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(2) 熱烈歓迎、 傾国の美女(2024.3改)

大学入試が終わり結果が出揃うと、予備校・進学塾等の受験産業は方針を改める必要性を認識していたようだ。
社会党知事が就任した4県の国立大学の倍率が上がったのに加えて、そこそこだった偏差値が急に跳ね上がったからだ。
特に薬学部・医学部のある富山大学、農学部のある岡山大学と宇都宮大学、4県の大学で工学部で上昇した。
偏差値上昇率最高値は、県内で航空機製造が始まる岐阜大学だった。
青森市長と鹿児島市長が社会党市長になったのもあり、弘前大、鹿児島大も伸びた国大となった。

プルシアンブルー社からの支援金が6大学に提供されたのもあるのだが、同社のエンジニアや研究者が4月から非常勤の講師として加わり、研究内容や製造プロセスを公開、実習すると入試要項に打ち出したので、入学希望者が殺到した。
6大学の国学生にとって最大の利点は、昨秋から建設していた青森市、富山・南砺市、岡山・蒜山高原、鹿児島・志布志湾の4箇所で稼働を始めたAI専用のデータセンターと、4月に稼働する、栃木・足尾銅山跡地と岐阜・神岡鉱山跡地に建設中のデータセンターを6大学が利用できるという点だろう。          
6大学の周辺県の大学偏差値が下がったのと、公立大進学希望者に拍車が掛かった2021年の入試トピックスとなった。   
大学への支援を削減してきた政府と文部科学省には鉄槌の様になり、文科大臣は会見で大汗をかいて釈明に追われていた。
6箇所のデータセンターは大学での利用が主目的ではなく、6箇所での研究開発と工場稼働が主目的だ。
そうなると、再度、富山県内各地の工場と宮城・気仙沼市に突如として現れたテレビ製造工場にメディアの注目が集まる。

共栄党の支援を受けて当選した市町村でも、6箇所のデータセンターを利用して、業務の効率化を計るとそれぞれの首長が公言し始める。
すると、デジタル庁設立を叫んでいた前政権の愚かさがクローズアップされる。
多額の投資をしたのに、全く使われていない省庁クラウドと地方行政クラウド計画を、政府はひっそりと封印しようとするが、マスコミは許さない。
ITに疎い与党が米国のIT企業の意見を鵜呑みにして税金を無駄にしたとメディアが書き立てると、文科大臣と経産大臣の更迭を野党が騒ぎ出していた。

来年度予算案を国会で審議中だと言うのに。

ーーーー

「東京都、富山県、岐阜県、栃木県、岡山県が揃って中小企業優遇策を打ち出しました。どれもコロナ対策費を中小企業向けの資金に当てるという内容です。代表して都知事の演説内容となります」
与党幹部は頭を抱える。これもモリの仕業か?と、渡された紙を握りしめていた。

「与党にも優遇策は一応はあったが、予算の大半は老舗の企業に割り当てられていた。それが2015年になって、初めて創業10年未満の中小企業に対して予算が設けられた。しかし昨年2020年は770億円に留まっている。少な過ぎだ!」
都は東京都のコロナ対策費全額を投じる提案を打ち出していた。また、都知事は政府に対して要望を突きつけてきた。  

「中小企業の多くは顧客獲得で苦しんでいます。国・地方自治体がGDPの16%を投じている財やサービスの購入分を、技術力・製品力・サービスメニューに秀でた中小企業に市場として開放しろと要求したい。
昨年の770億円を国・地方自治体の調達額全体のパーセンテージに換算すると、僅か0.8%に過ぎない。もし1/4のGDP分を中小企業からの政府調達にあてれば、企業収益が増え、国と地方自治体との取引実績から銀行融資を受けやすくなり、業務拡大となる。

