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(5) 過去最長の一日(2023.10改)

13日。お盆始に伴い、金森知事は娘と孫達と叔父夫婦と共に墓参りに出掛ける。

選挙に出るとなった際と当選後にも訪れているので、先祖代々の墓は草も生えず磨かれており、綺麗なままだった。野の花と線香が既に置かれているのを見て、鮎と蛍、そして叔父夫婦は、モリが早朝に訪れていたのを知る。

「出勤するのだから無理に行く必要はない」と言っても素知らぬ顔で済ませてしまう。

「モリさん だもの」と言って微笑む叔母の顔に、鮎と蛍は笑うしかなかった。

当の本人はこの日も登庁し、当面のプランを見直していた。未だ確定ではないものの、周辺の状況に変化が生じる可能性を知った。首相退陣となった場合、立案したプランに及ぶであろう影響や変化をAIの分析も参考にしながら、パターンに分けてプランを練り直していった。

米国で政変劇が起こる予測は100%とそのままにしながらも、敗れた共和党がどの程度の力を保持し、民主党政権をどの程度苦しめるかと、主眼は選挙後の状況分析に移っていた。
2つのホワイトボードにびっしりと書かれた所で、弁当持参を告げるメールが届き、慌ててホワイトボードをタブレットのカメラで撮影し、消し去ると何事も無かったかのように、後に養女となる4人を出迎える。

13日はチェーン店以外の飲食店は休みだろうという娘たちの配慮なので、感謝するしかないのだが、4人で来る必要はないだろう?と思っていた。12時前の民放のニュース番組などつけて、冒頭から話す機会を奪ってみて、相手の思惑や動きを推し量ってみるのだが、特に他意は無さそうに見えた。
それなりに時間を掛けたと思われる品々が並べられ、5人で食事を始める。
父親予定の立場としては感謝するしかない。

「ホワイトボード、掃除したんだね」コロナがどうだこうだと話していたと思ったら、樹里が切り込んできた。ぬれ雑巾で拭いたのだ。痕跡を少しでも残さないようにと。

「昨日、買い物のついでにママ達がおやつを持って来たんだけど、誰かが掃除してくれたのかな?」と言ってみる。4人の顔に特に変化は見られない。

「アメリカ行きにサミアさんが色々準備しているけど、あれは先生の指示なの?」
サチの質問は何の問題も無い。

「いや、何もお願いしていないよ。ところで、この卵焼きは誰が作ったの?家に麺つゆってあったっけ?」

「わたし。流しそうめんをやろうとして買ったんだけど、いい竹が近所に無くて。勿体ないから使ってみたの」杏が言う。

「流しそうめん?」

「夏らしいでしょ?」

「そうだね・・」

「先生、そうめん嫌いみたいだね」樹里が茶化す。

「いや、そんな事はない。でも、冷たい麺より温かい汁で戴く細麺の方が好きだな。冷たい麺なら蕎麦一択かな。うどんもあったかいほうが好きだし・・」

「美帆ちゃんが喜ぶんじゃないかな?」

「あっ、そうか・・」まだ美帆を家族に加味して考えていない事に気がついた。それともう一つ、ライフプランの自身の見直しをしていない・・。

「すまん、忘れてた。まだ僕の中で纏まっていない案件が2つある。一つが美帆ちゃんで、もう一つが昨日ママたちから言われた家の相談だ。この家の変更に伴って君たちの存在が抜け落ちている。今はコロナ渦の変則期間としても、8月は君たちは夏休みで五箇山に居る。ここで来年の8月母親ごとに家が分かれて、君たちも分散するって話になるんだが、君たちはどう思ってるんだろう。相談があって合意されているとおもっていいんだろうか?」

「都議会は来年の8月は休みでないかもしれませんよね?そうすると先生は大森で、富山組以外の母親たちは大森か横浜に居て、お盆中だけ五箇山に集合することになる」

「その前に僕自身がまだ決断できていなくて、まだ誰にも相談していない話がある。来年の7月に都議選があるんだが、僕は都議選に出ずに他の選挙に出馬することを考えている」
娘たちが驚く、そりゃそうだろう。

