経済教室(11月3日)「人口減少前提に『賢く縮む』」の補足説明


 11月3日付の日本経済新聞経済教室に「人口減少前提に『賢く縮む』」を書いた。主な論旨は、これからの日本にとって人口減少は避けがたい流れなので、無理に人口減少に歯止めをかけようとして莫大な財政資金を投入するのは止めて、人口減少下でも国民のウェルビーイングが高まるような方向を目指すべきであり、それは十分可能だというものである。

 新聞紙上での論説という性格上、数式での説明や脚注を使えないので、若干読者が分かりにくい部分があったかもしれない。以下で補足しておきたい。

 

1. コロナ後の希望出生率について

 文中で、コロナ前の希望出生率は1.8だったが、コロナ後にはこれが1.6に低下しているという記述がある。これは、中曽根康弘世界平和研究所の木滝秀彰主任研究員(当時)が計算したものを使っている。

 希望出生率の計算式は次の通りである。

 「希望出生率」=(既婚者割合×夫婦の予定子供数+未婚者割合×未婚結婚希望者割合×理想子供数)×離別効果等

 コロナ後の2021年に行われた「出生動向基本調査」によると、独身女性で「いずれ結婚するつもり」という答えがコロナ前の89.3%からコロナ後には84.3%に低下しており、「独身者の希望子ども数」も2.02人から1.79人に減少している。こうした変数の変化を考慮すると、コロナ後の希望出生率は1.6となる。


2. 人口減少下でもマクロの経済指標は縮小していない

 文中で、内閣府が経済財政諮問会議に提出した資料を紹介している。元のデータは以下から見ることができる。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2024/0903/shiryo_03.pdf

私が整理した表は以下の通り。

 もちろんこの表は、岸田内閣における経済政策の成果を示すために作られたものである。この指標の変化が、岸田政権の経済政策の成果であるかについては議論の余地があるが、人口減少下でもほとんどのマクロ経済変数が増加していたことは間違いのないところである。

  3. 人口変化と経済成長の関係

 文中で、定義的に実質成長率は「人口の増減率」「人口に占める生産年齢人口の割合の変化率」「生産年齢人口当たりのGDPの伸び率」の和となる、という記述がある。これは次のように導かれる。

 まず、GDPは次のように分解できる。

  Y=P×L/P×Y/L

   Y:GDP

   P:総人口

   L:生産年齢人口

L/P:人口に占める生産年齢人口の割合

Y/L:生産年齢当たり生産性

 これを、伸び率にすると近似的に

実質成長率=「人口の増減率」+「人口に占める生産年齢人口の割合の変化率」+「生産年齢人口当たりのGDPの伸び率」

となる。

 次の表がそれぞれの数値の計算結果である。計算は、日本経済研究センターの松崎いずみさんにお願いした。2010~2019としたのは、2020年がコロナの影響で大きく落ち込んだ特殊な年だったからである。変化率の計算は、各年の変化率の平均ではなく、出発点から平均何%で変化すれば終着点のレベルになるかという方法で計算している。

 2020年以降については、人口は国立社会保障・人口問題研究所の2023年人口推計の出生率・死亡率中位を使った。()内は、仮に2020年以降の生産年齢当人口当たり生産性が1.5%とした場合の姿である。

 

                


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