朝之小石

短い物語を書いています。

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友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第10話(最終話)

 会が始まり、一人ずつ自己紹介を兼ねた簡単なスピーチをした。もちろん英語で話す。僕は名前を言った後、友達の話をします、とレオに聞いた『3つの約束プラス1』の話をした。それを実践したおかげでたくさんの幸せが訪れ、その友達にとても感謝している、と。  スピーチが終わり、交流会が始まり、それぞれが英語で会話を楽しんでいた。時間が経った頃、僕のそばに背の高い中年の男性が近づいてきた。 「さっき君が話していた友達のことをもう少し詳しく教えてくれないか?」  白人の男性から流暢な日

    • 友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第9話

       おじさんの家に来ることになり、今の中学校に転校になった。初日に学校に行った時、教室の黒板の前でみんなに紹介された。  後ろの席の二・三人の男子が僕を見ながらコソコソ話しているのが見えた。多分いじめっ子グループだろう。もしかしたら何か言われるのだろうか……。不安な気持ちになった。  僕はその嫌な気分のまま、一番後ろの席に座り授業を受けた。休み時間になると案の定、その子達三人が僕の席にやってきた。  そうだ、プラス1だ!でも、もしかしたら……。 『でも、もしかしたら。友達に

      • 友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第8話

        「あのね、明日からご飯が食べられる所ってあるかな?」  言葉が勝手に出た。びっくりしたけれど、春木先生なら大丈夫かもしれない。 「えっ、小野寺君、どういうこと?」  春木先生は驚いた様子で僕を見た。あまり詳しい話をすると嫌な気持ちになるので黙っていた。    僕がそれ以上何も言わないことを春木先生はどう理解したのかわからないが、「わかった。とりあえず、教室に入ってて」と言った。そしていつもよりもっと優しい口調で「心配しなくて大丈夫だからね」と言った。  それからは、め

        • 友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第7話

           ある日、コンビニにおにぎりを買いに行きレジで並んでいた。いつものようにおにぎりを二個持って。僕の前にはおじさんが待っていた。そのおじさんは、ちらりと僕を見て、 「ぼく、晩御飯それだけか?」と言った。  僕はうなずいた。おじさんがお金を払う番になり、おじさんはレジの横のガラスケースを指差して注文していた。そしてレジの横のケースからお茶も取り出した。 「ぼく、今日はおっちゃんのおごりや。これも一緒に食べやー」  と僕の方を向いていった。レジ台には唐揚げとコロッケとフラン

        友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第10話(最終話)

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第6話

           最近、僕はツイていることが多くなった気がする。それが証拠に、給食のお替りじゃんけんで連勝が続いているのだ。お替りじゃんけんとは、給食を全員に配り、余ったおかずを欲しい人達でじゃんけんをして、勝った人がお替りできる決まりだ。人気があるカレーや唐揚げはライバルが多い。魚のおかずはライバルが少ない。ヨーグルトが出た時に(ヨーグルトは一人一個づつで余ることが無い)欠席者がいた時は(欠席者の分はみんなで分ける)クラスのほとんどがじゃんけんに参加する。それでも僕はじゃんけんに勝って、ヨ

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第6話

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第5話

           校門には春木先生が立っていた。登校と下校の時間には、誰か先生が校門に立って「おはよう」「さようなら」とあいさつをするのだ。春木先生は一年の時の担任の男の先生で、僕が大好きな先生だった。  やった!これもレオに話そう。「今日の校門の先生は春木先生だった」と。  心の中でそう思いながら春木先生に「おはようございます」と言った。 「おはよう。小野寺くん、ジャンバーは?」  春木先生が聞いた。 「忘れた」僕はウソをついた。 「そう……」春木先生は力の無い声で言った。そして、

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第5話

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第4話 

           僕は立ち上がろうとして、やめた。履いていた靴を脱ぎ、左右の靴下を脱いだ。そして「はい、寒いから」と、その靴下をレオに差し出した。そして僕は素足に靴を履き、立ち上がった。 「ありがとう」 レオは靴下を受け取った。その声はやっぱり明るくて澄んでいた。 「じゃあね」  僕はレオに言い、公園を出た。そして走って家に帰った。夜が更け、一層寒さが増していた。Tシャツで素足になっていたので寒かったけれど、服の中の胸の辺りだけは温かかった。  家に帰ると、流しの上の窓から漏れる明か

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第4話 

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)    第3話

          「愛空は地球が自転しながら太陽のまわりを周っていること、知ってる?」  レオの話についていくのは大変だ。自分より小さい子の話を聞いているとは思えない。まるで大人と喋っているみたいだ。 「知ってるよ」    学校では習っていないけれど、僕は知っていた。おじいちゃんから聞いたことがあったからだ。天体観測が好きだったお父さんの本を見ながら空のことをいろいろ話してくれた。 「どれくらいのスピードで回っているか、知ってる?」 「知らない……」 「すごい速いんだよ。自転も公転も

