【新事業担当者なら知っておきたい】PSFとPMFの違いとPSFに必要な5つの要素
こんにちは!NEWhで新規事業の伴走支援をしている谷口です。
今回はスタートアップのクローズ理由として大きな「顧客のニーズがないプロダクトを作ってしまう」ということがなぜ起こってしまうのか、どうすればそのリスクを下げられるのかについて、語り尽くされた感のあるフィットジャーニーのなかでもいまだに定義があやふやで、なぜか疎かになりがちPSF(Problem Solution Fit)の重要性と、揃えたい5つの要素について考えてみたいと思います。
なぜ人は「ニーズがない」プロダクトをローンチしてしまうのか?
まずはじめに、アメリカで主にスタートアップやベンチャーキャピタルのデータ提供と分析、レポートを提供するCB Insight社による、スタートアップのクローズ理由のTOP3を確認することから始めてみたいと思います。
資金調達については想像ができるところですが、そのほかの2つの理由についてはいずれも、起業や新規事業に携わる方なら誰しも、事業構想段階から常に恐れ、必ず避けて通りたいことのはず。しかしなぜ、多くのケースでそれが現実になってしまうのでしょうか?
その背景には「PSF」を正しくやり切れていなかったり、真摯に顧客の反応に目と耳を傾けられていなかった可能性も少なくないのではないかと想像します。
混同されがちな「PMFとPSFの違い」とは?
語り尽くされている感のあるフィットジャーニーですが、かんたんにおさらいしてみましょう(→下図)。スタートアップやSaaSが一般的になるにつれて定義や用語が市民権を得てきていますが、この中でもっとも馴染み深いのがPMFでしょう。しかしよくよく見聞きすると、PSFとPMFが混同されて使われていたり、明確にフェーズ分けされていないケースも多く見受けられるのが実情です。
・Problem Solution Fitとは
サービス/プロダクトがターゲット顧客に「どうしても使いたい」「今すぐ使いたい」「お金を払ってでも使いたい」と言ってもらえる状態にすること。
・Product Market Fitとは
ターゲット顧客を熱狂させるサービス/プロダクトが、ビジネスとして成立し、それが継続する状態にすること。
シンプルで分かりやすく言葉にすると、このようになります。
PSFの方は顧客が感じる価値そのものに焦点を当てており、ターゲット顧客がどうしても解決したい課題に対して、解決方法として提供される価値があまりにも高い、もしくは圧倒的なコストパフォーマンスがあると感じてもらえる状態を目指しているのに対して、PMFの方はその顧客を熱狂させる価値を、いかに効率良く提供し、ビジネスとして成立させ切れるかが論点になっているところが大きな違いです。
PSFとPMFでは検証すべきことや方向性が全く異なるため、決して混同してはいけない、そもそも段階が違うため同時にはできないということがわかります。
良いPSFのために必要な5つの要素
PSFとPMFの違いが整理できたところで、良いPSFには何が必要なのか、具体的な進め方と合わせて5つ挙げたいと思います。
1)顧客理解
PSFの手前のフェーズ(CPF)で、明確なターゲット顧客と課題の特定がされていることが、まず大前提になります。顧客や課題の解像度が粗かったり、顧客との対話が質的にも、量的にも不十分なまま次に進むことは大きなリスクになります。
2)市場/競合理解
十分な顧客との対話を経て理解が深まると、自然に現在抱えている課題を、今はどう解決しているのか?が見えてくることと思います。顧客がどうしても解決したい課題を未解決のまま放置していることはありえないことで、すでに何らかの方法で解決を図っているはずです。
ただし、今現在はどんな解決をしているのか、どんな方法を使っているのか、インタビューで全てを聞き出すことはかなり難しく、事前に市場にどのような解決手段があるのか、それぞれの提供価値や、メリット・デメリット、どのようなシーンで利用されていそうか、デスクリサーチを中心に幅広く捉えて、インタビューの前に市場/競合環境の把握と、検証したい仮説を立てておくことが大切です。
予め前提知識と仮説を持っておくことで、様々な角度から顧客へ問いかけることができ、顧客が置かれている状況をより深く、具体的なシーンとともに捉え切る可能性を高められるでしょう。
3)磨き込まれた提供価値
