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踏み入れてはらなぬ禁域――村より怖い島怪談!『実話怪談 怪奇島』紹介&試し読み

余所者にはわからない掟や禁忌の場所が存在する日本の中の異界、島。
全国28島の本当にあった怖い話を大紹介!

あらすじ・内容

主家の正妻にいびり殺された美貌の奴隷、イマジョ。
遺族は彼女の墓に竹を逆さに刺し、呪詛の念を唱えた。 
「呪え。祟れ。仇をとれ……」
やがて娘は甦り、すべてを根絶やしにしていく……

その名を口にしただけで祟られる!
最恐の怨霊「イマジョ」他、奄美・琉球のマジムンを大特集。
その他、全国28島の本当にあった怖い話を大紹介!

【粟島】近海に浮かぶ恐怖のいかだ
【伊豆大島】人格を変えてしまう宿
【三宅島】雄山に浮かぶ赤い火の玉
【神津島】二十五日様の禁忌
【父島】海岸を彷徨う幽霊の足
【硫黄島】消える水筒の水
【答志島】不気味な数え歌の真相
【犬島】六つ目の化け猫の怪
【情島】奇怪な七不思議伝説
【向島】煮干しを仏壇に供える理由
【高島】すすり泣くお伊勢岩
【志々島】ご神木の祟り
【奄美大島】口にしてはならぬ名前
【久高島】悪夢を呼ぶ流木
【宮古島】来訪神パーントゥの呪い
【与那国島】口減らしの崖の祟り
【壱岐島】荷物に紛れ込む傷人形
【屋久島】森に現れる光るシカ
他、タブーを覗き見る全28島の恐怖譚!

試し読み

【宮古島】パーントゥの泥(沖縄県) 月の砂漠

  沖縄県の宮古島の一部地域では、パーントゥ祭と呼ばれる奇祭が今でも行われている。
 来訪神であるパーントゥが集落を回り、厄落としをしていくという伝統行事だ。
「僕が大学生の時、後輩だったKが、この祭りを見に行ったんですよ」
 東京在住の会社員であるTさんはそう語り出した。Tさんは四十代だから、二十年ほど昔の話になる。
「そこでKは、パーントゥとトラブルになってしまったようでして」
 パーントゥ祭でパーントゥを演じるのは、島の保存会の人間だ。彼らは土偶の顔に似た仮面をかぶり、つる草を身体に巻き付け、全身に泥を塗りたくった姿で町を歩くという。
「パーントゥは地元の住人であれ、観光客であれ、すれ違った者には誰彼かまわず、泥をなすりつけるんだそうです」
 この泥は臭いが強く、一度つくとなかなか取れないらしい。それでも、泥をつけられることで厄落としになるから、ほとんどの人は喜んで泥を受けるという。
「でも、Kはそうではなかったようで。しかも、Kには気の荒いところがあって」
 パーントゥが泥をつけようとした際、Kさんは本気で怒り、パーントゥを蹴り飛ばしてしまったのだ。
「周りの人たちが仲裁に入って、大事にはならずに済んだそうですけどね」
 Kさんは帰京後、そのトラブルをまるで武勇伝のようにTさんたちに語って聞かせたという。
「右膝から下を泥まみれにされちゃいましたよ、なんて言って笑ってました」
 だが、その直後から奇妙なことが起きる。
「Kの右脚からずっと嫌な臭いがするんです。まるで腐った泥みたいな臭いが。島から帰ってきて、もうだいぶ経っているのに」
 Kさん自身はそれに気づいていない様子だった。一週間経っても、二週間経っても、何故かKさんの脚の臭いは消えず、むしろ強さを増していったという。
「それからしばらくして、Kは死にました」
 バイク事故だったという。
「僕もKの通夜に出ました。事故死とは思えないほど、死に顔はきれいだったんですが……」
 棺の遺体を見たとき、Tさんは息が止まりそうになった。
「なかったんですよ。右膝から下が」
 遺族によると、事故の衝撃で吹き飛んでしまい、現場からも見つからなかったのだという。
「偶然だとは思うんですが、まるでパーントゥに持っていかれてしまったみたいで……」
 パーントゥという名前の語源には、
「人を食う者」
 という学説もあるのだと、Tさんは教えてくれた。

