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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2024年8月の記事一覧

『音楽史17の視座』(田村和紀夫・鳴海史生・音楽之友社)

『音楽史17の視座』(田村和紀夫・鳴海史生・音楽之友社)

17の視座というのは章の構成のことをいうが、「音楽」という共通テーマに支えられつつ、様々な角度からの議論が並んでいる。「音楽と思想・芸術・社会を解く」という文字がタイトルに載っているが、これの重みは、実際読んでみると、より感じることになるだろう。
 
著者二人は、ベテランの「国立音楽大学楽理学科卒業」という共通項をもつ。美学や西洋音楽史を営み、それそれ持ち味は違うが、同じ視点で音楽について考察しよ

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『まことの説教を求めて 加藤常昭の説教論』(藤原導夫・キリスト新聞社)

『まことの説教を求めて 加藤常昭の説教論』(藤原導夫・キリスト新聞社)

これは「説教塾ブックレット」の一冊である。「説教塾紀要」の中から、一般にも提供すべきである部分を取りだして単行本として発行するものである。今回はその「紀要」からというよりも、加藤常昭先生の多くの著作の中から、四冊を以て、その説教論のエッセンスとして説教について学ぶ機会をもっていた著者が、まとまったものをこうしてひとつの形にしたものであるようだ。
 
その説教論を批判検討しようという意図はない。専ら

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『生かされて。』(イマキュレー・イリバギザ スティーヴ・アーウィン 堤江実訳)

『生かされて。』(イマキュレー・イリバギザ スティーヴ・アーウィン 堤江実訳)

私は偶々続編としての『ゆるしへの道』から読んだ。そこでは、虐殺を乗り越えた話も書かれてあったが、少し端折った形で、その後の国連での働きの過程のほうに重きが置かれていた。そこでも嫌なことがあり、「ゆるし」というものが突きつけられたのだ。
 
本書は、いわば本編である。助け出されるまでの過程が、一つひとつ丁寧に描かれる。
 
これは、1994年、アフリカのルワンダで起こった虐殺事件の生き証人の報告であ

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『加藤常昭説教全集25 ヨハネの黙示録』(加藤常昭・教文館)

『加藤常昭説教全集25 ヨハネの黙示録』(加藤常昭・教文館)

加藤常昭先生の説教集は、生前にひとつのまとまったものとして世に出たことが、小さな慰めであった。17年間を務めた鎌倉雪ノ下教会を退くこととなったが、最後の一年間を、ヨハネの黙示録を語るように、と長老会が決めたそうである。牧師に与えられた箇所ではなく、教会が決めるというのは、加藤先生にとっては当たり前なのかもしれないが、私にとっては新鮮であった。
 
しかしともかく、最後の連続講解説教が黙示録だという

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『知られざる懸け橋』(黒瀬悦成・朝日ソノラマ)

『知られざる懸け橋』(黒瀬悦成・朝日ソノラマ)

1994年11月6日午後7時。本書はここから始まる。ソウル特別市の永世(ヨンセ)教会は、日曜日の夜にも拘らず人でいっぱいだった。ある人物の60周忌の追悼礼拝が行われたのである。
 
韓国(といまの立場からここでは呼ぶ)において、当時の日本人が偲ばれるというのは尋常ではない。日韓関係、というよりも、日本が一方的に占領していた時代であり、日本人に対する印象が、韓国側から長きにわたって悪かった、あるいは

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『ケアする声のメディア』(小川明子・青弓社)

『ケアする声のメディア』(小川明子・青弓社)

NHKのドキュメンタリー番組『病院ラジオ』は、2018年に始まっている。サンドウィッチマンの二人が地方の病院に出向き、そこで臨時のラジオ局を開設する。患者を一人ずつ呼び、病気のことはもちろん、その家族や人生について話を聞く。そしてリクエスト曲をひとつかける。
 
この番組、できるだけ見るようにしているが、実にいい。今年は福岡の病院が舞台だった。患者と言っても、入院患者であり、かなりの重病であること

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