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組織の成長に合わせて人事ポリシーを制定、または改善する3つの観点~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:10~

こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」について、50名から4000名まで成長した企業で、各ステージの人事組織戦略の遂行に人事役員として奔走した自身の経験をもとに、人事トップになるために実行したことや、意識していたマインド、経営や現場とのコミュニケーションのtipsなどをお伝えしていきます。

私の経歴詳細は以下からご確認ください。

それでは、今回のアジェンダです。
今回は組織の成長に合わせて人事ポリシーを制定、または改善する3つの観点を解説します。


そもそも人事ポリシーとは何か

人事ポリシーは会社や経営者の「人」に対する考え方を示したものです。

これは価値観や哲学に根ざした人事方針であり、人事に関係する様々な決定をする際に大前提となります。つまり人事制度の核となるルールになります。

具体的には、採用基準、昇進基準、評価方法、給与体系、労働環境の方針などが含まれます。

人事ポリシーは社内だけではなく、社外にも公開され誰でも読めるようになっていることが一般的です。ステークホルダーや求職者は、人事ポリシーを読むことによってその企業がどのような人材を求めていてどのような評価制度なのかを知ることができます。

人事ポリシーに書かれる内容は以下の4つに分類することができると私は考えています。

人事ポリシーの4分類

言語化しているモノが少しずつ違うので、企業によってはポリシーという言葉を使わずに、Philosophy、Way、Credo、Valueなどの名称を使っている場合もあります。この辺りは正解がないので企業によって自由です。しかし、自由がゆえに、個人側からするとそれぞれ何を大事にしているのかがぼやけて見えることもあるので分類しました。この4分類のどれかだと思うとわかりやすいのではないかと思います。

特に、行動指針とどう違うのか?という質問をいただきますが、行動指針はこの4つの分類の中のDoing型に近いものだと考えます。似ていますが両者の違いは、行動指針がより具体的なものであるのに対し、人事ポリシーは行動指針よりも抽象的で、よりコアにある考え方だと捉えてもらえればと思います。

人事ポリシーを制定する目的やメリット

ただし、人事ポリシーは必ずしも必要かと言われればそうではありません。ミッション、ビジョン、バリューはどんな小さな規模の企業でも制定されると思いますが、人事ポリシーは小規模事業者ほど必要ありません。

それは、人事ポリシーを制定する目的やメリットから考えると理解できると思います。

【対社内メンバー】経営の人に対する考えに対して理解共感しやすくなる
【対求職者】入社するメリットが明らかになる
【対顧客】人的資本を誠実に扱う企業であることをアピールできる

上記でわかる通り、社内メンバーが多く、大量またはコンスタントに採用を続ける必要があり、顧客数やステークホルダー数が多い企業にとっては人事ポリシーは必要ですが、そうじゃない小規模企業にはいらないということがわかると思います。

ミッション、ビジョン、バリュー、そして人事制度にも重要なメッセージは込められています。しかし、それを見て理解する必要がある人数が増えれば増えるほど、その言葉の意味の解釈が人によってバラバラになり、言葉が独り歩きする事態が起きてきます。

このような事態に陥った際に、「そもそもコアとなる人への考え方はどうなのか?」とういうことを一言で言い現わしたものが人事ポリシーなのです。

人事ポリシーの改善を見逃さないための3つの観点

繰り返しになりますが、人事ポリシーが必要かどうかは企業ごとに異なります。また、創ればいいというものではなく、その企業の文化、組織ケイパビリティ、人事制度、ビジネスモデル、ステージなどを鑑みて、制定する必要があります。これらは時代と共に変化するので、当然、人事ポリシーも改善が必要になってきます。

例えば、リクルートでは2021年4月の会社統合を機に人事ポリシー(リクルートでは人材マネジメントポリシー)を改善されています。

ずっと個人を主語にしていたリクルートがチームを主語にするのは大きな変化ですね。このように様々な変化に合わせて人事ポリシーを改善することは法人も生き物である以上、非常に重要です。では、どのような観点を持って人事ポリシーを改善すべきかを解説します。

①時代の変化を観る

インターネット、スマホ、SNS、AIなどの技術の変化、またはESG、SDG's、コロナなどの社会要請やパンデミックによっても人の価値観やライフスタイルは変化をしますね。

この変化が個人的なレベルで捉えるか、時代という大きなレベルで捉えるかが見極めポイントでは非常に重要になります。

例えば、職場に求めるものに対する変化の話になると常にZ世代の議論になります。マーケティング観点ではZ世代というクラスターを分けて考えるのは大事かもしれませんが、人事施策においてはZ世代だけを分けて考えるのは非常に危険です。

