経済学の基礎で考える日本経済15 「経済対策のGDP引き上げ効果を考える」

 11月19日に新しい経済対策が決定された。こういう政策が決まった時には必ず「成長率引き上げ効果はどのくらいか」という議論が出る。
 本日(11月20日)の日経新聞によると、政府はGDPを5.6%押し上げる効果があるとしているという。一方、民間エコノミストは、対策の効果を政府ほどには大きく見ておらず、GDPを1~3%押し上げると見ているのだという。
 私自身こういう政策効果の試算に取り組んだことがあるのだが、そういった経験を持つ人間としては、この種の計算を見るたびにやや「空しさ」を感じるのが常である。確かに、ある程度の規模感を捉えるためにはこういった計算が必要だということは分かるのだが、「検証ができない」という点で空しさを感じてしまうのだ。この稿を書くために改めて考えてみると、この「検証できない」というのは、二重の意味で検証できないのだ。少し説明しよう。
 第1に検証できないのは、「計算の根拠を検証できない」ということである。例えば政府の5.6%という計算についていえば、「どんな根拠で5.6%という数字になったのか」がほとんど分からない。調べてみると、政府は、経済対策の公表に合わせて、「経済対策の経済効果」という一枚の資料を公表している。しかし、それによると、5.6%というのは「GDPの直接的な下支え・押し上げ効果」を計算したもので、その波及効果が別途さらに期待できるということのようだ。下支え・押し上げ効果を持つ項目も示されているのだが、それぞれがどの程度の効果を持つのかは分からない。この効果が、どんな時間的経過で現れるのか(今年度か来年度かもっと先か)についても分からない。
 第2に検証できないのは、事後的にも「推計が正しかったかどうか」の検証ができないことだ。これも政府の5.6%を例にして考えよう。これは「あなただったらどうやって効果を検証しますか」と聞かれたらどうするのかを考えればすぐわかる。「検証のしようがない」ことが分かるに違いない。
 対策が実行された後の成長率の推移を見ても、対策の効果は分からない。例えば、対策を取る前の成長率が1%で、対策を取った後の成長率が2%になったとしても、成長率は対策だけで変化するわけではないから、成長率上昇分のどれだけが対策の効果であるかは不明である。仮に、対策実行後の成長率が1%で変化がなかったとしても、対策の効果がプラス1%だったが、その他の要因でマイナス1%の影響があったので、差し引き変わらないことになったのかもしれない。
 要するに、対策の効果を測定するには、「対策後の成長率」と「対策がなかったとした場合の成長率」を比べなければならないのだが、経済は元に戻ってやり直すわけには行かないから、「対策がなかったとした場合の成長率」は誰にも分からない。ということは、誰にも事後的に対策の効果を検証できないということである。
 実は同じことは、イベントの効果などの計算についても言える。しばしば、〇〇祭りなどのイベントがあると、「このイベントの経済効果は〇億円」といった計算が紹介されるのだが、こうした計算についても事後的な検証は不可能なのである。(2021年11月20日記)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?