市場/競合の理解が進むと、その中で自分たちの提供価値はどこにあるのか、なぜ顧客が自分たちのサービスを使うのだろうか、という問いに直面します。当初立てていたアイデアが持つ提供価値が、市場/競合のなかにあってもなお魅力を失わず、強い差別化要素を持っているということはとても稀なケースで、多くの場合競合の優れた提供価値やコストパフォーマンスと比較してみると、見劣りする部分や新たに考慮しなければならない課題が複数見つかってきます。
ここで見つかった課題に向き合い、競合よりも優れた価値に磨き上げるか、競合との争いを巧く避けながら、ユニークな価値を見出すことが必要になります。
4)訴求デザイン
ここまでたどり着く頃にはプロジェクトメンバーの中でも明確に、自分たちのサービス/プロダクトの価値や強みが共通言語化されていることと思います。
ここで必要になるのが、顧客に対してそれをどう伝え、価値を正しく感じ取ってもらうか、その表現や伝達方法のデザインです。情報量も熱量も積み上げてきたプロジェクトメンバーと、前提知識もなく、初めて自社のサービス/プロダクトに触れるターゲット顧客とでは、理解力に大きな差があるのは当然のこと。
ただし、この部分はサービス/プロダクトの性質により大きく異なるところで、何枚かのスライドで伝わる内容のものもあれば、MVPのようなある程度のクオリティを持ったフィジカルなモノがなければ、価値が正しく伝わらないもの、利用料金や得られる成果がリアリティをもった数字やクチコミで示されなければならないものなど、様々です。
せっかくのユニークな価値が、顧客に正しく伝わらなかったために、反応がいまひとつ乏しかったり、疑問を多く抱えられたりしないように、ミニマムかつ必要十分な伝達方法を模索したいところです。
5)率直なフィードバックの獲得と活用
最後は顧客検証、実践あるのみです。ターゲット顧客に価値が正しく伝わり、その反応やフィードバックをありのまま得られるように、被験者のスクリーニングや率直な意見を得られやすい条件や環境を整える必要があります。
また、顧客が現在利用している課題の解決方法(≒競合が提供するサービスやプロダクト)は何なのか?それをどのように決定しているのか、KBF(購買決定要因)として複数把握し、そのなかで特にどの要因を特に重視するのかを丁寧に確かめておきたいところです。
もしPSFしているサービス/プロダクトの価値が、深刻な課題を抱える顧客に正しく伝わった場合には、明らかに他とは異なる「今すぐ使いたい」「いつから使えるのか」「いくらなのか」といった前のめりな言葉や、高い問合せ率や資料請求率などの反応が得られるはずです。
一方、判断が難しいのが「あれば使いたい」「この条件がクリアされれば使いたい」といった煮え切らなかったり、条件が付く場合です。これには様々な要因があり、ターゲットズレや極端なバイアスがかかった回答、訴求のデザインが不十分で価値が正しく伝わっていない可能性もあるため、複数の検証サンプルで慎重に見極めたいところです。
さいごに
フィットジャーニーのなかでどこか存在感があいまいなPSFですが、ここまでお伝えしてきたように、「サービス/プロダクトを顧客がどうしても使いたいかどうか」を見極める、とても重要な検証フェーズです。
限られたリソースと時間制限のなかで、先に挙げた5つの要素を十分に揃えることが難しかったり、とかくステークホルダーが目を向けがちな、このあとのSPFで検証する「そもそもできるのか」やPMFで検証する「儲かるのか」「勝ち残れるのか」という期待やプレッシャーに押されてしまい、一度にまとめて検証しようとしてしまった結果、ポテンシャルがありながら次のステージに進めないという事象も十分起きえます。
これにはプロジェクトメンバーの努力だけではクリアできない課題も多く、ステークホルダーや新規事業を支援する役割の組織や担当者が、全体感のなかで今何をすべきなのか、何を検証すべきか、どのような状態が正しい/順調なのかを巧く、時には泥臭く調整することが欠かせません。
ぜひ、PSFのフェーズを疎かにせず、協力者や理解者を巻き込みながら、ローンチ後に「ニーズがなかった」「競争に敗れた」ということに陥らないように、ひとつひとつ確実にフェーズを積み重ねていきましょう!
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