また、エンジェル投資家に対する減税措置も大至急検討すべきだ。プルシアンブルー社の国内事業の拡大で、日本に対する海外からの投資が加速している絶好のタイミングにある。
政府主導で中小企業優遇策を打ち出し、中小企業でありながら国・地方自治体と取引実績のある企業を早急にリストアップしろ。エンジェル投資家の多くは元起業家で、資金提供だけではなく、企業の指導もする有り難い存在だ。
例えば2019年のアメリカ市場では、6万4000社に対して1社平均で37万6000ドル、合計で240億ドルもの額面をエンジェル投資家が投じている。
このように、海外では税制優遇措置がエンジェル投資ブームを生み出してきた背景がある。
対して日本では、税制優遇措置が微々たるものに留まっている。具体的には投資対象企業が設立3年未満の場合、所得金額から控除されるのは年間最大で僅か800万円しかない。
一方の優遇措置の整っているアメリカでは、投資先1社につき40万ドルが控除の上限となっている。このフザケた状態になっている理由は明白だ。
経産省が控除上限を引き上げようと試みているが、財務省が拒否し続けているからだ。
エンジェル投資家が日本市場に出資してくれれば、業績が増えて起業も増えるので、税収も増加する。こんな当たり前の常識が財務省には理解できないのだ。
財務省が国民から収奪しか考えていないのは明白だ。 そもそも先進国は研究開発に補助金を支出するものだが、日本は中進国以下で、従業員250人未満の企業補助金の割合は全体の8%、当然ながらOECD加盟国の中で最下位だ。
プルシアンブルー社が日本で起業しなかった理由は殆どゼロに等しい補助金のせいだと同社の幹部が明かしたが、政府はその理由を誰も確認しに来なかったと言う。あまりにもお粗末ではないか。

プルシアンブルー社は例外だが、スタートアップ企業は通常利益を得るまでには時間が掛かるものだ。
同社が起業を決めたシンガポールでは、利益を得るまでの歯痒い期間を克服するために「繰越制度」を導入している。
税額控除を受けたものの、利益を得られなかった企業は、利益が出た数年後に控除行使可能となっている。イギリスでは繰越制度の期間は無期限とされ、アメリカとカナダでは繰越期間は20年間となっている。一方で日本は1年間しか繰越できなかったが、その1年間すら前政権下で廃止されてしまったので、プルシアンブルー社は日本での起業を検討すらしなかったという。

他にも、「二重課税」を回避できるリミテッド・ライアビリティー・カンパニー(LLC)など、海外は起業する側に有利な施策を講じているが、重課税好きで、収奪に執念を燃やしている財務省を解体するか、改革せねば中小企業は成長しないし、日本で起業する者は居なくなるだろう。そんな未来が見通せない財務省に、多額の借金返済や財政再建が出来るはずがない。
いずれにせよ、新たな指導者がリーダーシップを発揮して、現状を変えなければ、この国に未来はない!」           

都知事が特定の議員の方を向いて発言したと、この後、報じられる。

議会を退出する際に記者達から、
「プルシアンブルー社の情報を知事に渡したのはあなたか?」
「幹部とは誰ですか、モリさん!」と言われる。「私は社員でも幹部でもありません。知事とお会いしたのは最初の挨拶の時だけです」
と事実を伝える。そう言えば、2人でネット会議は何度かしたが、嘘は言っていない。

議会のある日は、新宿から横浜の家に週3で帰る。
諏訪家、池内家、安東家の第二陣ママ友 家族と過ごすためだ。
現在、プルシアンブルー社の新宿オフィスに勤務している諏訪結子、池内知美、安東咲子の「バツイチトリオ」と自称している3人と東急線直通列車に乗り込み、大正時代に建てられた我が家に帰ると、4人の娘たちが交代制で夕飯を作って待っているという手順となっている。       

この時点で頭の中を教師モードに変更する必要がある。娘たちから求められているのは父親的な相談相手だ。4月から3年生になる子は進学になるし、2年生は・・多種多様な欲求を満たす方を優先している傾向にある。
もし国会議員になったならば、母親3人は都内駐在の私設秘書となり、国会滞在中にお世話になる。国会の無い期間は公設秘書の2人が沖縄で対応するという役割分担を、本妻の蛍が決めたのだが「5人も必要なのだろうか?」と、何気に疑問に思っている。        
とは言え、お役目から外れて頂くわけにも行かないので、5人には何かしらの仕事を割り振らねばならない。

帰ってくるなり仏壇を拝んでから、自室に入って着替える。その日の部屋着まで用意されていると、自分の主体性が失われている気分になる。今年になって台所で調理していないし、掃除も一度もしていない。日本の議員って言うのはそういうものなのかもしれないが、間違っていると思う。楽すぎてダメ人間になりそうだ。      

「週末は選挙の応援で居ないんだよね?」
この日の「お世話係」は来年高2の2人で、安東紗季が脱いだスーツをブラッシングしてくれている。池内知代は玄関で明日の靴と履いていた靴を手入れしてくれている。
頼んで居ないのに、いつの間にか係制になったのも養女第一世代の大学生達の影響だ。駄目になる一方だ。 