事実、職場に求めるもののアンケートは全世代で変化をしていてZ世代だけの変化ではないことがよくわかります。つまり、これまでも思っていたけど言えなかったことが、今は言いやすくなったということです。この言いやすくなったのは環境の変化であり、もっと大きく言うと時代の変化なのです。

時代の変化は不可逆です。ゆえに変化を捉え、変化に合わせることは重要です。とはいえ、時代に合わせるのか、自社のこれまでのポリシーを貫くのかはその企業次第です。時代という大きなものに身を任せた結果、自社のこれまでの強みが根こそぎなくなりかねません。

前職では、売上が100億円を超えたタイミングで「顧客視点」を前面に出すようなポリシーに変更しました。しかし、結果としてそれは大失敗でした。それまでも顧客視点は大事にしていたものの、自己成長の先に顧客貢献があるという順番で訴えていたので、山っ気の強い人材が集まり、新規営業が強い会社として成長してきましたが、ポリシーを変えてからは自己犠牲精神の強いボランティア人材が増え、新規営業が一気に弱くなりました。半年後には再度元に戻すということをしたのですが、社会要請に合わせて自社のポリシーを安易に曲げてはいけないという良い学びになりました。

②組織にいる人材の成熟度の変化を観る

リクルートのようにキープヤングを保つには一定年齢での退職推奨が必要で、一般企業にはなかなか難しい制度です。ゆえに、どの組織も年々歳をとってきます。組織が歳をとるということは、大事にしている価値観も変わっていくということです。

仕事と家族の時間のバランスが変わってくる
攻める仕事よりも考える仕事をしたくなる
経験と信頼が溜まる一方で積み上げたものがなくなる不安(失敗)を怖がる
変革よりも改善がうまくなりコンサバな目標を立てるようになる
早さよりも正確さを気にするようになる
現状維持バイアスが高まり新しい業務への挑戦欲求が低くなる
短期的に顧客の役に立つ仕事から本質的に社会に意味意義のある仕事をしたくなる

どれも人間にとって必要な変化ではあるのですが、見てわかる通り、速さ、大胆さ、変革、挑戦、混沌、逆境、無謀、みたいな価値観やケイパビリティが弱くなっていきます。このことに危機感を持つ経営者も多いでしょう。

事業モデルが常にスタートアップの文化が必要なモデルであれば、リクルートのようにいかにキープヤングを実行できるかを考え、組織の構成年齢を変えないことが重要でしょう。一方で、組織規模の拡大と共に、管理部門、企画部門、カスタマーセンター、カスタマーサクセス、内部監査、コンプライアンスなどの部門のように、知識、経験、専門力、正確なオペレーション推進力、リスク感度、1次対応での火消し力など、大人の社員がいる部門が必要になってきます。

つまり、若者と熟練者の両者ともに必要になってくるということです。価値観の違う人たちを一つの箱に入れて、一つの文化や制度に当てはめるのは難易度が非常に高いです。よって、ポリシーの定義を改めることで異なる人たちを包括的にまとめる必要があるのです。

前職でも、育児休暇から戻ってきた社員が増えてきたタイミングから上記のような価値観を持つ社員が増えたことが如実に感じられるようになりました。このような社員の声を聴いた結果わかったことは以下の通りです。

ビジョンはあるがキャパもある
成長スピードや確度は20代の頃のそれほどではないが成長意欲自体はある

ビジョンに共感し、成長意欲を失っていない以上、見放すわけにはいきません。とはいえ、成長意欲満載の20代前半と同じように管理していては、若者の成長意欲に影響が出てしまいます。よって、「成長し続ける」という人事ポリシー(前職ではPhilosophy)の定義を見直しました。会社として成長し続けることは必要。ただし、その成長確度は人によって違ってよい。成長したくない、現状維持がいいという人は企業文化には合わないが、少しでも成長したい人は受け入れる、という定義にしました。

定義の変化に合わせて目標設定を見直しました。成長確度が低い人の目標設定は自ずと低くなるので、ハイ達成してもそれほど昇給額は上がらないようにし、逆に目標設定を高く設定する人が普通の達成をしても、前者のハイ達成車よりも高く昇給するようにしました。この辺りを念入りに説明し、自身の成長確度と他の人の成長確度が違うことを組織メンバーに認識してもらい、評価者研修も徹底しました。難しいのは評価者のメッセージを徹底させることですからね。

③経営戦略やビジネスモデルの大幅な変化を観る

時代の変化、技術の進化に合わせて顧客の価値観やニーズは変わります。そして、それに合わせて自社の経営戦略を変えることもあれば、ビジネスモデルが変化、または、新たに追加されることがあるでしょう。戦略や事業は変える、作る、という決断をすればすぐに実行できますが組織はそうはいきません。