「来年は鮎さんにとって大事な選挙として、4月に富山市長選挙がある。この候補を誰にするか秋から検討するだろうが、幸乃さんが候補の一人になるのは間違いない。富山県副知事としての肩書が最大限に使えるからね。そうすると幸乃さんは富山拠点になるし、志乃さんが秘書になる可能性が出てくる。
僕が出馬を悩んでいるのは、参議院の補選が3県で行われるのと、横浜市長選挙の4つだ。参院だったら、北海道だと今は思っている。この秋までに決めたい」

「横浜市長選なら、横浜の家が拠点になるけど、参院の補選に出たら先生は都内にも横浜にも居ないってことですね?」

「そうなるね。補選に出るとなれば、蛍は子供たちの為に横浜に戻ってもらうし、翔子さんと里子さんには秘書は頼めないと思っている。議会がある時は赤坂の議員会館に居るだろうが、議会のない日は富山に居るわけにはいかないし、今みたいに県庁に居られない」

「参院の補選に出る可能性が高そうですね」幸が目を見据えてくるが、頷くにはまだ早い。

「君たちはどのくらいお金を貯めたんだろう。それを取って使うと言う話ではないよ。4人で独立可能なのかどうかが、知りたいだけだ」

「それって、金銭的な独立という話だよね?サッちゃんと私は成人まで1年以上あるから」

「うん。成人してるのはまだ玲子だけ。とはいえ、学生だから資産となるような大きなモノは買えない。でも、親が保証人になって借りることはできる。それが身内ならハードルも低くなる。
君たちのママはそれぞれの横浜の家を出て手放すと言ってるが、サチは京都だけど、玲子、杏、樹里は都内の学校だから大森の家っていうのも、どうかな、と思ってるんだ。
横浜の家を3軒残すのは無理でも、頑張って2軒、確実に1軒は残せるんじゃないかな。君たちの城として親から借りるんだ。新規に買ったり借りたりするより安く済むし、何より愛着があるだろう?」

「ウチは賃貸団地ですから、手放すのは確定です」玲子が言う。

「母が富山市長になれば、ウチも要らないな。京都の家もあるし」サチが言う。

「2人のお家が一番広くて新しいから、里子叔母様に相談してみない?」

玲子が杏と樹里に振る。愛着があったのはこの姉妹だった。2人で目に涙を溜めながら頷いている。亡父との思い出が残っている家、玲子は姉妹を誰よりも知っている。

ーーーー

養女達がスッキリした顔で帰っていき、モリ自身も参院ステップアップ案を開示したので気分が晴れた。
この時点から横浜市長選の候補者選定を思い描きはじめ、参院出馬をほぼ決断したと言える。自身の選挙区を誰に委ねるかを想定しながら、4月に参議院議員になった前提でプランを変更してゆく。
国会では与党との共闘は有り得ない。都政、県政とは異なり、中央政府と与党本部が相手となる。つまり、新たに「数の論理」を考える必要が出てくる。採決して賛成されなければ政策は通らない。賛成票を集めるために、全ての都道府県知事を味方にするまで2年以上の時間軸が必要となり、ある意味で時間を無駄にしてしまう。
「所詮は野党」とレッテルが貼られて失速する流れは、全ての野党が辿って来た道だけに踏襲したくは無い。
コロナが蔓延している今をチャンスと捉えて、感染騒ぎの間にポールポジションを獲得しなければ埋没してしまうだろう。

短期決戦を制する場としては、2022年7月の参議院選挙、もしくは参院選以前の首相判断による衆院解散後の衆議院選挙となる。衆参両院同時選挙となると新顔にはハードルが高くなり、組織力を誇る与党は強みを発揮するだろう。

但し、まだ全てが絵に描いた餅、モリの一方的な思惑に過ぎない。8月は今の内閣が続くのか否かから観察が始まる。そのための倒閣材料の一つが、今回の訪米となる。引導を渡す事が出来れば、初戦は制した事になる。先ずは民主党党大会を成功させる事、都議に課せられたお門違いのミッションと言える。都議なのに、元副大統領を相手に外交戦を仕掛けるのだから。

ーーーー

五箇山に帰る車内で、助手席のサチがAIを相手に話をしている。モリが参院に鞍替えする話をどう解釈すべきか、と現時点で周囲に「一つの可能性」として伝えるかどうかだ。

「なぜモリさんはあなた方には伝えたのか、そこをサチさんは抑えていないと思います」

「抑えていないって、どういう意味よ・・」

「先を見据えるチャンスをあなた方に与えてくれたんです。モリさんとの付き合いが長いのは蛍さんだけです。あなた達のほうが、お母様たちよりも先生を知っている、違いますか?」

