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翔太鈴木
2022年7月19日 08:49
理の額を、汗がしたたる。尻のポケットからぶら下げたタオルを抜き出し、汗を乱暴に拭った。「…ふぅ」ビルの清掃のアルバイト。夏休み中のこの時期は繁忙期で、地獄のような忙しさだった。 換気のために開けている窓も部屋の片面しかなく、風通しは悪かった。そして、その窓から直射日光が容赦なく部屋に入ってくる。しかも、電気代をケチったビルのオーナーから「冷房をつけるな」とお達しがあり、まさに蒸し風呂状態だ
2022年7月13日 07:43
夏休み。ジンが美緒と一緒にハンバーガーショップに入る。二人で宿題をするのが、ほとんど毎日の日課だった。 「今日は、私に払わせてくれる?」美緒がそう言う。ジンは、「いや、そんな、いいよ」と遠慮した。「ううん、ちがうの」美緒が首を横に振る。「おかあさんがね、『今日はご馳走しなさい』ってお金くれたんだ」「なんでまた?」「本当ならね、夏期講習とか行かなきゃいけない時期なのに、ジン君のおか
2021年10月6日 14:10
朝。登校途中の晴香が、学校の近くの道で赤信号に捕まり、足を止めた。「…まだまだ寒いな」入学から少し経った、ある日の朝。四月だというのに朝はまだ寒く、晴香が白い息とともにそうつぶやいた。「晴香!」遠くから名前を呼ばれる。横断歩道を挟んだ向こう側の道で、ジャージ姿の宗悟が大きく手を降っていた。「あぁ」と小さく手を降り返す。宗悟が横断歩道を走って渡ろうとするが、信号が赤なのに気づきいて足を止め
2021年8月18日 10:54
朝。美緒が学校の正門をくぐる。「…さむっ」美緒の体を冷たい風が吹き付け、コートのポケットに入れたカイロに手を触れた。その日は、もう四月だというのに冷え込んだ朝になっていた。「さむいね~」正門の隣の、レンガ造りの大きな花壇。その中でキレイに咲く、たくさんの花にそう声をかけた。「みおっ」「わぁ!」突然、後ろから両肩を掴まれた。振り返ると、友達の晴香がいた。「あぁ、晴香。もう、ビックリ