ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済12「経済政策の基本方向を考える」

 10月22日の日経朝刊「円安招いた日本病」という記事の中で、私のコメントが紹介されている。「非常時対応の政策から抜け出すべきだ」「企業の新陳代謝を促すなど『痛み』を直視する改革も避けて通れない」というものだ。これだけでは私の真意が良く分からないだろうから、コメントの基になった私の発言をやや詳しく紹介しよう(若干、編集、追加しています)。
1. 基礎的成長率を高めるようなマジックはない
 これまで何度も成長戦略が打ち出されてきたが、なかなか効果が出ない。このことは、「政策的に基礎的な成長率を高めるのはかなり難しいこと」「これをやればうまく行くというようなマジックのような政策はない」ということを示している。
2. 基本的な政策が重要
 いきなり成長を促進する政策を狙う前に、まずは経済政策の基盤をしっかりしておく必要があり、そのためには、アドホックに「非常時型の政策」を繰り出すことを控え、「新しい平時」にふさわしいる政策を目指す必要がある。例えば次のような点だ。
① 物価はかなり前から「消費者物価2%」という目標を達成しているのだから、非常時型のデフレ政策である異次元緩和は修正すべきだ。来年には再びCPI上昇率が2%を下回る局面が来るかもしれない。しかし、今度は「CPI上昇率は2%以下だが、輸入物価が上がったりすれば比較的簡単に2%を上回る」「目標としていた2%程度の物価上昇は、いざそれが実現してみると国民的な不満がかなり大きい」という姿が「新しい平時」なのだと考えるべきだ。
② コロナの反動で一時的に成長率が2%を上回るような局面が来るかもしれないが、基礎的な成長率は1%程度だろう。確かに、他の先進諸国には見劣りするが、現状ではそれが平時の成長なのだと考えて、毎年、緊急経済対策を繰り返すような非常時型の対応はやめ、長期的な構造政策に力を入れるべきだ。
③ コロナショック、物価上昇などにより、一部の人が経済的に困窮するという事態に対して、これを非常時ととらえ、その都度、給付金を配ったり、特別融資を行ったりするのは非効率だ。「さまざまな予期せざるショックで、負担が一部に偏る局面が生じる」ことが「新しい平時」なのだと考え、マイナンバーの活用などにより、普段からに経済的困窮者を特定し、どんな場合に、どんな層に、どの程度の救済措置を講じるかをルール化しておくべきだ。
④ (私の専門外だが)新型コロナ感染症に対しても、感染者が増えるたび非常時型の対応を行うのではなく、「ある程度感染者は出るし、新たなウィルスが出てくる可能性もある」というのが「新しい平時」なのだと考えて、コロナと経済が併存するような体制を見座すべきだ。
3. 長期的な構造政策の方向
 岸田政権が進めようとしている企業のスタートアップの促進、ジョブ型雇用の推進、リスキリングの促進などの政策の方向は正しいとは思うのだが、なかなか効果が出そうにない。これは、誰もが同意する政策の上澄みだけを掬い取ろうとしているからではないか。
 なかなか言いにくいことではあるが、スタートアップが盛んになれば、退出する企業も出る。ジョブ型雇用が広がれば、これまで守られてきた正社員の立場が不安定になる。リスキリングで高所得を実現する人が出れば、それができない人との格差が広がる。政治も政府も国民も、こうした2面性を認識し、覚悟すべではないか。
(以上)2022年10月22日

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