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思春期の子どもをもつ母親への心理学講座

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記事一覧

〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その12:悲しみを訴えられない子どもたち

〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その12:悲しみを訴えられない子どもたち

🔹感情表出が不得手な子どもたち

近頃、大人(とくに親)の前で自分の悲しみを訴えたり、涙をこぼしたりする子どもが急に減ってきたように思う。
これは単なる私自身の感触にすぎないかもしれないが、とにかく今の子どもたちは悲しみやつらさを訴えたい気持ちを山ほどかかえているにもかかわらず、訴えられないでいるのである。
 
私達親は、我が子が悲しそうな、つらそうな表情をしていれば心配になり、つい「どうしたの

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〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その11:マルトリートメント(不適切な養育態度)がもたらすもの

〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その11:マルトリートメント(不適切な養育態度)がもたらすもの

🔹育児がつらいと訴える母親たち

近頃「子どもを好きになれない」とか「子どもが可愛く思えない」と訴える母親たちが増えている。驚くことに乳幼児をもつ母親の8割から9割がそのような思いをもつという。
 
「育児がつらい」といったグチや不安ならば、これまでにも身近に聞かれたことだが、「我が子を愛せない」ということになると黙って見過ごすわけにはいかない。
 
では、そのような思いをもった母親は、実際、子

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〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その10:子どもを追いつめる親の対応

〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その10:子どもを追いつめる親の対応

🔹門限を守らなかった中二の女の子

中二になる女の子の事例である。親御さんの話では、小学校を終えるころまでは学業成績、スポーツとも優秀で、まったく心配はなかったという。
それだけに親にとって自慢の娘だったと言えよう。
 
中二になったばかりのある日、家庭の決まりでは午後六時を門限としていたが、定刻をすぎても娘は帰ってこない。

心配になって母親は娘のケータイに電話を入れるも不通。

しかし、三

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〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その9:子どもの「腹立ち」にどう対処すればよいか

〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その9:子どもの「腹立ち」にどう対処すればよいか

🔹なすにまかせて うぐいすを聞く

  腹立ちて
  炭まきちらす
  三つの子を
  なすにまかせて
  うぐいすを聞く

冒頭に掲げたのは与謝野晶子の歌である。 
いかにも古い時代の炭と風情ある鶯が出てくるから、季節は、たぶん冬から春にかけてなのであろう。
幼い子どもがちょっとしたことでカンシャクを起こすのは、昔も今も変わらない光景ではある。
しかし、作者はそれにたいして何らあわてる様子もな

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〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その8:大事なものを忘れてきた母親

〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その8:大事なものを忘れてきた母親

🔹妻からの率直な感想

本連載にたいして、何人かの方が好意的な感想を寄せてくださったが、四十年以上連れ添ってきた妻からは、つぎのようなシビアな疑問が呈せられた。

「たしかに子育て中の母親には参考になるとは思うけれど、子どもとの会話で、どういう言葉を返したらよいかを、いちいち頭で考えながら子どもに向き合っていたら、かえって神経をすり減らして、ノイローゼになってしまう人も出てくるのではないかしら」

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〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その7「ダブル・バインド」としてのコミュニケーション

🔹ダブル・バインドとは

横文字の連載タイトルを付けたが、それほどむずかしいことを論ずるつもりはない。今回も肩の力を抜いてお付き合いただければと思う。
 
ダブル・バインド(二重拘束)とは、簡単に言えば、発せられる言葉と伝えられる感情(気持ち)が矛盾したまま同時に伝えられてしまうコミュニケーションのあり方のことをさしている。
つまりコミュニケーションの受け手が伝え手から二重のメッセージを受けとっ

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〔連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その6:「かみ合った会話」をするには

🔹良好な親子関係としてのキャッチボール

ふだんの親子間の会話は、よくキャッチボールに例えられる。親が直球のいいボールを投げてあげれば、たぶん子どもはナイスキャッチできるはずであるが、いきなりカーブなどの変化球を投げたら、それこそ取りそこなって、あわててしまうかもしれない。

だからといって、いつも、いいボールばかりを投げ返してあげればいいというものでもないであろう。
 
大事なのは、いい球を投

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〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その5:オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン

〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その5:オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン

🔹学校はどう?

我が子を初めて小学校に入学させた親御さんの共通の思いは、果してうまく適応してくれるだろうか、友達もたくさんできるだろうかなどといった心配事であるにちがいない。したがって学校から帰宅すれば、勢い我が子の顔色を見ながら、学校の様子をたずねることになろう。
たとえば、こんな問いかけで。

「学校はどう?」
 
そのような親の質問にたいして子どもは、半ば首を傾げながら「べつに・・」とか

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[連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その4:たかが三文字ではあるけれども

[連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その4:たかが三文字ではあるけれども

🔹永久言語としての「いつも」

すでにふれたことだが、我が子が自分の部屋の後片づけをしない、歯をしっかりと磨かない、朝夕の服の着脱ものろいといった場面に遭遇して困惑することは日常茶飯事であろう。そんなときお母さんは、ついイライラして「何をぐずぐずしているのよ」といった言葉を口にし、さらに「あなたって、いつもそうなんだから」といった追い打ちの言葉をかけてはいないだろうか。

そのダメ押しに反応し、

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〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その3:YOUメッセージとⅠメッセージ

〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その3:YOUメッセージとⅠメッセージ

🔹門限時刻に遅れて帰宅した娘の事例

次のような事例に直面した場合、みなさんは、どう対応されるであろうか。まずはご一緒に考えていただきたい。
 
中3の娘が午後8時の門限を過ぎても帰宅しない。こんなことは初めてなので、親は気がかりで娘のケータイに電話をかけたが、一向に通じない。こんなとき、あなただったらどう対処するか。次の3つの答えのうち、1つを選んでほしい。

① 年頃になったのだからと寛大に

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〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その2:無条件の愛情と共感モード

〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その2:無条件の愛情と共感モード

2回目の本講座では、私たちがよく陥りがちな「要求伝達」ということの弊害について取り上げ、そのうえで「共感伝達」の大切さについて説明したい。

🔹条件つきの愛情

これまで、子育てというものは、我が子にたっぷりと愛情を注ぎさえすれば、まず非行に走ることはありえないと考えられてきた。
逆に言えば、非行に走るような子どもは、親の愛情が欠如していたのではないかとみられていた。

たしかに30年以上前であ

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〔連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その1:子どもの気持ちを聴くということ

〔連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その1:子どもの気持ちを聴くということ

🔹はじめに

小生、長年、司法の現場で心理臨床(ケースワークを含む)の仕事に従事してきた者です。そののち大学教員に転身し、心理学などを教えるかたわら、一般の心理相談や学生相談などにもたずさわってきました。
これから連載をしていく論稿は、過去に月刊教育誌に寄稿し掲載されたものですが、このたびそれらを大幅に加筆修正し、現在、子育てのなかで悩み苦しんでおられる親御さんたちのために、このブログを通しての

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