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【世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?】ビジネスパーソンだけではなく、全ての人に必要な「真善美」

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

〜新しい視点をくれる山口周さん〜

以前読んだ「ビジネスの未来」から2冊目となる山口周さんの著作である。

「ビジネスの未来」を読んだ時にも感じたのだが、山口周さんは世の中の二、三歩先を見ている様な気がする。日本の現状があり、いろんな知識人・経済人・企業人が日本の未来を描いたりするのだが、山口周さんの考察はさらにもう一歩先を行く。
本書は5〜6年前に書かれたものなのだが、未だ世の中は本書についていけていないと思う。

「ビジネスの未来」と本書で、新しい視点が開けたのは間違いない。今後、山口周さんの著作を読んでいってみたい。


〜「美意識」=「真善美」〜

さて、本書のタイトルから僕は「え?そもそも、世界のエリートたちは美意識を鍛えてるの?」と思ったのだが、山口周さんによると、英国のロイヤルカレッジオブアート(世界で唯一修士号・博士号を授与できる美術系大学院大学)では「グローバル企業の幹部トレーニング」というビジネスを企業向けに拡大しているそうである。
また、ニューヨークのメトロポリタン美術館で実施されている早朝のギャラリートークには、旅行者と学生の中にグレースーツに身を包んだ知的プロフェッショナルと思わしき人たちをよく見かけるようになったそうである。
エリート層、とはいわば組織におけるリーダー的な地位にいる人々であり、そういう人たちが「アート」を見る目を鍛えて「美意識」を養おうとしているのだ。

じゃあ、なぜエリートは「美意識」を鍛えるのか?
「美意識」という言葉がややこしいのだが、山口周さんは「美意識」=「真善美」と定義する。
「真善美」とは、人間が理想とすべき基本的な価値の概念であり、行動規範とされるもの。分解すると、
「真」とは、嘘偽りのないまことのこと。
「善」とは、道徳的に正しいこと。
「美」とは、美しいさまのこと。
と言える。
そして、エリートはこの「真善美」を鍛えるために「アート」を見る目を養うわけである。

〜全ての人に必要な「真善美」という軸〜

「アート」とは、いわゆる直感や感性にあたる領域で理解するものである。一見、ビジネスの世界では軽く見られる傾向があるようだが、「真善美」をひとつひとつ紐解きながら、「美意識」の重要性を解説してくれる。

まず、「真」について。
現代ではしばしば論理的・理性的な情報処理スキルが重宝されるが、この手法に限界が来ている。今日の世界の状況は「VUCA(Volatility=不安定、Uncertainty=不確実、Complexity=複雑、Ambiguity=曖昧)」という言葉で表現されるが、問題を構成する因子が増加して論理思考アプローチが機能しなくなる。また、論理思考アプローチによる問題解決はしばしば同じ回答が出るため、企業間における戦略の差異が生まれなくなり、「正解のコモディティ化」が発生する。どういった戦略が正しいのか、その選択するのには直感や感性が必要となってくるのである。

続いて「善」。
「法整備が追いついていない」というセリフはワイドショーや討論番組で頻繁に聞くが、変化の早い現代においてはルール整備がシステムの変化に引きずられる形でなされることになる。
つまりは、法の無いグレーゾーンでの決断に迫られる場面がある。「法律違反ではないから」という基準で判断すると、結果的に倫理的・道徳的に人の道を外す危険があるため、やはり、そういった場面においても、直感や感性が判断基準となる。高レベルな判断を誤らないためには、直感や感性を高いレベルに引き上げる必要があるのである。

最後に「美」。
世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつある中で、機能や実用性だけでは製品が売れない。「自己実現欲求」を満たす様なデザインやブランディングが企業には求められるようになる。この点はわかりやすく、やはり「美意識」を高めることが「美」の感性を養い、人々を魅了するデザインを構築することに繋がる。


さて、こうしてみると、本書は主にビジネスにおける視点で解説しているが、「真善美」というのは人間の理想の姿を表しているため、ビジネスパーソンだけでなくすべての人が「美意識」を養うべきなのだろうと思う。
巷では、やたら論理や理屈を重視して、感覚や感性を無視する傾向があるが、人間の活動の根源は感性や感情なのだから、そこを無視するような社会を容認してはいけないと思う。
人間として重要な軸をビジネスにも持ち込むべき、というのが山口周さんの考察だが、まず全ての人が自分の中の軸を見つけるべきだと感じた一冊だった。「アート」は全ての人が触れるべき、自身の軸となる教養なのだ。

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