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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2022年2月の記事一覧

『音楽する脳』(大黒達也・朝日新書)

『音楽する脳』(大黒達也・朝日新書)

2022年2月末の発行日だから、私はずいぶん早く入手して、ずいぶん早く読み終わったということになる。「音楽家の頭脳を大解剖」とか「天才たちの創造性と超絶技巧の科学」とかいう売り文句は、販売促進の出版社が決めたのではないか、と勝手に想像している。著者はもっとストイックだ。
 
著者自身、音楽についてのプロであると言ってよい。作曲ができる。また、中に書いてあるが、子どものころから並々ならぬ関心をもって

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『モチベーションの心理学』(鹿毛雅治・中公新書2680)

『モチベーションの心理学』(鹿毛雅治・中公新書2680)

2022年1月発行。私も、曲がりなりにも子どもたちに勉強をさせようとする仕事に就いている限り、このタイトルは見過ごせない。サブタイトルには「「やる気」と「意欲」のメカニズム」とある。そんなメカニズムが分かっているなら、とっくに世界で知られているだろうという反発心もあったが、そこは著者も、そんなものはない、と結論していたので安心する。当然ではある。人それぞれ、違うのだ。だが、およそどういう脈絡が研究

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『日本疫病図説』(畑中章宏・笠間書院)

『日本疫病図説』(畑中章宏・笠間書院)

もちろん、コロナ禍における関心の中から生まれた本であるはずである。だが、それを強調しているところはない。著者は純粋に、日本における民間伝承を、豊富な写真資料から見せたいという思いのようである。民俗学者として、知るところの多くの歴史的産物を、疫病という観点から一覧してくれている。これはありがたい。日本人が疫病に対して古来どのように考えていたかということを、一目で知ることができるからだ。
 
そもそも

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金子みすゞの「土」

金子みすゞの「土」

テレビ番組「100分de名著」で、金子みすゞの新たな面をじっくり聞くことができた。改めて味わってみたいと思い、詩集を求めた。やがて、「土」に出会った。
 
 
こッつん こッつん
打(ぶ)たれる土は
よい畠になって
よい麦生むよ。
 
朝から晩まで
踏まれる土は
よい路(みち)になって
車を通すよ。
 
 
詩はこれが半分であることは、後半がうっすら目に映るから分かる。私はここで目を上げて、後半を

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『遠慮深いうたた寝』(小川洋子・河出書房新社)

『遠慮深いうたた寝』(小川洋子・河出書房新社)

2021年の晩秋に発行。9年ぶりのエッセイ集だという。様々な場所で書いてきたものを集めているが、八分の三ほどは、神戸新聞の連載である。
 
感じたのは、思いのほか読むのに時間がかかるということ。もっと気楽に、すいすいと読めるものかと思っていたが、心にささくれ立つように、読むスピードにブレーキをかけてくるのだ。文章が読みにくいということはない。むしろ読みやすい。そうだそうだ、などと思いつつ、わくわく

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