また、既存戦略や既存モデルをスクラップして新たに創るのであれば腹を括って変えることに振り切ればいいのですが、追加となると難易度は格段に上がります。これまでの文化を維持しながら、新たな文化を追加していくというのは言うほど簡単ではありません。魚と野菜を主食とする日本にペリーが来て、肉を食べてたんぱく質をとれと言われても受け入れがたいことですよね。それが正しいと説明し、頭で理解してもらっても心で納得してくれない、ということは多々あります。一部のイノベーター人材を除いて現状維持を訴えるでしょう。

結果的に現代の日本で当たり前のように肉を食べ、米よりもパンやパスタが好きな人が増えるように時間が経てば文化は混じり、新たな文化が形成されていくものですが、企業はそんな悠長な時間をとるわけにはいきません。よって、いかに早く新たな文化を浸透させ、言行一致することによりコミュニケーションコストを下げていきたいのですが、そんな時に重要になるのが人事ポリシーです。

前章で人事ポリシーのタイプは、Being型、Having型、Doing型、Management型があると言いましたが、ビジネスモデルを複数存在する企業では、Being型、Having型、Doing型では異なるものを包括することが難しく、Management型がハマります。ビジネスモデルの違いによって、求める人物像、重要なコンピテンシー、キャリアイメージ、評価方法は変わってきます。それでも同じ企業体として運営ができるのは「会社として人をどう捉えて扱うか」という点において同じであるからです。

しかし、実際には個別の制度や独自の文化をビジネスモデルごとに形成していくのはしょうがないことだと思います。その場合は、職場の場所やビルを変え、違う文化のビジネスを実行するメンバー同士の接触を物理的に減らすといいでしょう。ベンチャーだと法人を分けても同じビルの同じフロアに存在している場合がありますが、法人を分けても働く環境が同じだと、それぞれの文化を分けて運営するのは不可能です。人間は環境の生き物なので環境が同じだと環境に引っ張られるだけなんですよね。

ビジネスモデル上はグループシナジーを生み出せるという判断から、また、非連続成長の観点からも新規事業を行うということは重要です。だからこそ、ホールディングスやグループとして同じ人事ポリシーの元、できるだけ同じ文化を形成するように運営するのも重要ですが、それが困難になる場合もあります。

前職でも、様々な新規事業を生み出し、また、潰していった経験がありますが、そのビジネス自体が立ち上がらなかったという理由のものもあれば、既存の人事ポリシーとは完全に合わないので自社でやるべきではなかったという判断に至ったものもあります。個人が得意なケイパビリティに集中して勝負した方が勝てるように、法人が組織ケイパビリティを使って勝負する方が勝てるわけです。その際に、組織ケイパビリティが弱まるかもしれないことはしない方がいいのです。どうしてもそれをする必要がある場合は、やはり、分けるということが必要になりますね。前職も結果として分社化したのはそういう理由もあります。

人事ポリシーは運用が9割

今回は組織の成長に合わせて人事ポリシーを制定、または改善する3つの観点を解説しました。皆さんご存じの通り、決めるよりも運用することの方が遥かに難しいです。特に大きな組織では、経営から新人までの距離が遠く、目的を社員総会で話すだけでは全く意図や背景が伝わらないものです。そもそも視座や視点が違いますからね。

だからこそ、決断の前に運用イメージをシミュレーションしておくことが重要です。運用イメージがないまま決断を先にしてしまった結果、組織が混乱する事例は数多くあります。英国のEU離脱なんかは最たる例だと思います。運用イメージがないまま、EU離脱の可否を国民投票に委ねて確定してしまった結果、カオスな状態になったと考えます。

とはいえ、経営者は決断スピードを早めて、即実行していきたい生き物です。そのスピードを落とさずに、来るべきタイミングで速やかに実行できるように、CHROは普段から上記の3つの視点を持ち、様々な変化のシミュレーションをしておくべきです。また、変化に必要なのが事業の責任者やミドルメンバーです。組織の結節点であるメンバーの協力がないと速やかな文化浸透は不可能です。ゆえに、CHROは常日ごろから有事の際に100%味方になって推進してくれるメンバーを作っておくべきであり、そういうメンバーとのコミュニケーションが不可欠になります。

経営視座、視点、感度を持ちつつ、現場の視座、視点を外さずに、現場の痛みや期待も理解して運用に乗せるのは非常に難易度が高いですが、これができるのがCHROであり、CHROの職務の面白いところだと思います。僕の経験からのnoteではありますが参考になれば幸いです。

より詳しい内容が知りたい、自社で戦略人事思考を持った人事責任者を採用したい、育てたいがうまくいかない、という経営者の方はご連絡をください。CHRO採用とCHRO開発を承っています。
takenoko1220

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