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いかに “顧客主義” を貫くのか?

column vol.897

「顧客志向」「お客様第一主義」という言葉は遥か昔から言われてきたことですが、なかなか成就できないことでもあるような気がします…(汗)

CRMプラットフォームを運営する「HubSpot Japan」が行った「顧客との関わり方に関する理想と現実」についての意識調査でも、その難しさが見えてきます。

(経営者やマネジメント層、一般社員で構成されたビジネスパーソン計1372名が対象)

〈Forbes JAPAN / 2022年12月8日〉

まずはこの調査結果から見ていただきたいと思います。

顧客志向の理想と現実

まず被験者の理想から確認してみます。

「顧客の成功を支援することが、結果として自社の成功にもつながっていくと考えるか」の質問には、「そう思う」23%「どちらかと言えばそう思う」52.5%

合わせて約8割顧客の成功と自社の成長を紐づけて考えているという結果になっております。

では現実はどうでしょう。

「本音では仕事相手(顧客、同僚)のためになる行動をしたいと思っているものの、そうできなかった経験があるか」の質問には、「そう思う」9.1%「どちらかと言えばそう思う」39.2%

約半数のビジネスパーソンが顧客志向に反する行動をした経験があると回答した。

一方、そう答えた方は素直な方ですし、客観的に自分を見られる方

もしかしたら、顧客志向で行動できていると思い込んでいて実は…という方もいらっしゃるかもしれません。

…と、それは置いておいて、具体的には

「顧客の利益になる商品を提案しようとしたが、 上司からは会社の利益にならないという理由で却下された」
「納期を優先して、顧客の求めるクオリティに達成していない時点で出荷した」
「利益率の良いプロダクトを選んでもらえるような提案をしてしまっている」
「売り上げ目標達成のために、売れない在庫を押し込んだ」

などというエピソードが並びました。

さらに、「仕事で自分の本音に従えない」理由として最も多かったのは、「人間関係を悪くしないため」27.9%

次に「会社の指示に従わなければ解雇や昇進の遅れなどのリスクがあると思うから」19.8%「本音に従っていると業務上の目標を達成できないから」19.2%、という回答が続いています。

ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正さんはかつて

「ユニクロでいちばん発言力のある人、それは社長ではなく、お客さま」

という名言を残していますが…、利益、人間関係(多様な考え方)など、組織のさまざまなファクターが要因で、個人のがんばりだけでは顧客志向を貫き通せない部分もあるのでしょう…

顧客志向を「仕組み化」する

顧客志向を叶えるために、組織という観点で考えていくと、まず理想的なのは「自律型組織」にすることがあるかと思います。

例えば、スターバックスは接客マニュアルがないと言われていますが、各々のスタッフがホスピタリティーを突き詰めて顧客に対して表現しています。

もう1つ考えられるのは「仕組み化」することでしょう。

例えば、味の素グループではお客様相談センターに寄せられる年間4万件もの声商品開発・改良に反映しています。

〈ITmediaビジネスオンライン / 2022年12月26日〉

同センターは味の素味の素AGF味の素冷凍食品の3社合同で運営。

社員(派遣社員も含む)23人、電話やメールの応対、代替品などの発送を行う業務委託先が29人、合計52人で構成されています。

組織は

(1)応対統括グループ…電話やメールで寄せられる問い合わせに対応。
(2)企画・情報統括グループ…寄せられた意見の読み込み、分析。

という2つのグループに分かれて対応にあたっています。

応対統括グループでは、問い合わせ内容を全てシステムに記録し、データとして蓄積。

また、オペレーターとの会話で利用者に納得してもらえなかった場合社員がすぐに対応できるように体制を整備しています。

そして、企画・情報統括グループでは、商品に対する不満やアイデアは逐一社員がピックアップ。

月に1回実施している「お客さまの声活用会議」で対応について徹底的に話し合います。

味の素グループでは、単にお客さまの声を聞くだけではなく、トラブルや不満の「背景」非常に大切に聞くようにしているとのこと。

単にお客さまの声を聞いて商品に反映するのではなく「背景」を重視する。

ここがカギだと思うのです。

「接客」に求められる “インタビュー力”

私は小売業のマーケティングが専門なのですが、これからの小売業は販売力(売る力)だけではなく、“インタビュー力” 、つまり「聞く力」がとても必要だと思うのです。

なぜなら、マスマーケティングの時代ではありませんし、お客さまがトレンドに敏感に反応する時代ではないからです。

「今の時代、お客さまが何を求めているのか分からない…」

という担当者さんの声をちょこちょこ聞くのですが、一方で、そのお客さまと四六時中触れ合うのが小売の現場だと思うのです。

例えば、今となっては有名ですが「つま先の見えないサンダル」が、なぜ育児世代の女性に人気なのか?

そうですね、忙しくてペディキュアのお手入れができないから、隠したいわけです。

さり気なく履けて、お手入れ不足も隠せる。

つまり、背景があるのです。

しかし、この背景をどれだけ接客を通して聞き出しているか…というと、、、販売員の中でもマチマチかと思います…

さらに、背景を聞き出し、分析し、傾向として本部に報告している販売員と考えると、さらに少数になってしまうでしょう。

それはきっと、売上に対する評価に対して、お客さまが求めていることを吸い上げ、商品計画に活かすための報告に対する評価が足りないからでしょう。

売上だけを評価するならば、ちゃんと聞き出している販売員がいたとしても、それを自分だけのナレッジに留めてしまう方もいらっしゃるでしょう。

他の販売員にはない強みを手にすることができるからです。

つまり、売上評価に繋げるために自分だけのものにしてしまう。

家電量販店の販売員さんから聞いた話なのですが、家電の接客は時に1時間以上懇切丁寧にお客さまの話を聞き、さまざま提案・説明することがあるそうです。

それだけ時間をかけたのに、分かりましたと買わずに去っていき、恐らくECサイトで注文するのだろうと思うと、やはりやるせない気持ちになると…。

でも、ここで話を聞いたことはきっと、ヒントが詰まっているはずです。

会社がそれを「価値である」と評価し、経営や商品計画などに活かすようになったら、売り場がリサーチ機能を持つことになります。

小売の現場を売る場としてだけではなく、リサーチの場として活用していく。

最近は「売らないお店」として接客&リサーチに特化したRaaS業態も少しずつ見られるようになっていますが、特化したビジネスモデルだけの話にするのはもったいと思うのです。

売った評価だけではなく、聞けた評価を加えていく。

商品流通の川下から川上を変えていく仕組みをつくるというわけです。

そうすると、もっと小売業の価値は上がっていく

そんなことを思う、今日この頃です。

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