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(2) 工業製品製造だけの企業では、不安でした。(2024.4改)

平壌での会議の後、米国大統領一行は都内に立ち寄り日米首脳会談に臨んだ。通常ならば、ソウルに立ち寄って首脳会談となるのだろうが、来月の選挙で下野が確定している政権に迎合する必要は無いと考えたのかもしれない。一方で日本では常に新しい技術や情報が生まれている。立ち寄る必要性を考えていたのかもしれない。殆どがシンガポール企業プルシアンブルー社絡みというのが実態なのだが。

この日は富山からプルシアンブルー社のゴードン会長が面倒くさそうにやって来て、ビルマや東南アジア、日本の地方で建設中のPB建設のユニークな建築技術を大統領一行に説明していた。

「ドローンとバギーを操舵しているAIが、測量値をPCとタブレットに送信します。
別のAIが受け取ったデータを今度は基礎工事用プログラムに盛り込み、建物全体の設計に取り掛かります。
人が介在せずに設計まで出来る様になりました。建設前の測量や計測が、これだけ効率が良くなりました。映像をご覧ください。土地の測量が終わるのと同時に、建造物の設計が完了しています。

私達の方針で高層ビル建設は請け負いませんが、10階建て位のマンションやビルなら、ものの数分でAIが図面を作成します。念の為に設計の責任者が仕上がりのチェックを念入りに行なっているのですが、手直しをしたことが一度もありません。AIの推進によって、設計絡みのコストは殆どゼロとなりました。
お陰で競合会社となる建設会社に勝てるようになりました」

「日本の議員が利権欲しさに子飼いの建設会社を押し込んでいた商慣習を打破した、と聞いているよ」大統領が場を弁えずに言い出すので、ゴードンも悪ノリする。
「仰る通りです。与党議員と繋がりがある建設会社は賄賂費用を・・もとい企業献金やパーティー券の購入費を建物価格に当たり前の様に乗せるので、建物の見積額は高くなります。そこで、悪徳政治家が颯爽と登場します。取り纏めの大手ゼネコンに口利きをするんです。「別の建設現場を紹介するから、両方の建設物件で増額費用分を相殺してくれ」と、議員と関係がある下請け建設会社を強引に押し込むのです。悪徳議員を懲らしめるつもりはサラサラなかったのですが、当社の見積が悪徳議員絡みの建設会社よりも格段に安いので、流石に検討しない訳にはいかない、という話になり、彼等の利権ビジネスをぶち壊して廻っています」
ゴードンと大統領の会話を通訳が日本語訳するまで、どうしてもタイムラグがある。ゴードンはそれを承知で、通訳に懺悔しながらアップテンポ気味に話して大統領との会話をペースアップさせ、通訳を困らせる。首相や閣僚が訳文を耳した時に、二人の会話はどんどん先に進んでいる。

「日本の建設業と与党が公共事業絡みで癒着しているのは良く耳にするが、純粋にコスト面で勝負できる企業を、無碍には出来ないだろうね」
と大統領が相槌を打つ。

「この図面、AIが作成したんですよね?」
図面を眺めていた国務長官が訊ねる。
「ええ、そうです。この印、なんだか分かります?」ゴードンが図面の各所の記号を指しながら言う。
「建物の上にもありますね・・あ、ソーラーパネルですか?」
「正解です。市販のソーラーパネルの倍の発電量を誇る最新鋭の製品を、屋上だけでなく敷地内に散りばめて発電します。電気代も安くなるビルやマンションっていうウリも当社の特徴です。今、計画しているのが住宅販売です。AIによる自由設計の、太陽光自家発電住宅です。
それと、PB Electonics社という系列会社で家電製品を主に製造しているのですが、その会社がビル全体のエネルギー効率を最適化するために、ビル内の温度・湿度・空気の品質だとかを絶えず集めて解析して、ビル内の空調や発電機等をリアルタイムで遠隔制御する・・そんな集中管理システム的なものを開発したのです。
太陽光で電力を作って、AIによる集中管理で消費電力を抑える、当社にしかないビルやマンションを建てられる様になりました」

「それだけの機能を有していても他社より安くなるんですか?」

「はい。充実した機能に加えて、ビルやマンションが安くなるのですから、どんな建物だろうと価格勝負できるんです。もう一つ、電気絡みだけではありません。当社はセメント/コンクリートの新商品を建設現場に投入しています」

「コンクリート?」

「はい。建物の表面を飾る建材用のコンクリートパネルにも、二酸化炭素を混入した製品を投入しています。ビル用の外壁パネルに当たる部分です。
ビルの基礎工事と構造体には大量のコンクリートが使われますが、生コン状態で撹拌されている段階でCO2を大量に含んでいます。建設会社はカーボン削減に貢献したとして国によっては補助金を貰えます。因みに、通常のセメント/コンクリートと同じ値段です。
ビルマでは正直あまり歓迎されていない特徴なのですが、もう一つの特徴は絶賛されています。
それが「高寿命、高耐久性」です。コンクリートの寿命は50年と言われていますが、加速度実験上では75年以上の耐久性を持つコンクリートなのです。二酸化炭素が酸化する要因となると、私の様な素人は考えてしまうのですが、吸着手段次第で強度と耐久性が向上します。ビルやマンションの固定資産としての価値も上がりますので、既に完成しているビル・マンションは評価額の改定が行われて下がるかもしれません。
それ故に我々は黙ってるのですが、そんなコンクリートを建設するビルに使うと聞いたオーナーは、普通なら歓迎しますよね?」 