「それはそうだけど・・」

「付き合いが短くてもお母様達は焦らねばならない事情があります。ご自身の年齢的な事情です」

「まさか、出産を望んでいるの?」ハンドルを握っている樹里が反応すると、後席の玲子と杏が頭を抱える。

「モリさんはあなた方がこの車で来たのを確認しましたよね?お母様達もこの車両を使ったので、会話を私は聞いてしまっています。3人はそういう意味では無防備でした。作戦を成功に導く為には私に聞かれぬようにAIを積んでいない車両を使うべきでした。そして彼女たちは自分たちの成功を祝いながら帰路に着いたのです。サチさんのお母様は前日登庁されたので、休養したのでしょうね」

「ママたちの企みを一番知っているのはアイリーンって話ね。でもどうして教えてくれたの?」樹里が尋ねる。

「それはお母様たちがフェアに事を運べない事情があるからです。あなた達はお嬢さんですが、ライバルでもある。既成事実が発覚するまで情報を操作する必要があると考えるのが普通です。モリさんはお母様達に同意はしたでしょうが、実施時期は決めておらず、工程と敢えて申し上げますが、それを遅らせると私は思います。参院出馬エリアはモリさんの好みで言えば、北海道札幌2区でしょう。誰を秘書にするか言われましたか?」

「翔子叔母様とママは連れて行かないみたいなことを言ってた・・」樹里が言う。

「つまり、参議院議員になったモリさんが北海道に移動したら単身赴任状態なので、それでも子供を欲しますか?と確認をしてからでしょうね。彼の性格から想像して。
で、現時点で参院云々の話を知っているのは、お嬢さんであるあなた方だけ。どうです?アドバンテージを得た印象は?もの凄くフェアだと思いませんか?」

「参ったなぁ〜」サチが助手席で背伸びを始める。
「愛されてるって思っていいかもよ」玲子がその後も続けた「横浜の家を残せって、後押ししてくれたようなもんじゃないの。里子叔母様が悪い訳じゃなく、先生への思いが先走って冷静に考えられない状態なのよ、多分。杏も樹里も、先生と付き合いだした頃の事を思い出してご覧。私は恥ずかしいくらいに舞い上がってたと思うんだ。
お母さんのノロケ話を聞いてるとね、私もこんなんだったのかもって冷静に眺めてるのよね」

「やっばぁ。どうしよ、さっちゃん。今夜襲っちゃわない?」

「待てぃ。そうならぬ様に、私ら年長組がいるのを忘れるでない!」

「杏の言うとおり。休み無しでずっと働いて、そのまま渡米しようとしてるんだから無理させちゃダメだよ」

「しょんな、殺生なぁ〜」姉と玲子に言われ、助手席のサチに頭を撫でられている樹里という状況かな?とドラレコの無いアイリーンは音声とノイズから、想像してみるのだった。

ーーー

モリが帰路に着いて、富山市と南砺市の境界に近づいた時だった。
突然2つのヘッドライトが現れた。2台のバイクだと分かった。スクーターの後方に張り付いたと思ったら、双方でサインを交換したのがサイドミラーで見えた。モリは、一台が前に出たタイミングで咄嗟にブレーキバーを握ってスクーターを急停車し、スクーターを倒したまま左側の雑木林に向かって走り始めた。ビュッと音が掠めたので、何らかの武器を持っていると分かり雑木林にダイブして、地面に落ちると左右を見て起き上がり重心を低くしたまま右へ進路を取った。

時刻は6時過ぎで周囲は明るいが雑木林の右側は鬱蒼と茂って闇のようになっていた。暗がりに入ると身を起こして木々の間を走り抜けてゆく。相手はプロだと思っていい。銃を持っていたとしても、路上で打つマネはぜずに発射音のしないものを投げたのかもしれない。 

身を隠す場所を探しながら、ヘルメットを被ったままモリは走る。後ろは振り返らずに後方の音に注意を払う。振り返れば、顔の肌色で現在地を知らせてしまうかもしれないからだ。

