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徒然なるままにあることないこと書き付けます。

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記事一覧

遠い記憶①

長く、治癒しない傷がある。 我慢のできない痒みを伴った、触れると痛覚を刺激する傷だ。 患部は熟れた林檎のように赤黒く腫れ、その内側には膿が溜まった。 そのおかげで…

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4か月前
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雨とヘッドライト

 火曜日の朝8時49分。市営地下鉄の車内は、通勤ラッシュの時間から30分ほど過ぎているので乗客もまばらである。車窓に沿って内側に向かい合うように設置されている黄緑色…

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4か月前
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役割について

ー 2023年8月 ー 京都盆地の不快な暑さに耐えかねた僕は、逃げるようにして北陸の実家に帰った。 京都駅舎を鱗のようにびっしりと覆うガラスが、激しく照りつける夏の日差…

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7か月前
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雨蛙

今年も梅雨の時期が来たようだ。 この時期、夜になると田んぼが周りにある地域では蛙たちが大合唱をはじめる。 都会に住んでいる人たちにはあまりピンとこないだろうが、…

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11か月前
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出国

関西国際空港。 しかし、空港というものは、なぜこうも人を昂らせるのか。 バス停や駅などの巷のターミナルとは、明らかに異質な雰囲気がそこには漂う。 僕を乗せた南海…

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2年前
2

或る夏の夕方【懐古】【郷愁】

 毎年この時期になると、僕の脳裏には夏休みに親戚同士で行うバーベキューの記憶がフラッシュバックする。当時、そこにあったにおいや音とともに。でも、その当時というも…

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2年前
4

2月10日

明朝6時。 大学生になって2年、こんなに早く起きたことはない(まず起きる理由もない)。 しかも2月。 空気は張りつめ、寒い朝の音がする。 前日までに荷物は詰めた。 壁…

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2年前
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忘れていくこと

小さい頃から、僕はどちらかというと記憶力がいい方だった。 自分の経験したこと、見聞きしたことは無意識のうちにほとんど覚えていたし、それらについて聞かれればどれだ…

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2年前
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遠い記憶①

遠い記憶①

長く、治癒しない傷がある。
我慢のできない痒みを伴った、触れると痛覚を刺激する傷だ。
患部は熟れた林檎のように赤黒く腫れ、その内側には膿が溜まった。
そのおかげで歩行は困難になり、足を引きずるようにしか歩けなくなった。
患部周辺の皮膚を揉むと、どろどろとした膿が濃い血液とともに溢れ出る。
そのうち、いつの間にか傷口はまるで阿蘇のカルデラのように、広く、深く陥没してしまっていた。

子どもの頃、昆虫

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雨とヘッドライト

雨とヘッドライト

 火曜日の朝8時49分。市営地下鉄の車内は、通勤ラッシュの時間から30分ほど過ぎているので乗客もまばらである。車窓に沿って内側に向かい合うように設置されている黄緑色の座席は、どうやら長い間交換されていないようで、いつかの誰かが残したシミや衣服とのスレで変色している箇所が散見される。僕は、太ももに載せたバックパックのサイドについているドリンクホルダーから、3分の2ほど読み進めた文庫本を手に取ってペー

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役割について

役割について

ー 2023年8月 ー

京都盆地の不快な暑さに耐えかねた僕は、逃げるようにして北陸の実家に帰った。
京都駅舎を鱗のようにびっしりと覆うガラスが、激しく照りつける夏の日差しを同じようにギラギラと反射させている。人でごった返す構内。定刻を約3分ほど遅れて2番線のホームに滑り込んだ新快速電車は呼吸をするように、家族連れや半袖のワイシャツを着たサラリーマンといった人の群れを規則正しく一通り吐き出し、北東

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雨蛙

雨蛙

今年も梅雨の時期が来たようだ。

この時期、夜になると田んぼが周りにある地域では蛙たちが大合唱をはじめる。
都会に住んでいる人たちにはあまりピンとこないだろうが、彼らは夜通し鳴き続けるのだ。慣れない人には騒音も甚だしいだろう。おかげでなかなか寝付けない…なんてこともあるはずだ。
しかし、目を閉じ何気無しに聴いていると、実に様々な種類の蛙がいることに気づく。
音程やテンポ、声色も様々な種類の蛙がひと

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出国

出国

関西国際空港。

しかし、空港というものは、なぜこうも人を昂らせるのか。
バス停や駅などの巷のターミナルとは、明らかに異質な雰囲気がそこには漂う。

僕を乗せた南海電車は、海を跨ぐ連絡橋を渡りきり終点へと辿り着いた。
両開きのドアが開くと、赤や黄、ターコイズブルーなど色とりどりのバックパックを背負いスーツケースを転がす人々がプラットフォームへと流れ出た。
彼らにはそれぞれの行き先があり、その全てが

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或る夏の夕方【懐古】【郷愁】

或る夏の夕方【懐古】【郷愁】

 毎年この時期になると、僕の脳裏には夏休みに親戚同士で行うバーベキューの記憶がフラッシュバックする。当時、そこにあったにおいや音とともに。でも、その当時というものが具体的にいつを指しているのかは分からない。このイベントは毎年のように開かれていたが、かなしいかな高齢化に伴って最近はめっきり回数が減ってしまった。僕たち家族は毎年欠かさずそこに参加していた。

 父のセレナに揺られて、母、弟2人と共に向

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2月10日

2月10日

明朝6時。

大学生になって2年、こんなに早く起きたことはない(まず起きる理由もない)。
しかも2月。
空気は張りつめ、寒い朝の音がする。

前日までに荷物は詰めた。
壁に立てかけた黒のバックパックは、もう起きている気がする。
「早くしろよ」と言わんばかりに、のそのそと身支度を整える僕を静かに、そして厳しく見つめる。
外はまだ暗い。

半袖半ズボンの上から、分厚い長ズボンと圧縮できるダウンを着る。

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忘れていくこと

忘れていくこと

小さい頃から、僕はどちらかというと記憶力がいい方だった。
自分の経験したこと、見聞きしたことは無意識のうちにほとんど覚えていたし、それらについて聞かれればどれだけ過去のことであろうとほとんど即答できた。し、今でも割と昔の物事でも細かく覚えていたりする。(神の悪戯か学問の方にはその記憶力は発揮できなかったけれど)

少し前、学生時代の友人とリモートで話す機会があった。
お互い大学時代にアジア圏を中心

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