「橋脚やトンネル、公共事業に使うべきでは?」大統領が身を乗り出す。

「そうですね。貴国も日本も古い橋やトンネルだらけです。エコで長持ちするコンクリートは必要かもしれませんねぇ・・」

ゴードンが他人事の様に呟いた。北朝鮮で再開発事業を提案したばかりの国のリーダーを目の前にして、だ。

・・セメント/コンクリートには資源不足問題が付いて回る。原料となる「砂」の確保が争奪戦の様相となっている。建設需要を満たすために淡水域で確保できる砂が必要となるのだが、河川敷で取れる砂が世界的に限られている。過度に採取すれば、季節変動による洪水傾向を助長しかねない。日本アルプス周辺は例外で、河川は急峻な高低差で構成され、あっという間に海に注ぐ。
太平洋側で言えば南アルプス水源地からの富士川や安倍川は幾ら採取しても土砂砂礫に困らない。日本海側では北アルプス水源の神通川だ。
イタイイタイ病の公害発生源として知られる神岡鉱山からの排出により鉱毒問題を起こした神通川は、岐阜・神岡町から富山市を流れ富山湾に辿り着く。
上流域では大雨の度に北アルプス産の瓦礫が転がり砕かれ、大量の砂礫が採取できる。この神通川流域、岐阜県と富山県の県境に建ち並ぶセメント会社にプルシアンブルー社は資本を投じて、PB建設の系列会社としている。

翻ってビルマだが、国の中央を流れる大河イラワジ川はヒマラヤが水源となる。ビルマの最高峰は3053mのビクトリア山で、上流域で採取した砂礫を旧ミャンマー軍の土木部隊がダンプカーで運び、川幅が広くなった地点で輸送船に積み替えてイラワジ川を下る。大都市ラングーン手前まで下ってくると、元はミャンマー軍資本であったセメント工場に砂礫を運び入れている。ビルマも砂礫には不自由しない国であり、モリが同国を狙う上で重要なポイントとなった。

PB cement社は このようにして産声を上げていた。セメント/コンクリート製造だけではなく、PB建設の受託件数に応じて、建設資材会社として規模を拡大してゆくようになる。

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「富山って、実は奥が深かったのね。地元なのに知らなかったわ・・ひょっとして富山に生家があるって知ってて、あの母娘に近づいた?」

対馬空港のロビーで前田前外相に言われる。「そうだ」と言ってしまうと、あまりにも腹黒過ぎるので「偶々です・・」とモリが応える。

前田氏が立候補する山口県では、美祢地区では石灰石の採掘が行われており、セメントの製造企業が集まっている。その何社かを買収するプランを相談していた。同氏の選挙区には山陽小野田市も含まれており、合併して太平洋セ〇ントとなった小野田セメ〇トの発祥地でもある。
選挙区の中心は下関市だが、下関には魚介類を原料とする食品メーカーが多数ある。対馬と壱岐島での海上太陽光発電と共に、生簀養殖した魚の供給先には事欠かない。

「今年は住宅販売にも参入します」

「住宅販売ってビルやマンション建設ほど、コンクリートを使わないでしょう?」

「住宅メーカーが販売している住宅の原価って、ご存知です?」
「そんなの知らない・・」

「たったの2割から3割なんです。フザケてると思いません?そんなんだから、タ〇ホームみたいな格安住宅が出てきたんです」

「そうか、AIが設計しちゃうんだから更に費用が掛からないのか・・」

「そういうことです。PB建設は優良マンションと優良住宅を提供する、良心的な建設会社として世間で認知されるよう、頑張るんです」

・・ビルマの間伐材を粉砕して、木くずは多様に使われる。
ペレット化すれば、アウトドア・キャンプ用の着火剤にもなるし、住宅用の木質パネルとなる。この木質パネルを使って、組み立て家具の製造も想定している。
岐阜も林業の盛んな県で、ビルマの様に間伐材が出る。その間伐材を使って、トライアル的に椅子やテーブル、チェスト、ベッド等々の家具をAIに設計させて、生産している。
試作品のイメージ映像は娘達に見せており、彼女たちの意見をベースにして家具製造に取り掛かろうとしている。
家電製品と同じ 青字で「pb​」と刻まれた家具が、PB Martのネットスーパーや日用品売場で、いずれ販売されるようになる。
マンションや戸建ての室内プロモーションビデオに、プルシアンブルー製の家具と家電製品が配置されるだろう。
デベロッパーと建設会社、ハウスメーカーが家具、家電品までラインナップに揃えると言うのは初めてのケースと思われる。デザインが統一された製品が室内空間に、用意できる・・ここまで演出が出来る不動産会社は他にはない筈だ。
「家具メーカーや、/KEAやN/TOR/の需要まで奪ってしまうかもしれない」とも思っていた。
住宅と合わせて、家具と家電もそして自動車も纏めて住宅ローンに組み込めるようしてしまおうと企んでいるのだが、黙っていた。

