記事一覧
経済学の基礎で考える人口問題10 出生率の定義について
6月25日に、このnoteで「外国人頼みの新しい人口推計」という文章を書いた。この中で、「厚生労働省の出生率の数字は実態よりも高めに表示されているという別の問題が明らかになった。」と書いた。その後、この点について、厚生労働省から詳しい説明を受け、私の認識が不十分だった面があることが分かったので、以下、もう一度書いておきたい。
前回のnoteでは、次のように議論を展開していた。
①国立社会
経済学の基礎で考える国際経済2 「国際収支はグロスで見よう」
週刊東洋経済(7/15号)の「経済を見る眼」に「『日本の稼ぐ力は衰えている』は本当か」を書いた。これは、国際収支を「収支」というネットで見るのではなく、「受け取り」と「支払い」それぞれをグロスで見た方が良いということを述べたもので、私としては結構面白い視点を提要できたのではないかと考えているので、使用したデータも含めて、やや詳しく解説しておきたい。
5月に発表された2022年度の経常収支は9兆
経済学の基礎で考える人口問題9 「こども未来戦略方針」に異議あり
政府は、23年6月「こども未来戦略方針」なるものを発表した。この文書の最初の「基本的考え方」の、さらに最初の部分を一読してみた。
この文書では、冒頭次のように書いている。
「こうした急速な少子化・人口減少に歯止めをかけなければ、我が国の経済社会システムを維持することは難しく、世界第3位の経済大国という、我が国の立ち位置にも大きな影響を及ぼす。人口減少が続けば、労働生産性が上昇しても、国全体の経
経済学の基礎で考える人口問題8 「外国人頼みの新しい人口推計」
6月23日に、内閣府経済社会総合研究所主催のフォーラム「将来人口推計が映し出す日本の課題」にパネリストとして参加した。
当初、今回の国立社会保障・人口問題研究所の新しい人口推計について、私がコメントしようと考えていたのは、次のようなことだった。
今回の人口推計は、一言で言えば、「外国人頼みの人口推計」だ。今回の推計では、前回(2017年)の推計よりも、総人口の減り方が緩やかであり、生産年齢
ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済12「経済政策の基本方向を考える」
10月22日の日経朝刊「円安招いた日本病」という記事の中で、私のコメントが紹介されている。「非常時対応の政策から抜け出すべきだ」「企業の新陳代謝を促すなど『痛み』を直視する改革も避けて通れない」というものだ。これだけでは私の真意が良く分からないだろうから、コメントの基になった私の発言をやや詳しく紹介しよう(若干、編集、追加しています)。
1. 基礎的成長率を高めるようなマジックはない
これまで
ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済11「人出不足とは何か」
先日、新聞を見ていたら「高齢者数がほぼピークとなる2040年、医療や介護などの就業者は約100万人不足する」という記事があった(朝日新聞夕刊、9月16日)。これは9月16日に発表された「厚生労働白書」の記述を紹介したものである。
現物に当たってみよう。白書ではまず、ある研究会報告から、2040年の医療・福祉分野の就業者数を974万人とする。次に、人口構造の変化などから、2040年の医療・介護サ
ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済10 ガソリン価格補助金政策について
4月23日付の朝日新聞に、ガソリン補助金政策についての私の「あまりに単純で、エネルギー消費の効率化を邪魔するバラマキ政策だ。野菜が高騰したら補助金を出すのか」というコメントが紹介されている。取材の際に述べたことをやや詳しく紹介しよう。
① 石油価格上昇の負の影響は避けられない
まず、日本がエネルギー資源を輸入に頼っており、その輸入価格が上昇してしまったら、日本経済に何らかの負の影響が及ぶことは
経済学の基礎で考える日本経済17 「乗数の議論と財政収支」
1月7日の日経新聞に、デービッド・アトキンソン氏の「財政出動は乗数効果を基準に」という論考が掲載されている。この中で「成長につながるような財政支出は、乗数効果が1以上であれば、財政は改善する。1以下であれば、財政は悪化する。単純だが、財政の議論はこれで済む」と述べている。しかし、エコノミストが普通使っている意味で「乗数効果」という言葉を使っているのだとすれば、この議論は正しくない。
私の理解で