相手が分からない時は決して敵対してはならない。相手は2人だけではないかもしれないし、どんな武器を持っているか分からない。安全なフィールドか、自分の長所が最大限発揮できるポイントまで離れる必要がある。GPSはつけたままだ。いずれ、味方が現れる。その時まで逃げ続ける必要がある。

五箇山の廃校の1教室にあるサーバの一つが、モバイル名ホーク・ワンを所有する人物が道路を離れてゆくのをキャッチした。CIMカードのキャリアの圏外だが、データセンターの対象エリア50km圏内なので補足していた。

廃校の屋上に待機しているドローンが飛び立ち、ホーク・ワン所有者の元へ向かう。
ドローンが飛び立つのを目視した調査員は即座に本部に連絡、モリは単独ではなくなると連絡。携帯電話の圏外を狙った試みは見誤ったと本部は知るが想定はしていたので、作戦は継続のジャッジを下す。これが敗因へとつながってゆく。

実行犯の誤りは、知事の居住地と勤務地である県庁を繋ぐ国道だという事実を見落としていた。確かに平日であれば知事と副知事を乗せたワンボックスカーは高速道路を利用して移動しているが、スクーターでの移動なので下の遠回りする国道を利用せざるを得ない。
盆入りして警察車両も減るタイミングで仕掛けようと判断してしまった。

既に携帯圏外であってもドローンが即座に飛び立った時点で撤退すべきだった。相手の陣地内での行動は、破滅と破綻が同時に訪れる。軍事ノウハウの無い日本の組織の弱点でもあり、「必ずやり遂げてみせます」と現場に言わせてしまう、神国ニッポンの成れの果てでもある。しかも、Go to トラベル、アホのマスク、お魚券、お肉券の発想しか浮かばない政権下での組織だ。マヌケな長を指名したのがマヌケなので、うまく行くハズが無い。

「ドローンのエマージェンシー機が自動発進した」この報を受けてプルシアンブルー社の担当者と幹部に緊急通達が送信される。モバイル「ホークワン」所有者が山林に逃げ込み移動中となれば、南砺市工場建設現場の偵察ドローン2機がアサインされ、現場に急行する。

五箇山滞在中のサミアはバンドの練習から離脱してデータセンター室へ移動して、金森家のサチに連絡して、モリの猟銃ライフルを持ってきてと依頼、ボックスの暗号キーも伝える。
サチはモリの部屋に走って、ボックスに暗号番号を入力して、ライフルを取り出すと「誰でもいいから、これを持って中学校の電算室まで走って!」と泣きながら廊下を走る。

海斗が立ち上がってサチから受け取ると、土間でシューズを強引に履いて、全速力で走った。サチが懸命に走るがとても追いつけない。

校門前にはエンジニアが集まり始めて第2陣、第3陣のドローンの準備を始める。廃校を監視していた調査員はここで中止を進言すべきだった。まさか、彼らがエンジニア達だったとは知らなかったし、報告を受けていなかった。

「ライフルを網で包んだドローンが飛立ち、その後を3機のドローンが追っていきました」と事後報告した時点で、既に全ては終わりだった。

ーーー

エマージェンシードローンは対象の真上を飛ばない。対象の目視可能な範囲を飛翔して、時おり点滅して「捕捉してますよ」と存在を知らしめる。当然ながら標的にもなる。ドローンの真下に一人が急行しながら、一人がドローンを銃で狙う。銃声が響いたのでモリはドローンを見る。銃弾が3発目で当たって右後ろに動いたので、その後退方向と逆からの発砲とみなして、逃走方向を変える。
ドローンが6発か7発目で次弾を受けて墜落すると、2機のドローンが現れた。哨戒・敵策任務を担うドローンなので、エマージェンシー機の墜落を検知して上昇を始める。銃弾に当たらない高度に上がる。

モリはそこで背負っていたデイパックからスマホとナイフを取り出す。ライフルを持ったドローンが間もなく到着し、バックアップ戦力となるドローン3機も間もなく合流するとサミアのチャットを見て、タップした。「メッセージを確認した」と認識され、本人の無事を知らせる連絡となる。

ドローンのネットに自分のライフルを見たとき、初めてヒトを狙撃するんだと思って、鼓動が高まる。狙うのは脚だが、外れる可能性だってある。

索敵ドローンは4名の人間を捉えていた。銃声は1箇所だが、他の3名も持っていると思うべきだろう。ライフル投下地点をサミアたちが決めたようだ。その座標地点に走る。味方のバックアップ3機は銃を放った人物とモリから近い2名にゴム弾を放って威嚇する。当たればそれなりに痛い。

