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友だち 3つの約束プラス1(ワン)  第6話

 最近、僕はツイていることが多くなった気がする。それが証拠に、給食のお替りじゃんけんで連勝が続いているのだ。お替りじゃんけんとは、給食を全員に配り、余ったおかずを欲しい人達でじゃんけんをして、勝った人がお替りできる決まりだ。人気があるカレーや唐揚げはライバルが多い。魚のおかずはライバルが少ない。ヨーグルトが出た時に(ヨーグルトは一人一個づつで余ることが無い)欠席者がいた時は(欠席者の分はみんなで分ける)クラスのほとんどがじゃんけんに参加する。それでも僕はじゃんけんに勝って、ヨーグルトを食べることができた。

 もしかすると、レオに聞いた『楽しいことみつけ』のせいなのか――。今度レオに会ったら聞いてみよう。楽しいことみつけをすると、楽しいことが増えるの?

 “詩を作ろう”という宿題があった。身近なことに目を向け、短い言葉で表現するのだ。僕は『大水持ち』(おおみずもち)という題の詩を書いた。

  大水持ち
 僕の家は大水持ちだ
 水道をひねると水がどんどん出てくる
 止まることがない
 飲むこともできる
 手を洗うこともできる
 汚れた物を洗うときれいになる
 飲んでも、手を洗っても、汚れた物を洗っても、またどんどん出てくる
 僕の家は大金持ちではないけれど、大水持ちだからすごい

 レオに教えてもらったことを少し入れて詩を書いた。自分の書いた詩を一人ずつ発表した。僕が詩を発表すると、みんなが笑った。そして「僕の家も大水持ちだ」「私の家も大水持ちだ」と口々に言った。そのうちの一人が「ひろみちゃんは大髪持ちだ」と髪の長い子を指して言った。「ホントだ」また口々に言った。その後しばらく、クラスでは「大○○持ち」というのが流行っていた。
 これもレオに話そう。

 そのうち、お父さんが家に帰って来なくなった。お母さんはたまに帰って来て、お金を置いていってくれるようになった。でもまたすぐに出て行くが。僕はそのお金で、夕方にコンビニにおにぎりを買いに行くことができた。いつも二個買うことに決めている。一個は僕の分で、もう一個はレオの分だ。

 レオの好きなおにぎりはなんだろう。想像しながらおにぎりを選ぶ。レオは小さいから梅干しは無理かな。僕はツナマヨが好きだけれど、レオはどうだろう。鮭?昆布が好きかな?まさか明太子なんてないよな。チャーハンの方がいいかな……。

 レオのことを考えながらいろいろ迷うのは楽しい。結局だいたい、ツナマヨになってしまうのだが。

 そしておにぎりを二個持って公園に向かう。
 レオに会った時間よりずっと早い時間だけれど、もしかしたら会えるかもしれない。

 レオは公園にいなかった。ベンチに座り、しばらく待っている。その間、僕は空を見ている。日が暮れて暗くなっているけれど、夜中ほど星は見えない。それでも空を見ているのは楽しい。
 しばらく経つと寒くなってくるので、僕は家に帰る。レオに会えなかったのは残念なのだけれど、寂しいとは思わない。きっとそのうちに会える気がしていたから。

 レオに会ってから、僕は“寂しい”と思うことが無くなった。何故なのかはわからない。以前はお母さんが夜、家にいなくて一人の時は寂しくて不安で、夜中に何度も目が覚めていた。今は一人で家で寝ていても大丈夫。寂しいとか不安とかそういう気持ちが無くなった。
 一人でいる時は、家の鍵をかけて、それから毛布にくるまって、今日一日のことを思い出す。楽しかったこと、うれしかったことを思い出す。そうすると自然にその時と同じ気持ちになり、心がふわっとなったり、ワクっとしたりする。そしてそのまま眠ると、朝までぐっすり眠れるのだ。

 もしかすると、いつもレオのことを思い出しているから、レオがそばにいるような気持ちがしているのかもしれない。

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