「短歌研究」6月号特集「俵万智の全歌集を『徹底的に読む』」について

 大学時代の友人が、雑誌「短歌研究」の特集で、「俵万智の全歌集を『徹底的に読む』」という記事を書きました。

 以前から、私が書いた小説について話したり、そういうことを抜きにしても楽しく遊んだりする仲で、そういう人がこうやって活躍しているのが嬉しく、思わず本人に感想を送りつけてしまったので、こちらにも載せておこうと思います。本人には承諾をもらっています、というか、むしろそれを薦めてくれました。
 ちなみにその友人は「スケザネ」名義でYoutubeで活動しています。そちらもぜひ。

 それでは以下、記事の感想です。
(ちなみに、感想に出てくる小沢健二さんの言葉を借りると、手紙は「100メートルの爆走」なので、この感想がそういうものであって、したがって誤字や表現の変な所はお許しください…。)


 「短歌研究」の特集、読みました。
 恥ずかしながら、俵万智さんの歌集をきちんと読んだことがなくて、今回の文章を見てちゃんと手に入れようと思いました。古今東西様々な書物からの引用は、さすが本棚がああなるだけはある・・・と思った。笑。
 個人的には、『かぜのてのひら』の自然観と、『オレがマリオ』の言語感覚(最近方言にすごく興味がある)、『未来のサイズ』の未来への眼差し、なんというか「継承」?という感じが気になったので、一つ一つ読んでいきたいと思っています。

 詩歌について自分が軸足に置いているのがJPOPなので、その辺のことを色々と連想しました。
 まず、『オレがマリオ』の、石垣島での方言を取り入れたものについて。ここのところ、韻文散文問わず、方言をどのように扱っていくかということが一つの流れになっていると思います。小説でも、若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』があったし、最近JPOPでも、岡山弁を上手く音楽的に取り入れた藤井風さんの「何なんw」とか、八丈島の言葉がアコースティックサウンドに妙に合うMIZという人たちの「パレード」が一部界隈で注目されていて、自分も大好きなのだけど。
 あと、いきものがかりの水野良樹さんが歌と詞について音楽家と語った対談集『うた/ことばラボ』という本で面白いと思ったのは、中村佳穂さんという歌手の話。この人は母親が奄美の出身で、島では、住んでいる人それぞれが持っている歌というのがあって、「佳穂ちゃんの声質でこの性格だったら、あの食堂のおばちゃんと仲良くなれば、あの歌を教えてもらえるよ」とかっていうのがあるらしい。中村佳穂さんの楽曲は、少なくとも表面上は民謡的なものを感じないけれど、歌は変わっていくもの、という精神性はすごく面白いし、それも「島なるもの」の現れ方の一つなのかなと。
 翻って『オレがマリオ』の石垣島の言葉は、俵さん移住のきっかけはあまりポジティブなものではなかったかもしれないけれど、言葉の感覚に優れた人がああいう形で、そこの言葉を採集したという記録であって、それを時も場所も隔てた読者が触れられるってすごく良いことだと思いました。

 また、この特集記事で良いなと思った洞察は、132ページの下段のところ、「全肯定」について。
 「しかし、そもそも肯定されているのであれば、わざわざ『全肯定』する必要はありません。どちらとも処理しきれない感情や甘さも苦さも味わい、それでも、それらを全て受け止めた上で、明るく全肯定する、それこそが俵万智短歌の光です」ここすごく良かった。
 こちらも自分の好きなことを出すので恐縮なのだけど、自分の中で「全肯定」がキーワードになる歌手が一人いて、それは最近テレビに再び出始めた小沢健二さんという人です。
 『サラダ記念日』が1987年、小沢さんのソロ最初のアルバム「dogs」が1993年。さらに言うと彼が初めにやっていたグループ「フリッパーズギター」が1987年から活動しているはずなので、ぎりぎり同世代と言っていいのかなと思う。彼の書く詞は、タモリさんをして「人生の全肯定」と言わしめていて、自分も彼の詞が大好きです。
 「さよならなんて云えないよ」という曲で、「左へカーブを曲がると光る海が見えてくる 僕は思う!この瞬間は続くと!いつまでも」という歌詞があったり、「天使たちのシーン」という曲では「神様を信じる強さを僕に 生きることを諦めてしまわぬように」という歌詞があったりして。それが永遠への祈りとか、その祈りを支える生命への肯定とか、それがポップスという形に上手く表現されていて、すごく好きなのですよ。でも、前述の「さよならなんて~」では、「そして静かに心は離れていくと」とも歌われていて、まさに記事中でも書かれていた「甘さと苦さ」かなと勝手に思いました(さらに言うと、小沢さんも現在二児の父であって、最近発表された歌には子どもの言語感覚がインストールされていて、それもすごく面白い。「ウルトラマン・ゼンブ」とか、「Tower of good」とか)。

 結局自分語りになってしまい申し訳ない…。色んなことを考えたし、俵万智さんの作家性のエッセンスみたいなところを少しでも知ることが出来て嬉しいです。というのが伝えたかった。
 情勢が落ち着いたら、会って、また話したいです。

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