蔵出し映画レビュー『神は見返りを求める』
『ヒメアノ~ル』や『愛しのアイリーン』、『空白』を手掛けた、というより今や日本映画界において白石和彌監督に並ぶ強い期待に応えてくれるクリエイターになった吉田恵輔監督。そんな吉田恵輔監督の最新作はYouTuber界隈を題材にしたスリラーで、怪優ムロツヨシを巧みに使った現代悲劇である!!
これ、まさしくYouTuber版『スター誕生』で、最近公開された『アリー/ スター誕生』のレディー・ガガが岸井ゆきの、ブラッドリー・クーパーがムロツヨシと考えれば分かりやすいであろう。しかしながら、取り巻く世界はより有象無象が犇めくYouTuber界隈で、これが人気YouTuberから作中前半のゆりちゃんみたいな底辺YouTuberまでそれらしい。この辺りは監督・脚本である吉田恵輔や製作陣によるYouTube界隈のリサーチ力が見事で、これを『スター誕生』の雛形にドンピシャリと当てはめ、というより見事なオマージュ作品となっている。
加えて、このゆりちゃんの栄枯盛衰に巻き込まれる田母神尚樹を演じるムロツヨシのお人好し中年からの逆噴射爆発のイタい中年おじさんぶりが見事。彼が編集を手伝う「ゆりちゃんチャンネル」の微妙に拙い技術や「何故それを選ぶ?」と突っ込みたい小汚いマスコットキャラ、よく見ると可愛くあるオリジナルTシャツにしろセンスの微妙さ・イタさがいい。そこからのゴッティーこと「ゴッドT」への豹変が凄まじく、そこからのゆりちゃん陣営との不毛な争いもネットやYouTuber界隈らしい。
ゆりちゃんを演じる岸井ゆきのの「恩を仇で返す女」の豹変ぶりもお見事。前半の底辺YouTuberの時は控え目で大分イケてない女子から、柳俊太郎が演じる村上アレンとの出会いで見事に人気YouTuberへと変貌を遂げる。この支える側の才能による変貌が『スター誕生』のプロットとの違いながらもこの映画のミソになっている。その行き着く先の落とし所もビシッと決まり、YouTuberトラジェディとしての完成度を高めている。
吉田恵輔監督の見事なリサーチ力とムロツヨシの怪演、岸井ゆきのの豹変演技、柳俊太郎や若葉竜也、吉村界人などの脇役のアクセントの良さなど語りどころが非常に多いYouTuber版『スター誕生』を堪能出来る秀作!
2022年の映画を語る上で絶対に欠かしたくない。