経済学の基礎で考える日本経済16 「経済成長率の見方は意外に難しい」
以下は、新年早々かなりマニアックな話である。大部分の人にとっては面倒なだけでちっとも面白くないだろう。しかし、そういうことは気にしないで、私の考えを書くことにする。
経済指標で誰もが注目するのが経済成長率である。成長率の中でもさらに注目度が高いのが「年度平均成長率」である。例えば、12月23日の各紙は、政府の2022年度の経済成長率見通し(実質GDP成長率)が3.2%だと報じている。この3.2
ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済8 「新自由主義的な考え方について」
最近は、新自由主義的な経済政策や市場原理的な考え方は評判が悪いようだが、私は基本的には正しいと思っている。
今日、先日亡くなられた池尾和人先生の追悼文を書いたところなのだが、この中で1996年の経済審議会建議について触れている。これは「6分野の経済構造改革」というもので、主要6分野の規制改革について提言したものである。池尾先生にはこの中の金融分野の主査を務めていただき、私が役所(経済企画庁)側
経済学の基礎で考える日本経済15 「経済対策のGDP引き上げ効果を考える」
11月19日に新しい経済対策が決定された。こういう政策が決まった時には必ず「成長率引き上げ効果はどのくらいか」という議論が出る。
本日(11月20日)の日経新聞によると、政府はGDPを5.6%押し上げる効果があるとしているという。一方、民間エコノミストは、対策の効果を政府ほどには大きく見ておらず、GDPを1~3%押し上げると見ているのだという。
私自身こういう政策効果の試算に取り組んだことが
経済学の基礎で考える日本経済14 「川上からの物価上昇」
本日(11月12日)の日経新聞に「原材料急騰、企業を圧迫、企業物価40年ぶり伸び、消費財への波及焦点」という記事がある。これは、川上(輸入段階)で生じた物価上昇が、原材料→中間財→最終財と波及していく時、価格転嫁が進まないと、企業収益の悪化要因になるというストーリーである。このストーリー自体は正しい。
この記事の中で、10月の企業物価指数の上昇率を段階別にみると、川上の素原材料から中間財を経て
経済学の基礎で考える日本経済13 「潜在失業率の計算」
本日(11月9日)の日本経済新聞「失業抑制 雇調金頼み」の記事の中で、私の潜在失業率の計算が紹介されている。引用すると、
「大正大学の小峰隆夫教授は統計上の失業者に加え、休業者と職探しをやめた非正規労働者を含めた『潜在失業者』でみると、20年度は6.9%と失業率(2.9%)を大きく上回ると試算する。雇用金など緊急措置で『短期的には雇用崩壊を免れた』と評価する」
この計算は、いわゆる企業内失業者
地方創生の経済学5 「地域戦略人材塾のねらい」
大正大学地域構想研究所では、自治体の若手・中堅職員向けの講座「地域戦略人材塾」を運営しており、私がその塾長を務めている。この塾では、受講生向けの副読本を作っているのだが、以下は、その副読本の冒頭で、私がこの塾の狙いを解説した部分である。
私と地域問題
私はこれまで結構長い間、地域問題に関係してきた。私は、長く経済企画庁(現内閣府)で政府の役人を務めたのだが、その間に国土庁や発足したばかりの
ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済7 「矢野財務次官の文藝春秋掲載論考について」
文藝春秋11月号に、矢野財務次官の「財務次官、モノ申す『このままでは国会財政は破綻する』」という論考が掲載され話題になっている。現職の次官が経済政策の方向性と財政再建の重要性について明確に所論を述べたのだから、話題になるのも当然だ。
私も読んでみたが、その内容についてはほとんど全面的に同意する。①日本の国民は本気でバラマキを歓迎するほど愚かではない、②経済成長だけで財政が再建できるとするの
ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済6 「香西さんの教え」
本日(10/6)の日経新聞を見ていたら、「石油を過度に排除するな」というタイトルの小論が掲載されていた。私はこれを見て「香西さんの教えに反した見出しだな」と苦笑した。それはこういうことだった。
私は、経済企画庁の内国調査第一課長として、1993年と94年の経済白書を執筆した。94年の白書が完成した時のことだ。白書が公表されると、新聞に有識者のコメントが掲載される。この時、日経新聞は、私の大先