ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済8 「新自由主義的な考え方について」

 最近は、新自由主義的な経済政策や市場原理的な考え方は評判が悪いようだが、私は基本的には正しいと思っている。
 今日、先日亡くなられた池尾和人先生の追悼文を書いたところなのだが、この中で1996年の経済審議会建議について触れている。これは「6分野の経済構造改革」というもので、主要6分野の規制改革について提言したものである。池尾先生にはこの中の金融分野の主査を務めていただき、私が役所(経済企画庁)側の取りまとめ役を務めたのだった。
 これを書くために、この時の報告書を改めて読み返してみたら、この報告書は、新自由主義的な考え方を明確に示したものだったことを思い出した。新自由主義的な考え方は、2001年に発足した小泉純一郎内閣で前面に出てきたのだが、この時突然出てきたわけではなく、96年頃から徐々に表面化していたことを物語っている。
 新自由主義的な考え方を示すものとして、報告には次のような文章がある。
「改めて言うまでもないが、経済構造を改革して、経済を活性化させ、経済全体の生産性を高めていくためには、市場原理を貫徹させ、競争を促進することが何よりも必要である。キャッチアップ過程を終えた我が国経済の今後の発展は、自己責任原則の下、個人・企業が自らリスクを担いながら、いかに創造性を発揮するかにかかっている。その過程では企業及び国民自身の意識改革も必要となる。その先行きは不確実性に満ちており、行政があらかじめ道筋を描き示すことはできない。それは、明確なルールの下での市場における公正な競争を通じて、消費者、利用者が真に望むものをより安価に 供給したものが選ばれていくことによってしか指し示すことができないものである。個人・企業の市場における競争を促進し、『競争の自由』『リスク・テイキングの自由』が十分に享受できるよう行政各分野の制度を再設計することが必要である。規制 の撤廃・緩和はそのためにこそ必要なのである。」
 なお、2021年10月内閣総理大臣となった岸田総理は、「規制緩和・構造改革などの新自由主義的政策は確かにわが国経済の体質強化と成長をもたらしました。他方で、富める者と富まざる者、持てる者と持たざる者の分断も生んできました」と述べている(自民党総裁選時の特設サイトより)。構造改革、規制緩和を批判しているように見えるのだが、こうした点についても、この報告書では、「弱者への配慮は別個の対応が必要」として、次のように明快な議論を展開している。
「複数の政策目的に対しては、複数の政策手段が必要である。市場原理を貫徹させることによって生じうる副作用には、その副作用自体を対象とした別個の政策手段が用意されるべきである。代表的なものは、経済的弱者への配慮である。市場における競争では、全ての参加者が勝者になることはあり得ない。競争によって、効率的な事業者の経済活動が拡大する一方では、非効率な事業者の活動が縮小し、あるいは市場から退出することも覚悟せざるをえない。また、規制の撤廃等によって、土地、労働などの資源移動が活発化すれば、住み慣れた土地を手放さざるをえなくなる住民や、不利な立場に陥る労働者が生ずることも考えられる。経済的効率性を追求する一方で、こうした経済的弱者に配慮することも重要なことである。しかし、こうした副作用があることを理由に規制撤廃・緩和を行わないことは、『少数の利益』を守るために『国民経済的に得られたはずの多数の利益』を犠牲にしていることを意味する。『経済活動、資源配分には市場原理を』、『経済的弱者には弱者への対策を』というのが正しい政策割り当てである。」
 この部分は私が起草したもので、ほぼ原案のまま委員会の報告となり、それが経済審議会の総理への建議となっている。市場原理主義者である私の原案が、経済審議会の建議としてほぼそのまま採用されたのだから、当時、市場原理を中心として経済を効率化させようという考え方がいかに強くなっていたかが分かるだろう。(2021年11月27日記)

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