思索

高校教員。言葉とは、伝わるとは?コラムやエッセイや物語。

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自己紹介(物語を手繰り寄せる営み)

 とある高校の先生をしています。教科は国語、部活はバドミントン部です(なんだかいかにも教員の自己紹介ですね、はは)。  日々何かを考え、文章にし、担任しているク…

思索
5年前
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小説「精霊」

「私が死んだらさ、どうしてもらいたいと思っていると思う?」  ややこしい言い回しで彼女は聞いた。 「どうして、って何を」 「死んだ後の私を、ってこと」 「そうだね・…

思索
5か月前
5

消える雪原

深い森を訪れたようになって それですごく、寂しくなって ヘッドホンをすぐに外しちゃったの パスワード 末尾の数字を8に変える慣れた仕草 夜の霧は何かが死んだ合図 彩度…

思索
1年前
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思色あなたの海に凪はありや

俳句です。

思索
1年前
2

海と生活

‪空調とカフェインで違和感を抱えた‬ ‪身体は浮腫んだ針金のよう‬ 網膜の恥と呼ぶほどの青を目の前にして 子どもは走って、走って、待つ光のもとへ ‪あるかなきかの…

思索
1年前
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諦めと海

諦めはいよいよ、勇気や決意なのかな 君は言った 何か一つ違えば、人類の大きな貢献になったかもしれない隣の道を眺めて 私は今日も冴えない生活をゆく バスはそろそろ海…

思索
2年前
4

試作「後悔と無垢」

炎めいた記憶は 缶コーヒーの甘さみたいに体を侵して消えてゆく 「今日も駄目だったね」と確認して それで満足だよ私の生活は 長い橋 街灯の葬列が帰る場所を導く 生命も…

思索
2年前
2

詩作

君の大きな海が 僕の心を押し広げてゆく 漣をかき分けているのは あの頃の記憶と灰色 まだ僕の目には映らない 光の種類を纏って 一輪挿しの花に集う会話のように 消えてい…

思索
2年前
1

低浮上中。

しっかりと日々を送ることに忙しくしています。 夏の終わりまでには、何か成果をあげたい。

思索
2年前
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「短歌研究」6月号特集「俵万智の全歌集を『徹底的に読む』」について

 大学時代の友人が、雑誌「短歌研究」の特集で、「俵万智の全歌集を『徹底的に読む』」という記事を書きました。  以前から、私が書いた小説について話したり、そういう…

思索
3年前
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アイデンティティ覚書

 高校教員です。  今年は少し仕事にも余裕があるので、以前やっていたクラス生徒向けの手紙を書いている。週1回くらいのペースで続けられたらと思っている。  以下、今…

思索
3年前
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怒りを超えて理知と優しさへ

 高校教員です。  2020年度が終わった。  なんだか全然よくわからない1年だった。大抵、「今年はこんな年だったな」とか「今年はこれを頑張ったな」とか思うものだが…

思索
3年前
14

「物語の拒否」と向き合うこと

 高校教員です。  教室で。  何かの助成?の一環で、新聞4紙が毎日配られる。 その時々で、目立つ話題に対してコメントをする。政治・経済・国際・社会など様々な話題…

思索
3年前
5

「違うこと」について

 「違い」って何だろう、とたまに考える。  「発酵と腐敗」の違いって何だろう。人間に有益かどうかで決まっているらしい。  「蝶と蛾」の違いって何だろう。植物など…

思索
3年前
6

詩作です

20年前に死んだロッカーの歌を今聞くとき 今僕の中で初めて再生されたこの優しい歌が はじめからなかったなんて不思議で不思議で 生まれたばかりなのに 失われていたなんて…

思索
3年前
2

音楽を集める100の方法

 高校教員です。  ある時、放送機材のトラブルで、始業のチャイムが流れず、ノイズの音になった。  「チャイムがリニューアルしたね」などとおどけて見せる。  その後…

思索
3年前
4

自己紹介(物語を手繰り寄せる営み)

 とある高校の先生をしています。教科は国語、部活はバドミントン部です(なんだかいかにも教員の自己紹介ですね、はは)。
 日々何かを考え、文章にし、担任しているクラスに向けて「学級通信」という形で発表しています。そこそこの分量になったことと、「自分の考えが色んな人に見てもらえたら、自分の暮らしはどう変化するだろう?」という思いから、noteを始めてみました。
 基本的には今まで書いてきたものを、(順

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小説「精霊」

「私が死んだらさ、どうしてもらいたいと思っていると思う?」
 ややこしい言い回しで彼女は聞いた。
「どうして、って何を」
「死んだ後の私を、ってこと」
「そうだね・・・毎月お墓に行くし、家にもちゃんと仏壇を作って毎日話しかけたり、死んだら退屈とかそういうのがあるか分からないけど、飽きないようにするよ、きっと」
「ありがとう、そのお墓のことなんだよ」
 彼女は、特に死ぬ予定があるわけではないのだけれ

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消える雪原

深い森を訪れたようになって
それですごく、寂しくなって
ヘッドホンをすぐに外しちゃったの
パスワード 末尾の数字を8に変える慣れた仕草

夜の霧は何かが死んだ合図
彩度の落ちた夕暮れと思念の空輸
森の中に落ちてしまった私の肉体
山ごと飲み込む深夜のバーカウンターで話したいくつかのこと
私の恋人は太鼓叩きだった

