経済学の基礎で考える人口問題10  出生率の定義について

 6月25日に、このnoteで「外国人頼みの新しい人口推計」という文章を書いた。この中で、「厚生労働省の出生率の数字は実態よりも高めに表示されているという別の問題が明らかになった。」と書いた。その後、この点について、厚生労働省から詳しい説明を受け、私の認識が不十分だった面があることが分かったので、以下、もう一度書いておきたい。

 前回のnoteでは、次のように議論を展開していた。

 ①国立社会保障・人口問題研究所の人口推計では、中位推計の場合2070年の合計特殊出生率は、1.357としているが、日本人女性に限ると1.285、外国人の出生率は0.94としている。

 ②にもかかわらず、全体の出生率は、日本女性に限った場合の出生率より高いのは、出生率の定義を厚生労働省の定義に合わせたからである。

 ③その厚生労働省の定義というのは、日本人女性からの出生数と外国人女性からの出生数の合計を分子とし、日本人女性の数を分母とするというものである。

 ④この厚生労働省の定義では、外国人女性の産んだ子供も日本人女性が産んだような計算になっており、その分高めに表示されていることになる。

 この議論について、再検討した上での現時点での私の考えを述べると次のようになる。

 厚生労働省の定義では、分母と分子の範囲が異なっているように見えるが、分子の「外国人の母親(父親は日本人)が生んだ子供」は、日本国籍を持っているので、時間がたつと(19歳になると)、分母の「日本人女性」の数に含まれることになる。逆に言えば、現時点での「日本人女性」には、しばらく前に(19年以上前に)外国人の母親から生まれた子供が含まれていることになる。すると、長期的には、厚生労働省の定義によって示される出生率は、「日本人の女性」の出生力を示すことになる。それが厚生労働省の出生率の定義の意味である。

 ただし、この定義では「外国人同士のカップルである場合の女性」「父母共に外国人であるカップルから生まれた子供」の数はどこにも含まれないことになる。しかし、それは日本の人口の一部である。すると、厚生労働省の出生率は、将来の日本の人口(外国人を含む)を推計するベースとしては不適当である。そこで、国立社会保障・人口問題研究所は、厚生労働省の定義とは異なる出生率を推計に使ったのだと思う。

 これで一応説明はついたのだが、なお、「国立社会保障・人口問題研究所の人口推計で、日本人女性に限った出生率(この分子には、外国人から生まれた子供は含まれていない)よりも、全体の出生率が高くなったのはなぜか」という疑問が残る。この点について私は、「外国人が増え、外国人から生まれた子供が増えていく局面にあるからだ」と考えている(あくまでも私の推論です)。つまり、「日本人の女性の数」と「外国人の母親から生まれた子供の数」の関係が安定的であれば、厚生労働省の定義と国立社会保障・人口問題研究所の日本人女性の出生率はほぼ同じになる。しかし、外国人が増えていく局面にあっては、産まれた子供が分母の女性の数に含まれるようになるまでにはタイムラグがあるので、分母より分子が大きくなり、出生率が高めになるということになるのではないか。これが前述の出生率の乖離となって現われたのではないか。

 なお、やや蛇足気味ではあるが、日本でこのような出生率の定義の問題が出るのは、日本に「戸籍」という制度があるからだと言えそうだ。多くの国では、戸籍がないので、その国に居住する自国民、外国人をひっくるめて出生率を計算するしかない。その場合は、「自国民女性の出生率」「全人口ベースの出生率」などという定義上の問題はそもそも存在しないということになりそうだ。(2023年7月20日記)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?