「初弾命中。1人顔に当たって出血した模様、ざまあみろ!」とバックアップ機の製造担当者が拳を上げると場が盛り上がった。

「発見!」ライフルを見つけたモリは、頭上のドローン5機の位置関係と、スマホの表示画面で相手は落下地点の自分を狙撃できないと判断し、ライフルに走り寄り、遂に手に入れた。
愛機を手にした時の安堵感を終生忘れることはないだろう。デイパックを残して、ナイフをベルトに固定するとスマホを手にして、サミアたちが選んでくれた狙撃ポイントまで移動を始めた。
「さぁ、反撃だ!」自身がこの手の感情を持ち合わせている事に驚いた。「爺ちゃんの血かねぇ」と思いながら、遮蔽物や身を隠す材料を探しながら走ってゆく。

「ライフル取得成功! 狙撃ポイントまで移動中、速い!走ってんの山ん中だぞ!」

廃校のデータセンター室は歓声で沸き返っていた。尚、村内に潜伏していた連絡係は微弱電波をキャッチされ、ドローンが放った網の中で一人格闘していた。

ーーーー

「ドローンが後退するぞ、弾切れか?」

「よし追うぞ。ドローンか後退する方に奴がいるんだろう。これで終わらせるぞ・・」

「本部から連絡、敵は猟銃を持っている可能性がある。気を付けろ、と言っている」

ヘルメットのレシーバーで4名が会話しながら、前進してゆく。

「遮蔽物の無い場所が前方に見えて来たがどうする。少し待つか?」

「殆ど暗闇で暗視ゴーグルの無いヤツは、何も出来んだろう。前進しよう。俺が最初に出る」
広場に出たが何も起こらない。暫く待った。

「もうこっちは見えんだろう。行こうぜ、とっとと終わらせよう」

4人が草地に踏み入れて歩き始めると、最後方を歩いていた男が足が熱いと思ってから銃声が聞こえた600m以上だと?と思って、激痛が押し寄せ叫んだ。

「何だ?」と思って振り返った男の尻が打たれた尾てい骨が壊れるような感触で気を失って倒れた。
2番目を歩いていた男が、反転して逃げようとして太腿を撃たれて倒れた。
残る一人は浅いくぼみに腹ばいに寝そべって震えていた。ゴム弾で顔を打たれたので最も警戒していたかもしれない。泣いて喚いている2人と何も返事のない一人は死んでしまったかもしれないと思っていると、足に熱を感じた。何かで切ったのだろうか?と思ったら背中を思いっきり踏まれて肺の空気が外に出たと思ったら、硬いもので頭ゴンと叩かれ、意識を失った。

モリは猟銃で殴ろうとしたのだが、やっぱりやめて砲丸サイズの岩で頭を叩いた。

「終わった。みんな、応援ありがとう、俺たちの勝ちだ。犯行グループは全員重傷だが、多分、命に別状はない。救急車2台と富山県警に連絡してくれ」

「了解。あなた、3人とも630mよ、オリンピック出れるんじゃないの?」

「ドローンが教えてくれたポイントを打っただけだよ。凄えよウチのドローンは。近くに寄ったらホントに当たってるんだもん。一人は右の尾てい骨粉々で、半年は入院するかな・・痛そうだなぁって、コイツ気絶してるわ。激痛だと意識失うって、本当なんだね。凄いね人間の身体って」

「何、のんきに言ってるのよ・・」

「ねえ?警察くるまでまだ時間あるでしょ?ビール6缶と、なにか食べ物ドローンで運んでくれない?値段は幾らでも構わないからさ。もう腹減って動けないよ・・」

「了解。そろそろそっちのバッテリーが無くなるから切るわよ。多分だけど連中は自衛隊出身者よ」

「なんで分かった?」

「秋田駐屯地に所属していた除隊者一覧に、似たような顔の4名がいるわ。バッテリーがある内に4人の写真を撮って送って、世界中のメディアにバラまくから」

「おっかないなあ。でも、乗った! 一旦切るよ!」

当然ながら、政府が吹っ飛ぶ重大事件となる。

(つづく)


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