今日もＵＦＯ日和

ただ黙々と、もぐもぐと
ほうれん草を食べていた

溢れんばかりのお皿いっぱいの緑を前に
必至に口をに動かしていた

昔から筋の多い食べ物が苦手で
なかなか嚙み切れなくて飲み込めなくて
口の中に溜まっては意を決して飲み込んだ

今年も実家から沢山のほうれん草が送られて来た

美味しいから、体に良いから
どうせ野菜なんて食べてないんでしょ？と

そう言う問題じゃないのに
ポパイでも飽きるほどの量が
まだたんまりと部屋の隅に控えていた

ただひたすらにもぐもぐしている時
脳は停止状態で心は無になっている
でも音には敏感なようで
外からサイレンの音が聴こえていた

遠ざかる事も近づく事も無い
たまにある耳鳴りのようだった

いまだに消防車とパトカーの区別が出来なくて
これはどっちだろう？
救急車で無い事だけはわかる

バター風味のほうれん草のなんたら
醤油味のほうれん草のなんたら
ピリ辛味のほうれん草のなんたら

どれも炒めて茹でてあえるだけの
簡単なほうれん草料理のフルコース

喉に詰まらせないようゆっくりと
おそるおそる少しずつ髪切って飲み込む作業が続く

もしかしたら来週あたりには
体が緑色になっているんじゃないかと思う

そうか、宇宙人の主食はほうれん草なのかも
意外とヘルシーな物を食べてるじゃないか

もぐもぐの無の中ではたまに
突拍子も無い考えが浮かんで来る
噛む事で脳が活性化されているのかもしれない

ＵＦＯの音はどんなのだろうか？
無音で飛び回っているのだろうか？
それとも消防車かパトカーの音を出しながら
街に擬態しているのだろうか？

だとしたら今日はＵＦＯ日和だ
今、外に出て上を見上げたなら
空は一面ＵＦＯだらけに違いない

どうせみんなスマホしか見ていないから
だから誰も見つけられないんだ

いや、さっきから鳴っているこのサイレンは
食べているほうれん草を奪いに来たのかもしれない
もしそうだとしたら、どうしたもんか

交渉次第では分けてやろうか
ただその結果次第では、破談した時には
この場所から宇宙戦争が始まってしまうんだ

実家の農家は無事だろうか？
宇宙人の襲撃を受けていないだろうか？

もう歳なのにまだ続けるつもりなのか？
自分が後を継ぐ未来は想像もつかないけど
そろそろ考える時期に来ているのかも

少なくとも、あらゆる可能性を考慮して
宇宙人も尻尾を巻いて逃げるくらいの
ポパイになってやろうと思う


ただ、サイレンのお世話にはなりたくないから
口の中に残る緑の塊を
涙目になりながらも勢いよく飲み込んだ