっていることで、周囲の状況を確認できている。そのため、対面する相手を突破した方が良いのか、引き付けて味方にパスを出した方がいいのか。ドリブルをしながら、チームとして得点を取るために最適な判断を下すことができる力が印象に残っている。相手を抜き去るだけでなく、味方の上がる時間も作れるし、キープ力を生かしてボールの収まり所にもなれる。

あらためて、ドリブルがもつ大きな効果を確認できたし、ゴールに向かって仕掛けられる選手は脅威だと感じた。


ブラウブリッツ秋田

FW齋藤恵太選手

181cm71kg、選手名鑑に記載されている数字以上に強靭な肉体の持ち主だ。鍛え抜かれた筋肉でユニフォームはピチピチで、袖や裾も破れそうなくらいに張っている。ラグビー選手のような身体つきに衝撃を受けた。

いざ、キックオフを迎えると、想像よりも強烈なフィジカル能力を発揮する。パワー、スピードがずば抜けていた。J2屈指のフィジカルを有するヨルディ・バイスと柳育崇がコンビを組む岡山のCBに躊躇なく鋼のような身体をぶつけていく。激しい肉弾戦を繰り広げる中で、ボールをキープできるし、空中戦に競り勝つシーンも作っていた。

並外れたパワーだけでなく軽快にピッチを駆け回る機動力も兼ね備えているところが彼の最大の強みと言えるだろう。

チームのために献身的なプレスを繰り返しながら、爆発的なスピードでゴールに向かっていく。ハイライトは10月16日に行われた第41節。59分、秋田はクリアボールをつないでカウンターを発動させると、青木翔大がピッチ中央から出したスルーパスに齋藤が抜け出した。フルスプリントで約50mを駆け抜ける。懸命に追いかける河井陽介を追い抜き、必死で戻ろうとした河野諒祐を振り切って強烈なシュートをネットに突き刺した。河井はスピードを売りにしている選手ではないけれど、それを除いても1人だけ秒速再生しているように感じる異次元のスピードは衝撃的だった。ドイツ語で青い稲妻を指すブラウブリッツというチーム名を体現する選手だ。


モンテディオ山形

山田康太選手

悔しくて、悔しくて仕方ないけれど、ハイレベルなサッカーIQの持ち主である山田の虜になっている自分がいる。

今季に岡山は山形と4試合を戦った。“ヤマのプリンス”(※彼の愛称)が出場したのは、競技規則の適用ミスがあり再試合になった1試合目とJ1昇格を争ってプレーオフ1回戦でぶつかった4試合目。2試合とも大きな存在感を放っていたが、特に強烈だったのがプレーオフ1回戦。苦汁を飲まされたことが記憶に新しい一戦だ。

彼のサッカーIQの正体を考えると、ポジショニングにたどり着いた。山形のチームとしての戦術的な要素もあるのだろうけれど、とにかく彼を捕まえることができない。フリーマンのようにピッチのいろんなところに顔を出して、ボールを引き出していく。

彼の最大のストロングポイントは、個の力で組織を壊すことができるところにある。プレーオフで決められた1つ目の失点から、それを強く感じた。

岡山はトップ下で先発した山田をとても警戒していた。リトリートするときは、ボランチの輪笠が背中で彼へのパスコースを遮断する。プレスを掛けに行くときは、CBの柳育崇が彼をマークする。2選手でマークを受け渡すことで包囲網を築こうとしていたけれど、包囲網が完成する前に一瞬の隙を突いて抜け出した。5分、山形が自陣で相手のパスをカットしてマイボールにする。守備から攻撃の切り替え時、山田は左に数歩動くことによって輪笠の背中からズレて、中盤とCBの間で縦パスを受けられるポジションを取った。そして、半田からのパスを受けることで岡山の両CBを2人とも釣り出し、フリーのディサロ燦シルヴァーノへ1タッチでスルーパスを通して先制点を演出した。

ただうまいだけの選手ではない。自分で能力を最大限に引き出せる賢さをもっている。その賢さがサッカーIQであり、相手の急所を嗅ぎ分けて突くことができるポジショニングのうまさなのだろう。

Part2はこちら


この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

読んでいただきありがとうございます。 頂いたサポート資金は遠征費や制作費、勉強費に充てさせていただきます!