ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済9 「生活者は緩やかな物価の上昇を望んでいるのか」

 日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」(2024年4月)に、「『物価と収入がともに緩やかに上昇する状態』と『物価と収入がともにほとんど変動しない状態』では、あなたの暮らしにとってどちらの方が好ましいですか」という質問がある(Q21)。今回新たに設けられた設問である。
 その回答は、「物価と収入がともに緩やかに上昇する状態」が49.3%、「物価と収入がともにほとんど変動しない状態」が18.0%、「どちらの状態でも変わらない」が19.7%、「わからない」が11.8%となっている。
 さて問題は、この回答に基づいて「消費者の約半数は、物価と収入が緩やかに上昇することと望んでいる」と言っていいかということだ。そう言えるのであれば、政府、日本銀行には好都合だ。政府、日本銀行は「物価と賃金の好循環」を追及している。それは、物価と賃金がともに緩やかに上昇する世界だ。今回のアンケート調査で、消費者の半数がその世界を望んでいるということが分かったのであれば、政府、日本銀行はまさに国民の求めていることを実現しようとしていることになる。
 しかし、このアンケート結果から「消費者の約半数は、物価と収入が緩やかに上昇することと望んでいる」という結論を出すことはできない。
 もう一度回答の選択肢を見てみよう。選択肢は①「物価と収入がともに緩やかに上昇する状態」と②「物価と収入がともにほとんど変動しない状態」という二つだ。普通に考えれば、誰もが①を選択するだろう。収入が増えた方がいいと考えるからだ。しかし、この選択肢に③「物価はほとんど変動しないが、収入は緩やかに上昇する状態」という選択肢を加えたらどうなるだろうか。おそらくだれもが③を選択するだろう。物価も収入がともに上昇するより、物価は上がらずに収入だけ増える方がいいと考えるはずだからだ。
 要するに、有力な選択肢の提供を行っていないこの設問からは何の情報も得られないというのが私の結論だ。次回からはこの設問はやめた方がいいと思う。
(2024年7月1日)


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