さりげなくじれったい会話の中に
大切だったものは失った後に発見されるものだね
次の音を

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海と生活

海と生活

‪空調とカフェインで違和感を抱えた‬
‪身体は浮腫んだ針金のよう‬
網膜の恥と呼ぶほどの青を目の前にして
子どもは走って、走って、待つ光のもとへ

‪あるかなきかの海を今日も見る‬
‪うすら白く広がる‬
‪鮮やかな罪悪感にあぶくが湧いて‬
‪モチーフは退屈な日々に溢れ返り‬
‪脚の裏に砂を確かめる 寛解‬

‪夏の残像は空に浮かんで‬
‪たそがれた輪郭を手に入れる‬
‪山の端から雲へ‬
‪君も寝そ

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諦めと海

諦めはいよいよ、勇気や決意なのかな
君は言った
何か一つ違えば、人類の大きな貢献になったかもしれない隣の道を眺めて
私は今日も冴えない生活をゆく

バスはそろそろ海に出る
勝手知ったる自分の癖
今日も大それた行動には出ないでしょう
ただ眺めて
それは風であって
涙でもあった
大部分の人には何でもない
夏の夜
冬の喧騒

私の発明を
公共広告にしてくれませんか
街中に広まって
それで
こうじゃなかっ

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試作「後悔と無垢」

炎めいた記憶は
缶コーヒーの甘さみたいに体を侵して消えてゆく
「今日も駄目だったね」と確認して
それで満足だよ私の生活は
長い橋 街灯の葬列が帰る場所を導く

生命も哲学も寝静まったキッチンで
夜空を感じるひとときをかろうじて確保して
いつか旅した土地と今見ている景色が二重写しになる

コップに注いだ平穏を飲み干す
安心が少しだけ体に入ってくる

何の意志を持っていないように見える
その瞬間の表情

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詩作

君の大きな海が
僕の心を押し広げてゆく
漣をかき分けているのは
あの頃の記憶と灰色

まだ僕の目には映らない
光の種類を纏って
一輪挿しの花に集う会話のように
消えていった人

忘れ去られた街の呼吸と
寝起きの少年の鼓動が
一度に収められたネガフィルム
部屋のどこかにまだあったはず

だけど

ああ 僕らは今
最後のダンスを踊っている
それが永遠だとも知らずに
朝日を背にして
ひとつの影を作る

低浮上中。

しっかりと日々を送ることに忙しくしています。
夏の終わりまでには、何か成果をあげたい。

「短歌研究」6月号特集「俵万智の全歌集を『徹底的に読む』」について

 大学時代の友人が、雑誌「短歌研究」の特集で、「俵万智の全歌集を『徹底的に読む』」という記事を書きました。

 以前から、私が書いた小説について話したり、そういうことを抜きにしても楽しく遊んだりする仲で、そういう人がこうやって活躍しているのが嬉しく、思わず本人に感想を送りつけてしまったので、こちらにも載せておこうと思います。本人には承諾をもらっています、というか、むしろそれを薦めてくれました。
 

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アイデンティティ覚書

 高校教員です。
 今年は少し仕事にも余裕があるので、以前やっていたクラス生徒向けの手紙を書いている。週1回くらいのペースで続けられたらと思っている。
 以下、今週配ったものの内容です。

【現代文の授業で話したこと】

 この間、現代文の授業で「大衆」と「自己」について話しました。近代という時代は、「大衆」という概念が生まれ、そして「自己」を探す旅が始まったというような話でした。「アイデンティテ

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怒りを超えて理知と優しさへ

怒りを超えて理知と優しさへ

 高校教員です。

 2020年度が終わった。
 なんだか全然よくわからない1年だった。大抵、「今年はこんな年だったな」とか「今年はこれを頑張ったな」とか思うものだが、それがないのである。この1年間を自分の心の中に位置づけることができず、「振り返り」というものが成立しない。こんな宙ぶらりんな気持ちも、何年か経った後で、「あの時ってああだったなあ」だとか、思い返すことができるのだろうか。
 そのよ

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「物語の拒否」と向き合うこと

 高校教員です。

 教室で。
 何かの助成?の一環で、新聞4紙が毎日配られる。 その時々で、目立つ話題に対してコメントをする。政治・経済・国際・社会など様々な話題について触れる。自分も、世の中のことを勉強している感覚だ。
 今週(2021年3月8日~11日)は、「東日本大震災」の話題が多くなる。今年、特に目に留まったのは、地震当時、単身赴任で離れて暮らしていた夫婦についてのインタビュー記事だった

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「違うこと」について

 「違い」って何だろう、とたまに考える。

 「発酵と腐敗」の違いって何だろう。人間に有益かどうかで決まっているらしい。
 「蝶と蛾」の違いって何だろう。植物などに留まるとき、羽を広げるかどうかで決まっているらしい。
 どちらも、人間から見た解釈で、違いが規定される。

 さらに思考の歩を進めて、「理解と差別」の違いって何だろうか。
 発酵と腐敗の例に同じく、これらは人間にとって有益かどうか、とい

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詩作です

20年前に死んだロッカーの歌を今聞くとき
今僕の中で初めて再生されたこの優しい歌が
はじめからなかったなんて不思議で不思議で
生まれたばかりなのに
失われていたなんて
胸がすく思いになる

今この瞬間 君を好きと言うだけで
それで十分なのにね
意味とか関係とか未来とかが
僕を追いかけてきてしまって
また今日も嫌になってくるんだ
あの旋律だって
削れた死の美しさだなんて誰かが言う
生命のエネルギーだ

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音楽を集める100の方法

 高校教員です。

 ある時、放送機材のトラブルで、始業のチャイムが流れず、ノイズの音になった。
 「チャイムがリニューアルしたね」などとおどけて見せる。
 その後で、「ノイズが音楽に聞こえるという視点もある」と話した。
そこで、池田亮司さんのパフォーマンスを流してみる。

 授業が終わった後、「さっきの人の名前教えてください」と話しかけられた。
 うむうむ、良い。

 別の機会で、生徒に宗藤竜太

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