「宮古島のパーントゥ」写真AC

ー了ー

◎著者紹介

小原猛 (こはら・たけし)

 沖縄県在住。沖縄に語り継がれる怪談や民話、伝承の蒐集などのフィールドワークをしている。著作に『沖縄怪談 耳切坊主の呪い』、「琉球奇譚」シリーズ、「沖縄の怖い話」シリーズ、「琉球怪談」シリーズ、『沖縄怪異譚大全 いにしえからの都市伝説』、『琉球怪談作家、マジムン・パラダイスを行く』など。コミック版『琉球怪談〈ゴーヤーの巻〉〈マブイグミの巻〉〈キジムナーの巻〉』(画・太田基之)も話題。

久田樹生 (ひさだ・たつき)

1972年生まれ。映画、テレビ、ラジオ作品などのノベライズ、実録怪異ルポなど多方面で活躍中。代表作に『忌怪島〈小説版〉』、『犬鳴村〈小説版〉』『樹海村〈小説版〉』『牛首村〈小説版〉』の東映「村」シリーズ、「ザンビ〈小説版〉」、ご当地怪異譚集『仙台怪談』などがある。

月の砂漠(つきのさばく)

血圧高めで恐妻家の放送作家。大学で佐々木喜善や柳田國男の民俗学に触れて以来、東北を中心に日本各地の怪奇伝承を蒐集、個人的に研究し続けている。第四回「上方落語台本大賞」で大賞受賞。共著に『奥羽怪談 鬼多國ノ怪』『実話怪談 犬鳴村』『実話怪談 樹海村』『実録怪談最恐事故物件』など。

濱幸成(はま・ゆきなり)

一九八九年福岡県生まれ。怪談作家、心霊探検家。国内外で千箇所を超える心霊スポットの探索と、世界の怪談蒐集を行っている。著書に『福岡の怖い話』(TOブックス)等。DVD『怪奇蒐集者 濱幸成』(楽創舎)。「稲川淳二の怪談グランプリ2017」(関西テレビ)ほか、メディア出演多数。

夕暮怪雨(ゆうぐれ・かいう)

怪談好きの書店員。執筆業の父と漫画家・伊藤潤二から大きく影響を受ける。YouTube にて夕暮兄弟名義、弟の血け つ雨う と怪談朗読動画を配信。サウナと猫を愛す男。共著に『恐怖箱 呪霊不動産』『村怪談 現代実話異録』など。

戸神重明(とがみ・しげあき)

群馬県出身、在住。主な著書に「怪談標本箱」シリーズ、『いきもの怪談 呪鳴』『上毛鬼談 群魔』『群馬百物語 怪談かるた』『恐怖箱 深怪』など。地元の高崎市で怪談イベント「高崎怪談会」を主催。編著作品に『高崎怪談会 東国百鬼譚』『群馬怪談 怨ノ城』がある。

撞木(しゅもく)

群馬県出身、在住。元タウン誌記者。幼い頃から妖怪や不思議な話に興味があり、「高崎怪談会」にスタッフとして参画。共著に『群馬怪談 怨ノ城』がある。

影絵草子(かげえぞうし)

茨城県在住、十代から実話怪談を蒐集し数にして千以上、現代怪談から土着風習など幅広く語り活字にする活動を七年続けている。主な著書に『茨城怪談』、共著に『実話怪談 牛首村』『鬼怪談 現代実話異録』『実話怪談 最恐事故物件』など。

筆者(ふでもの)

ウェブ作家として幅広いジャンルにて執筆し、かつ小説講座や投稿サイトなども運営していた父・筆者。芸能方面にて経営からプロデュース、バンドのマネージャーや、ミュージシャンとしても活動する娘・沫。そんな親子が得意分野を活かして怪談と言うジャンルに挑戦。一日一話。千話終了のショート怪談を、Twitter アカウント〈みっどないとだでぃ〉にて連載中。


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