ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済10 名古屋景気討論会での私の主な発言
7月18日に名古屋で開催された景気討論会での私の主な発言は次の通りである。
1. 世界経済の見通し
アメリカ、欧州は、インフレ抑制のために金利を引き上げていたが、今後インフレが鎮静化するのに合わせて、金利を引き下げていく。日本は異次元緩和を終えて、金利を上げていく。このため円高に修正される局面が来るというのが基本シナリオ。この基本シナリオがどんなタイミングで実現して行くかは、日々の経済情報次第で若干のずれがあるが、基本シナリオは変わらない。
輸入インフレに対しては、欧米のように、インフレを輸入インフレの範囲での一時的なものに止めるため、金融を引き締めて賃金を抑制するのがオーソドックスな対応。日本はデフレ脱却のために、むしろ輸入インフレを国内インフレに転化させようとして金融緩和を続け、賃金上昇を促がした。しかし私は既に日本はデフレから脱却しているので、今後は欧米型の政策運営に変えるべきだと思う。
2. 中国リスク
今後の最大のリスクは中国経済リスクとトランプリスク。中国は、バブル崩壊後の日本経済と同じような道をたどりつつある。日本ではバブル期に資産・負債が両建てで膨張したが、バブルの崩壊で資産は激減し、負債は残って不良債権となった。中国でも不動産バブルが崩壊して日本と同じバランスシート不況が起きている。
バランスシート不況は、企業、家計のマインドを委縮させ需要を減らす。このため物価が上がらなくなり、実質値が名目値を上回るという「名実逆転」が起きる。中国でも5期連続でGDPデフレータがマイナスとなっており、名実逆転となっている。
3. トランプリスク
日経センターのESPフォーキャスト調査では、米大統領選挙の結果を質問しているが、7月調査では回答者32人中、「トランプ優勢」が16人に対して、「バイデン優勢」は1人だった。これは銃撃事件前の調査なので、現在ではさらに差が開いているだろう。
トランプ大統領になった場合は、短期的な成果を求めることにより一時的に経済が好転するかもしれないが、保護主義の増大、民主主義先進諸国間の分断を招くことにより長期的には大きな問題を生む可能性が高い。
4. 日本経済の展望
現状は景気がいいと言って喜べるような状態でないことは明らかだが、かと言って、景気が悪くて困ったなという感じでもない。「緩やかに回復しているが年初来足踏み状態」という感じか。
1-3月期のマイナス成長は自動車の認証不正問題の影響であり、一時的。今後は、7-9月には実質賃金がプラスになり、消費が回復することが期待され、1%程度の緩やかな成長が見込まれる。
5. 経済政策の課題
骨太方針については、「デフレからの完全脱却」を目指していることが気になる。これについては、次のような点に違和感がある。
①デフレからの脱却とは、物価上昇率がマイナスにならない状態を指すが、これは要するに「物価が下がらないようにする」ということなのだが、国民の多くは「物価を上げないようにする」ことを求めている。
②この矛盾を隠すために、いつの間にか「物価を上回る賃金を実現すること」がデフレ脱却であるかのような説明になっている。
③すでにデフレからは脱却している。デフレからの脱却を最優先の政策課題とする時代は終わったと考えるべきだ。
成長政策としては、労働力の流動化、企業の新陳代謝が重要。労働力についてはジョブ型への転換が必要。企業については、スタートアップを促進するだけではなく、退出を促がすことも必要。
6. 中部圏経済について
全国と比較しても当地の生産における認証不正による影響は大きく、生産指数の変動も 全国よりも振幅が大きくなっている。私も関係している中部圏社会経済研究所の景気動向判断によると、中部圏の景気の現状は「足踏み」となっている。
長期的には、人口移動が気になる。名古屋圏 愛知、岐阜、三重 では、22年から23年にかけて転出が増加、特に20代の若者の転出が増えている。若者や女性に人気の高い職業を創出していくことが求められる。製造業はどうしても男性中心になりやすいが、もっと女性の力を生かしていくことが必要ではないか。
7. 経済・市場見通し
実質成長率は、24年度0.5% 25年度1.2%
24年末の円相場は145円
24年末の株価は42000円
と予想。
8. 補遺
なお、討論会の中で、日本ガイシ会長の大島卓氏が、「海外の現場も見たが、日本の製造業の生産性は決して低くない」と強調されていた。これはおそらく製造業の現場での労働者の物的生産性について述べたものだろう。マクロ的にしばしば生産性が低いと言われているのは、企業全体の労働者一人当たりの付加価値生産性が低いということであろう。製造の現場での効率は高くても、それに付加価値を載せて販売する部分で劣っている面があり、それが生産性が低いということにつながっているのではないかと思った。
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