「そうか、また自炊出来ないか・・」
「何が食べたいの?」
「魚の頭のあら煮とニラ料理」
「カルシウムとビタミンk,Eか・・了解、大森組に連絡しとく。タイとブリのあらが今なら手に入りやすいけど、養殖かもだけど、どっちがいい?」
「鯛だな。煮てドロッとした目玉を啜りたい・・」
「ありゃ、コラーゲン、タウリンだね。お疲れ?」
「そうかもしれないね・・」
と会話しながら居間へ移動する・・やはり、ダメダメになる。

紗季が入手した情報は会話の録音内容と共に転送され、各地の女性陣に共有される。 
この日摂取した3食の献立と一日の活動内容や睡眠時間等、精を放った回数等の不適切な情報も含めて、主治医で岐阜県知事の村井幸乃に送られる。
AIが明日の献立候補を返信して、調理担当は料理を作る・・ 食の要求が必ず通る訳ではないが、アラとニラは採用される可能性が高い。栄養素的に欲していると解釈されるからだ。      

「・・センセ!」
「は、はい?」
夕飯中にボーッとしてしまう。栄養ドリンク的なモノ、我が家に常備していただろうか・・

「夕食後に、「何故、与那国島か!」話してくれるんですよね?」
今度高3になる諏訪結菜に言われて、慌てて頷く。そう言えばそうだった・・慌ててストーリーを頭の中で組み立て始めた。

***

「1546年(天文15年)の10月に「河越城の戦」という戦いがあった。
河越城の戦いは日本の歴史上、兵力差最大級の戦いとして知られていて、8万対8千の十倍差と言われている・・んだけども、8万人も居なかった説もある。
でも、どっちが勝ったのかは今でも語り継がれている位だから言わずもがな。
十倍の数の敵を討ち破ったのは、神奈川西部のヒーロー、小田原市にお住いの北条氏康さんです。
初代 北条早雲から三代目で北条家の当主として関東一円を支配し、今川義元、武田信玄、上杉謙信と同世代になる強敵相手に一歩も退かず、領土を守り抜いた御仁です。
今川と武田は信長に滅ぼされて、謙信は病に倒れる。信長よりも生き延びた氏康を 唯一窮地に陥れたのが、関東管領の上杉憲政と上杉朝定、古川公方の足利晴氏の3代表がコアになった大連合軍だ。
この3人は関東管領職を巡ってそれぞれが対立関係にあったというのが話の伏線になる。
でかい組織ほど派閥争いが日常茶飯事、分析して策を立てて、正面からではなく奇襲攻撃を掛けて、運が良ければ勝てるかもよ、というのが本日のお題目となります。

さて、敵陣営の大連合軍は北条の重要拠点、埼玉県川越市にあった「河越城」を、8万人の大軍勢で取り囲んだ。対する河越城内の北条軍はたったの3千人、普通ならギブアップだけど諦めなかった。

与那国島の2千人で十億人の中国に挑むのも有りなんじゃないか?ってイメージしてくれたら嬉しく思いまーす。

北条氏康は河越城内の兵士たちに「絶対に外に出るな」と厳命して、籠城策に出ます。
氏康は分析能力の高い有能な部下たちに恵まれていたので、河越城内には数カ月分の兵糧備蓄があったのです。
で小田原の北条氏康は背後からヤラれないように、駿河の今川義元、甲斐の武田信玄と和睦を結んで、小田原の主力部隊で埼玉の川越の支援をする体制を整えます。
ここで試験に出るかもしれない重要ポイントです。
北条氏康は8千人集めるのが精一杯でした。さあ、戦国大名なのに、一万人未満ってどう言う事?
授業なら質問する場面ですが、先に進みます。

