見出し画像

蔵出し映画レビュー『わたしは最悪。』

未だに叔父に当たるラース・フォン・トリアーの威光が勝っちゃってる印象のヨアキム・トリアー監督の新作『わたしは最悪。』。

いやー、びっくりした! こんな繊細に人間模様を描けるのか、と驚愕した。ヨアキム・トリアー監督、突如の大化けである!!

自分がやりたいことに対して自由奔放なアラサー女子のストーリーなんだけど、まず、「子供を生みたくない女」という設定にふとジャン=リュック・ゴダール監督の『女は女である』を思い出した。ズバリ、この映画、『女は女である』に出てくるアンナ・カリーナが演じる主人公と全く逆の設定の映画である。ヨアキム・トリアーが意図とはしてなくても、『女は女である』から60年後に偶然にも全く逆の価値観を持つ女性の映画が現れたことに驚く。そこに現代らしさがモロに出ている。

全体的なドラマのタッチは70年代のイングマール・ベルイマン監督の『ある結婚の風景』や『秋のソナタ』やクロード・ルルーシュ監督の『男と女』のような肌触り。人生観、恋愛観、死生観などが非常に細かくて、ノルウェー映画だけど久しぶりにスウェーデンやデンマークあたりの北欧映画や60年代や70年代のフランス映画を見た気分になる。

もちろん古い描写ばかりではない。突如の『フローズン』のような演出は大胆ながら上手いSF。途中のドラッグ描写も『トレインスポッティング』よろしくな演出で、アニメ演出も含めて多彩な演出をも見せつける。

本編12章とプロローグ、エピローグに分けた章仕立てはそれこそ叔父さんのラース・フォン・トリアー譲りのようでもあり、展開の速さも部分的にあるが、じっくり見せる章はじっくりと展開。

#ME TOO時代を意識しながらも、性描写はかなり大胆。そのものをストレートに見せるシーンもあれば、脱がずにエロスを表すシーンもあったり、台詞でエロさを出すシーンもあり、バラエティである。特にユリヤがセックスで好きな瞬間の台詞に女性上位のSっぽさがあり独特。

この作品でデビューながらカンヌで女優賞を獲った主演のレナーテ・レインズヴェがとにかくお見事。台詞や脱ぎっぷりばかりでなく、表情が豊か。

 

 

単なる奔放な女性上位のわがままで終わらず、人生観や時代をも描いている。人間を描いたという部分でヨアキム・トリアーは、ようやくラース・フォン・トリアーやトマス・ヴィンターベア、スザンネ・ビアに並んだ。そんな才能を見た映画である。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?