試作「後悔と無垢」

炎めいた記憶は
缶コーヒーの甘さみたいに体を侵して消えてゆく
「今日も駄目だったね」と確認して
それで満足だよ私の生活は
長い橋 街灯の葬列が帰る場所を導く

生命も哲学も寝静まったキッチンで
夜空を感じるひとときをかろうじて確保して
いつか旅した土地と今見ている景色が二重写しになる

コップに注いだ平穏を飲み干す
安心が少しだけ体に入ってくる

何の意志を持っていないように見える
その瞬間の表情が好きだ
何も言わず ただ踊っていてほしい
いつまでも終わることのない慈雨の中で
ただ肉体と精神の美しさを
無自覚を自白するあの迷いのなさで
現わしていてほしい
いつ傷ついても
それだけが人生の記憶をまとめていく花束であるかのように
抱きとめていてほしい

私の惨めさが
雪解けの春になるまで
誰かの海に注ぎ続けるまで

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