小田原城は難攻不落で有名でしたが、なんで堅牢第一で城を固めたかって言うと、神奈川西部って皆さん思い出してください。小田原周辺の地図を見ると、今でもみかん畑か梅林の面積が占めるでしょ?地形が丘陵地ばかりで田畑の面積が限られてるから、農民が少ない土地なのです。
丹沢から流れて相模湾に注ぐ酒匂川は、暴れ川で氾濫を繰り返してました。丹沢登山すると土石流留めのコンクリートばっかしです。
丹沢の有機物が注ぐのでプランクトンは豊富で相模湾の幸は豊かだったけど、室町時代の船って小さいから大して採れませんでした。人口が少ないから需要と供給のバランスで漁師も少なかった。そんなお国柄なので、小田原籠城が最良で最善の策だったのです。
同時に、北条氏は少ない兵の使い方を必死に考え続けた。その北条氏を滅ぼしたのは秀吉なんだけど、一夜城っていうコンセプトは籠城が大前提の北条氏を破るには必要不可欠な作戦で、関東入りする前から豊臣勢は策として考えていたに違いないと僕は思っています。絶対に、到着してから考えついた策じゃない」  

「おー出たぁ、伝説の紙芝居職人!アングラ界の歴史分析官殿、いっぱい抱いてぇ!」池内知代が両手を拡げて喜ぶが、3人の同僚たちからペシッと頭を交互に叩かれている。 

「はい、ともちん失格。部屋から退場!」
「すみません・・お願いだから捨てないでぇ」・・アナタの母親、笑いながら頭抱えてるじゃんか。

「えっとですね、氏康は大軍は油断しやすいものだと知っていました。まあ、兵法書には紀元前の中国では書かれてますからね。
で、連合側が河越城を取り囲んでから半年以上が経過しておりまして、大連合軍は北条方をもう侮りまくっています。城に食糧を蓄えているとはいえ、有限ですから いつかは無くなる。
そろそろアイツら干上がる、城を守る兵もフラついてるし、いよいよ窶れが見えてきたぞぉと言う油断もあって、士気はダダ下がりになっていた。

北条には「風魔」っていう、そのスジでは有名な忍び部隊が居まして、連合側のその手の空気感や的確な情報を後方の氏康に報告していたんですな。
糧食の蓄えから逆算して頃合いを見計らうと、氏康は敵を欺く行動に出ます。

「城は明け渡すから、なんとか城兵を助けてやってほしい。自分も降伏するでよ」
と、敵に書簡や使者を送ったんです。
それでも相手の陽動作戦を疑った連合側は、後方の氏康本隊に襲撃を掛けたら、戦いもせずに退却した。アイツら弱っちい、これで勝った!と連合側は思ってしまったんですな。
陣に娘たちを集めて宴会が始まりました。風魔の女忍びも中には紛れ込んでいます。ヤバいです、戦国時代のハニトラ発動です。
女性の前ではどんな強い兵士でも、我を忘れてしまうものです、生徒諸君も、お母様方も、何となく理解されていると思います・・。 

ハニートラップとか、美人局といったものは、れっきとした戦術、一種の作戦です。
紀元前、太古の昔から傾国の美女っていう魔性の女性は数多く居て、ほら、見てご覧、検索しただけでもこんなに該当者が出てくる。
日本で有名なのは義経の母の常磐御前ですかね?
源義朝の側室になって牛若、後の義経が末子で3人産まれます。ところが義朝が平清盛に負けて、平家物語の中では、清盛の妾になってしまう。
この寝盗られ話には脚色説もあるので、何とも言えませんが、僕は「牛若丸を殺さないで〜何でもするからぁ」っていう常盤の色仕掛けが通って、源平をどっちもダメにした平家物語説を推します。
頼朝と義経を生かしたのは事実だし、だからこそ栄枯盛衰劇場は起こり、その原因は全て、エロ入道・清盛の判断がブレてしまった、その一点にあると思います。
常磐御前の艶っぽさが絡んだほうがストーリーとしても面白いと思うんですよね、どうしても・・あ、ごめんなさい、脱線しました。お願いだから、そんな目で見ないで下さい・・

で、氏康は8000人を4部隊に分けて夜陰に乗じてゲリラ戦を仕掛けて圧勝します。
敗れて敗走する連合側は、勝った後の相談をしている真っ最中で、既に分捕り合戦状態、内部分裂していた次第です。
以上で、正面から正攻法で挑もうとしない北条氏ならではの戦術と戦いのご紹介を終わります。

さて、社会党と共栄党の戦術も、北条と同じようなコンセプトで日夜頑張っておりますが、与那国島と小田原、尖閣諸島と河越城の相関関係は気付かれましたでしょうか?・・ん? 皆さん、どうしました?」

あれオカシイぞ?と思ったら、皆さん、ハニートラップの方に意識が飛んでいた様です。トモちんに至っては、痴女と化していましたとさ。

めでたし めでたし。

(つづく)


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