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)    第3話

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)   第2話

          「ポケットにクッキーが入っているんだ。一緒に食べよう」  レオは両手で左右のポケットをまさぐり、「これ?」と右のポケットからクッキーの袋を取り出した。  僕はそれを受け取り、口を開けた。お父さんかお母さんが食べていた残りだったので袋はもう開いていた。そして手を入れ中を探ると、クッキーが三枚だけ残っていた。一枚取り出し「はい、これ。食べよう」とレオに差し出した。そして僕の分も一枚取り出し、口に入れた。唇がカサカサだったのでクッキーの粉が唇に付いたけれど、口の中は甘い味が広が

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)   第2話

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第1話

           僕は家を飛び出した。お父さんとお母さんが喧嘩を始めたからだ。言い合いが激しくなると僕も怒鳴られるし、機嫌が悪い時は蹴られたりする時もある。床に置いてあったジャンバーとテーブルにあったクッキーを持ち、素早く静かに外へ出た。  外には誰もいなかった。お父さんとお母さんの怒鳴り合う声は外まで聞こえていたが、誰も聞く人はいなかった。  僕はジャンバーのファスナーを上まで上げ、クッキーの袋をポケットに入れた。そして両手もそのままポケットに入れて歩いた。シューシューという音を鳴らし

          友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第1話

          小説 誕生日 第10話(最終話)

           今日は放課後に会議が無いので、テストの採点や明日の授業の準備をしてから学校を出た。向かう先は、まずはスーパーだ。今晩のメニューはカレーを予定している。以前、ほたるが来た時に作ったカレーが好評で、それから定番となっている。  カレーのルーの箱の後ろに書いてある通りの材料・分量・作り方で、その他のものは一切入れない。水の量もちゃんと計る。姉貴の作るカレーは具材 がその時々で変わり、いろいろな調味料も足すらしい。ほたるいわく「おいしいんだけど、毎回、微妙に味が違う」らしい。そし

          小説 誕生日 第10話(最終話)

          小説 誕生日 第9話

          「それに妊娠中って自分の体なんだけど、いつもと勝手が違う、っていうのかな――」  宮脇先生がつけ加える。 「よくあるじゃないですか。例えば、風邪気味だなって思ったら、こんな風にすれば治る、っていう自分流のやり方」 「あっ、あるある。僕は『あっ、やばいな』って思ったら、サウナに行くね。で、しっかり温まって、家に帰ってすぐに寝る」  得意げに答えたのは畑先生だった。 「私も熱ーいお風呂に入って、温かいココアを飲んで寝る」  二人の答えに宮脇先生はそうそう、と共感しながらう

          小説 誕生日 第9話

          小説 誕生日 第8話

          「そう、別に赤ちゃんにも異常はないんだけど、あるのよね、そういうこと。もうクタクタだった」  山内先生は首を大げさに傾けた。 「妊娠、出産って本当に個人差があるから、初産でもスッと生まれる人もいるしね。命と引き換えに出産ってこともゼロじゃないしね。思っている以上にいろいろあるのよね。畑先生の奥さん、入院した、って言ってませんでした?」  僕を通り越し、僕の隣に声を掛ける。教科書に目を通していた畑先生は「えっ?」と山内先生の方に顔を上げる。 「畑先生の奥さん、妊娠中に入

          小説 誕生日 第8話

          小説 誕生日 第7話

           次の日、朝ご飯を用意しているとほたるが起きてきた。 「あー、やっちゃん、これハムエッグ?」  目は半分しか開いていないのに、鼻だけはクンクンと子犬のように動かす。 「ああ、ほたるの好きなハムエッグ作ったから、顔洗ってこい」 「はーい」  昨晩、ほたるが床に就いた後も頭の中が不規則なリズムで波打っていた。姉貴の言い分もわかるが姉貴の行動は理解できない。あれほど両親のことを大切に考えている姉貴なのに。僕らを育ててくれたことを僕の何倍も感謝しているはずなのに。  弟だ

          小説 誕生日 第7話

          小説 誕生日 第6話

          「やっちゃんは長男だからさ、あのババアも何も言わなかったでしょ?」  姉貴は穏やかな顔つきに戻っていた。 「そうだなぁ、特にばあちゃんに何か言われた記憶はないなぁ」 「田舎の長男は大事にされるの。跡取りだからね」 「そんなもんかなあ……」 「そうだよ。あの婆さんにとって、やっちゃんは大事な跡取りだったんだよ」 「でも、父さんと母さんはそんなこと一度も言ったことないけどな……」  地元には帰ってきたが、跡取りとか考えたことも無かった。  「父さんたちはそんなこと

          小説 誕生日 第6話

          小説 誕生日 第5話

           姉貴は立ち上がり、座敷の机の上の皿を集め持ってきた。残っていたイチゴをこちらの皿に加え、台所の流しで皿を洗った。 「でもさ、姉さんは親孝行してるよな。こうやってほたるを産んで、親父もおふくろも楽しみができたし――」  椅子に戻った姉貴は足を軽く組んだ。 「だってさ、やっちゃん……」  姉貴はしんみりとした口調になり、誰もいない座敷に顔を向けた。 「私たち、捨てられたんだよ……」  まるで独り言のようだ。 「野垂れ死にしたっておかしくないのに、こんなに大事に育

          小説 誕生日 第5話