PB Craft furniture 社(まだ仮称)として創業しようと思い立ったのも、試作品のテーブルと椅子のセットを横浜の家の倉庫で組み立てた時だった。「これで組立家具?」と、感心した。
AIが組み立て易いようにパーツ毎に設計していた。小屋の中の休憩用テーブルのつもりでいたのだが、あまりの完成度の高さに、母屋の椅子とテーブルと交換してしまった程だ・・

ビルマ南部は亜熱帯圏に位置するので陽光量に問題はない。太陽光発電には理想的な土地と言える。日本の2倍近い国土に占める平野部は半分ほどあり、人口5000万人のビルマの住宅は広々と設計できる。ニュージーランドも人口500万人なので家の敷地は広く取れる。 屋根や庭に太陽光発電パネルを並べて、蓄電器を設置する。個々の住宅が電力を必要としなくなると、発電所の負荷は下がる。
蓄電器に蓄えられた電気は電力会社に売られて、電力収入を得る。
因みにニュージーランドは、ほぼ100%自然エネルギー(8割水力、1割風力発電)なのだが、人口が少ないので人数割・世帯数割で損をして電気代が日本の倍となっている。冬場は太陽光発電能力が減るにせよ。夏は夜の9時頃に日が沈むので、日照時間が長い。夏場は電気代が大幅に削減できる。

「PB Home(これも仮称)というプルシアンブルー系列の住宅販売会社がビルマとニュージーランドに進出したとします。「自家発電する家」みたいなネーミングで販売するのです。一見日本の普通の鉄骨造のプレハブ住宅ですが、価格が10万ドル・・日本円で1千万なのでそこそこ売れるでしょう。ローンを組む為の地銀クラスの銀行を買収して手に入れます。仮にPB Bankと呼びましょうか?ローンの融資条件をこんな風にするんです。

「30歳以上の家長で、火災保険と地震保険に加入する事ができる人」とします。その保険も、PB Bankが販売する保険ですが契約必要がある。この保険契約を結ぶほうがハードルを高くします。収入の有無や勤続年数が必要となるからです。  

自家発電住宅自体は約1千万円の家ですが、20年ローンで契約すると、家が発電する電力を所得金としてローン返済金に充てるんです。
余剰の電力は、居住者が利用します。
つまり、気候が亜熱帯のビルマでは無料で家が建てられて、電力料金も掛からない。20年経てば家は完全に自分のものとなります。ローンの対象は太陽光パネルや家電や家具、車も含めて700万円位になりますが、ローンモデルとしては少々安過ぎるので、1000万とします。  
銀行から見れば、電力という確実な収入が見込まれるので、返済の不安は一切なくなります。勝手に優良銀行となってゆくでしょう。PBHomeが700万円で提供して、PB Bankが1000万の20年ローンを組んで、PBHomeに1000万を支払う。これで全て丸く収まります。家主は20年後が来るのを待てばいい。20年後はリフォームする必要が出てくるので、PB Bankでリフォームローンを用意しましょう。ニュージーランドは冬季があるので、無料住宅とは言えませんが、それでもお買い得でしょう。日本で売り出したら・・住宅会社が倒産するでしょうね・・」

「ねぇ、なんで鮎を抱いたの?どこで知り合ったのよ!」

突然、前外相が耳元で囁くので唖然とする。同級生にはバラしていたのか?と焦りが先行し始める。幸いにして周囲には誰もいなかった。前大臣2人は女子高生達と空港内の土産店で物色している・・

「そう言われても申し上げ辛いのですが・・魔が差したと言うか、欲求に抗えなかったと言うか・・」

「そうじゃなくて、あなたが社会人になったか、学生だったかの頃の話を聞いてるの。何で海洋生物学者・・それもまだ助手の頃の鮎だよ、学校と家を往復するだけの未亡人と、何処に接点があったのよ?」
火垂ではなくて、亮磨と勘違いをしている?と思った。

「その話、鮎さんから聞いたんですか?」

「そうよ、長い未亡人生活に終止符を打とうとしていたら、突然目の間にあなたが現れたって。でも、馴れ初めは言えないの一点張りでね、埒が明かないのよ」

「未亡人生活・・全然、辛そうには見えませんでしたけどねぇ・・」

「男の前で言えると思う? 抱いてほしいって・・」
前田氏の表情は「そう言っている」様にしか見えなかった。

「そうでしょうね・・さて、僕も焼酎でも買って帰ろうかな・・」
立ち上がって土産店の方へ向かう。舌打ち音が聞こえたが氣のせいだろうと思うことにした。

(つづく)


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