ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済10 ガソリン価格補助金政策について

 4月23日付の朝日新聞に、ガソリン補助金政策についての私の「あまりに単純で、エネルギー消費の効率化を邪魔するバラマキ政策だ。野菜が高騰したら補助金を出すのか」というコメントが紹介されている。取材の際に述べたことをやや詳しく紹介しよう。
① 石油価格上昇の負の影響は避けられない
 まず、日本がエネルギー資源を輸入に頼っており、その輸入価格が上昇してしまったら、日本経済に何らかの負の影響が及ぶことは不可避だということを認識しておく必要がある。企業がコストアップを飲み込んで値上げをしなければ、企業収益が減る(企業の負担)。企業が値上げして物価が上がり、賃金は上がらないとすると実質所得減という形で家計にも負の影響が及ぶ(やや説明が面倒だが、この時付加価値も分配率も不変なので、家計と企業が平等に負担を担うことになる)。物価が上がって賃金も上昇すると、再び企業の収益が減る(企業の負担)。このコメント対象政策が企図するように、財政措置でコストアップ要因そのものを消そうとすると、財政赤字が増える(将来世代の負担)。負の影響を小さくする唯一の道は、輸入エネルギーへの依存度を下げることだが、これは構造改革なので時間がかかる。
 なお、偶然だが、私のコメントが掲載された朝日新聞の紙面で、隣の記事の見出しが「続く値上げ 上がらぬ賃金」である。物価が上がって賃金が上がらなければ、実質所得が減って家計が苦しくなるのは当然だ。しかしこの時、企業の実質収益も減少しているので、家計だけが苦しくなるわけではない。輸入価格が上がってしまった以上は、経済構造が変わらない限りは、どうしようもないことなのである。
② 価格を抑制しようとすると、その対象の絞り込みが難しく、どんどん対象が広がってしまう
 1973年末からの第1次石油危機の際にも、物価統制令(これは現在でも生きており、銭湯の価格はこれで統制されている)を適用して、価格上昇を抑制しようという動きがあった。この時は、戦後の物価統制の実務に参画したことのある椎名悦三郎自民党副総裁が「統制はやっていくうちに、あれもしなければならない、これもしなければならないと一波万波になって、最後には植木鉢の値段まで統制することになる」と発言したという有名な話がある。
 そもそもなぜガソリン価格だけ抑制するのかの理由がないし、その理由が不明だと、対象品目はどんどん増えて行くことになる。
③ 価格メカニズムの働きを弱め、資源の消費を促進してしまう
 資源価格が上昇することは、その資源の消費を抑制せよというシグナルである。「その価格では買わない」という人から順番に消費を減らしていくことになる。すると、価格の上昇を抑制することは、政策的にエネルギー資源の消費を促進していることになる。
 第1次、第2次石油危機では石油価格が上昇し、これが強力な資源消費の減少を実現させるインセンティブとして機能した。アルミ精錬業などのエネルギー多消費型産業が姿を消し、燃費の良い自動車が開発され、省エネ型の家電製品が人気を博するようになった。こうして省エネ型の経済構造に転換していくことが、高エネルギー価格に対して日本経済が立ち向かっていく唯一の道なのだが、価格を抑制していると、こういう構造変化が生まれなくなってしまうのだ。
④ ガソリン補助金はポピュリズム的色彩の強いばらまき政策である
 物価の上昇で困窮する人々が出ることはあり得るので、そうした特に被害を受ける人を救済する必要はあるかもしれない。その場合には、困窮者を対象とした救済策をデザインすべきである。しかるに、ガソリン価格全体を引き下げたら、困窮していない層もついでに救済することになる。レジャーでドライブに行こうとする人々をも補助することになる。本来の政策目的以外にも広く恩恵をもたらそうとしているのだから、これは典型的なばらまき型の政策である。選挙を控えると、他党からもこういうバラマキ的な政策が提案されるようになるので注意が必要だ。 
 この政策には他にも問題があるのだが、この辺で止めておこう。要するに評価すべき点はほとんど皆無という、極めて問題の大きい政策だと言えそうだ。

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