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〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その3:YOUメッセージとⅠメッセージ

🔹門限時刻に遅れて帰宅した娘の事例

次のような事例に直面した場合、みなさんは、どう対応されるであろうか。まずはご一緒に考えていただきたい。
 
中3の娘が午後8時の門限を過ぎても帰宅しない。こんなことは初めてなので、親は気がかりで娘のケータイに電話をかけたが、一向に通じない。こんなとき、あなただったらどう対処するか。次の3つの答えのうち、1つを選んでほしい。

① 年頃になったのだからと寛大に受けとめて、多少遅く帰ってきたとしても、さほど目くじら立てず、軽く注意する程度にとどめる。
② 門限を破ることは素行不良につながりかねないので、帰宅したら即刻、叱責等により、きつく指導する。
③ どうして遅れたのかをよく聞いて、その理由如何によって叱責するか注意にとどめるかを判断する。

さて、どれを選択したであろうか? 物騒な世の中なので、我が娘が約束の時刻に帰宅しないとなれば、当然、親は心配になり、①のような鷹揚な対応はなかなかとれないのではないだろうか。
それでも①を選んだ方がおられるとしたら、よほど娘さんを信用している親御さんではないかと想像する。ただし、そのような親の対応が、子どもに甘く受けとめられないような配慮を講じておく必要はあろう。
 
②は理由を問わず、とにかく門限を破ったという事実に反応しているから、どちらかというと厳格な家庭の対応の仕方である。しかし、遅れた理由も聞かずに、いきなり怒鳴りつければ、子どもは親からの理解が得られず一方的に拒絶されたと受けとめてしまうかもしれない。
 
したがって、大方は無難な③を選ばれたのではないだろうか。遅れた理由を聞いた上での対処法なので、当の娘もとくに不満をもつことはないであろう。
 
上記の対処法以外にも、心配のあまり駅まで迎えに行く親御さんがおられるかもしれない。しかし、そのような親の行動は、年ごろの子どもにたいしてプレッシャーとなり、かえって「ありがた迷惑」とか「うざい」というふうに受けとめられてしまわないともかぎらないであろう。
 
以上、卑近な例を持ち出して少し考えていただいたが、②はもちろんのこと③であっても、娘の身を案じながら帰宅を待っていたわけだから、無事帰宅した娘の姿を見た途端、よくある例は、ついつい語気荒く次のような言葉を投げつけてしまうのではないであろうか。

 どうして電話一本もよこさなかったのよ! お母さんがどんなにか心配し  ていたか、あなたにはわからないの!
 
 あなたはいつも時間にルーズなんだから!

こういった親の攻勢に出合って、子どもはどう感じるであろうか。

🔹YOUメッセージではなくⅠメッセージを

私はときどき大学の講義や市民講座などで、ロールプレイ(役割演技)といった形の親子関係トレーニングを実施したことがあるが、これらのセリフを聞かされて黙っていた子ども役の方々は、一様に「だんだん、いやーな気分になってきて、親にたいしてムラムラと腹が立ってきてしまった」といったを感想をもらすことが多かった。なぜであろうか。
 
いずれの言葉も「You(あなた)」を主語とする語りかけになっているからである。お気づきであろうか、You(あなた)の入っていない「どうして電話の一本もよこさなかったのよ!」であっても、じつは、その言葉の奥に「You(あなた)」が隠されているのである。
 
「You(あなた)」という言葉を繰り返し言われると、子どもは(子どもにかぎらず誰もが)詰問され責められているように感じて反発したくなるものである。たとえ反論しなくても、内心では「うるさいな」とか「日ごろはちゃんとやっているんだから、たまには大目にみてくれてもよさそうなものなのに」といった思いをもつことになる。

その結果、せっかくの親の心配(愛情)も子どもに伝わらず、そればかりか、それを機に親子関係がぎくしゃくとしてしまう。
 
ではどうしたらよいか。このような場合、「I(わたし)メッセージ」を使うようにしたい。たとえばこんなふうに。

 お母さん、ホッとしたぁ。
 
 ごはんも食べないで待っていたんだから。 お母さん、あなたのこと、ず  っと心配していたよ。

このような「I(わたし)」を主語とする言葉で応対したら、さすがの子どももすまなかったなという気持ちになって、反省の言葉が素直に口をついて出てくるのではないだろうか。
 
以上、米国のゴートン博士が開発・提唱した子育て論の一端をかみくだいて紹介したが、この考え方は近年、我が国でも「親業講座」というかたちで普及しているので、関心の向きは、さらにその種の文献等に当たっていただければと思う。

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