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蔵出し映画レビュー『ボイリング・ポイント/沸騰』

予告編を見る限りでは『ディナー・ラッシュ』のようなレストラン映画かなぐらいにしか思わなかった『ボイリング・ポイント/沸騰』。見てみると、スリリングかつリアリティな映像と人間ドラマと意外な結末に予想外の驚きがあった!!

まず、紛れもない全編ワンショットでスリリング溢れる映像になっている。オーナーシェフのアンディの目線がやや多いぐらいで、副料理長やパティシエ係、入り立ての新人から洗い物の係、フロアリーダーやバーテンダーなど、あらゆる登場人物にカメラをスライドさせることで巧みにワンショットで撮影。

ロバート・アルトマン監督作品を「ロンドンの高級レストランを舞台にした」という体で作ったような群像劇に、ロマン・ポランスキー監督作品『水の中のナイフ』や『おとなのけんか』のような密室で人が入れ替わる会話劇の連続を見せながら展開。これをスリリングな映像により、オーナーシェフから洗い物のバイトまで、あらゆる立場・シチュエーションで見せる人間模様の緊迫感がより引き立つ。

さらにこの作品は行き着く先の意外性がある。が、行き着く結末になる理由や冒頭の衛生管理検査の結果はよく見るとそれなりに出ている。それは氷山の一角に隠れた残りの「氷山の全貌」の部分であり、そこにも意外な驚きがある。または演劇の馬の馬脚、或いは湖を優雅に泳ぐ水鳥の水面下の足のバタつきを見る面白さとも言えよう。

それと厨房とフロア係、客側とフロア係の攻防も面白い。そこにはロバート・アルトマン監督作品『ゴスフォード・パーク』で見られるホストとゲストと使用人の格差やジム・ジャームッシュ監督作品『ナイト・オン・ザ・プラネット』のタクシー内のような仕事人と客の線引きがある。一見、イギリスの階級社会と言いたいが、日本でも学校や会社、ホテルや病院でも見られる人生の縮図(大げさだが)と言えよう。

その上にこれらをSNS社会の視点が常に支配し現代的である。フロアリーダーのインスタグラム、客にはインフルエンサーもいたり、有名なシェフとは記念撮影。著名な料理評論家へのびくつきもある種のSNS社会・世論支配社会の一幕である。

撮影の巧さが際立つが、移り変わる会話劇と行き着く先の意外性など脚本も超逸品!その上、格差社会とSNS社会、さらには(あくまでもこの物語における)衛生管理検査の評価がガタ落ちした高級レストランの闇まで描けている。ロンドンの高級レストランという氷山の一角、いや、その全貌を堪能できる至福のひととき。とんでもない大傑作、何度もおかわりしたくなる。

 

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