翔太鈴木

芸人もどき、役者くずれ、噺家的存在、小説家きどり。 小説を販売しております。 no…

翔太鈴木

芸人もどき、役者くずれ、噺家的存在、小説家きどり。 小説を販売しております。 noteでは短いお話を載せていこうと思っています。 どうぞ、よろしくお願いします。 https://syo-ta131suzuki.wixsite.com/syoutasuzuki

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  • 雑文。

    創作でない、日常の日記のような雑文。

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  • さいしょはグー。

  • 小さな雑貨屋。

  • オレンジペコー。

    翔太鈴木の一作目の長編小説「オレンジペコー」の番外編の短編です。

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お弁当。

都内の少し大きな公園に、一台のワゴン車が止まった。すぐに若い女の子たちが集まる。 「お弁当ください!」 女の子たちの目的は、そこで売られるお弁当だった。車内の、二十代半ばほどの女性の店主がお弁当を売る。 「かわいい!」 お弁当を差し出すたび、女の子たちはそう言う。その笑顔はとても可愛い。 そして、女の子たちはスマホを取り出す。 友達同士で集まって写真を撮ったり、撮った写真をSNSに上げたり、自分の撮った写真を見せあったりしている。店の前は、とても盛り上がっていた。

    • 「さいしょはグー。」第4話。

       「ふぅ」 理が一息ついた。掃除中のオフィスビルの階段に腰をおろし、赤いパッケージのストレートティーを一口飲む。 「あいつら、頑張ってっかな」 その日は大学受験の当日だった。なんとなく、スマホを開く。 「いってくるわ!」 ジンからだけ、そうメッセージが入っていた。 「あいつは余裕だな」 そう思い、小さく笑って「気ぃ抜くなよ」とだけ返信した。もう一口紅茶を飲む。 「ん?」 スマホが鳴る。ジンからの返信だった。確認すると、緊張した面持ちで両手でグーを作り、ファイティングポーズをと

      • 「さいしょはグー。」第3話。

         放課後の教室。ジン、宗悟、理の三人は裏返したテストの答案を机に並べ、じゃんけんの構えをとっていた。 「いいな?」 宗悟が声をかける。「いいよ」「おう」と二人もうなずいた。 「さいしょはグー!」 宗悟が声をかける。 綺麗な手、ゴツイ手、傷だらけの手が拳を作っている。 「じゃん、けん、ぽん!」 三つの手が、それぞれグーを出した。 「あいこでしょ!」 次は、三つのチョキが並ぶ。二度目のあいこに「お~」と盛り上がる。 「あいこでしょ!」 示し合わせたかのように、次は

        • 「さいしょはグー。」第2話。

           「…ん?」 放課後の教室で宗悟が教科書を拾う。「何?」と理が気にする。 「教科書落ちてた」 「誰のだ?」 二人が教科書を眺める。名前が書かれておらず、誰のものかわからなかった。パラパラとめくり中身を見るが、書き込みもなく、筆跡から持ち主を割り出すことも出来なかった。 「…これ、新品じゃねぇ?」 理がそう言う。確かに、本を開いた形跡もあまりなく、新品と言われても疑わない程きれいだった。 「でも、なんで新品の教科書なんか落ちてんだ?」 宗悟が言い、「さぁ?」と二人で首をひねった

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        お弁当。

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        記事

          「さいしょはグー。」第1話。

          (あらすじ)加賀宗悟は空手部に所属し、どれだけ結果が出なくても勉強も部活も頑張り続け、片思いの晴香に何度フラれても諦めない努力家。菜田仁は持ち前の才能で勉強もスポーツもそつなくこなし、友達や恋人の美緒から天才と呼ばれている。風口理は、事故に遭った父親に代って家を支え、松下という女性教師に憧れを抱く苦労人。三人は友達だが、宗悟は、勉強もスポーツも天才の仁に勝てず劣等感を抱き、仁は自分の知らない経験を積んでいる理を尊敬し、理は、努力できる環境にいる宗悟を羨んでいた。それぞれが持っ

          「さいしょはグー。」第1話。

          「ファイト!」第10話。

           日曜日。慎吾が侑里の家を訪れた。「いらっしゃい」と笑顔で迎えてくれた侑里に「おじゃまします」と小さく頭を下げた。 「制服?」 「うん、慎吾は制服着てくるかと思って」 慎吾も侑里も、正装として学校の制服を着ていた。お互いに同じことを考えていたのが嬉しかった。「そっか」「うん」と、お互いに笑顔になった。 「オヤジさんは?」と小さい声で聞くと、「居間にいるよ」と顔を近づけた。「そっか、ありがとう」と答えると、「上がって」と家の中に招き入れてくれた。 居間に行くには、小さなダイニン

          「ファイト!」第10話。

          「ファイト!」第9話。

           「おじゃまします」 「いらっしゃい」 いつものあいさつから慎吾の昼食が始まった。 「あれ、侑里ちゃん一緒じゃないの?」 「『週番の仕事があるから先行ってて』って言われて」 「そっか。仕事と君を天秤にかけて、君は負けたんだね」 「そんな大げさな話ですか!?」 二人が笑った。  「侑里が来ないうちに、先生に相談したいんですけど」 慎吾がそう言うと「あの子のお願いの次は、君の相談か」と松下が笑う。慎吾も、「すいません」と笑って頭を下げた。 「いいよ、なに?」 松下がそう聞くと、

          「ファイト!」第9話。

          「ファイト!」第8話。

           「なんだ、弁当作ってんのか?」 朝、雄二郎が目を覚まして部屋から出ると、台所で侑里がお弁当を作っていた。 「今日、日曜だぞ?」 「うん、そうなんだけど…」 侑里が、少し言いづらそうにした。雄二郎は事情を察して、「出かけるのか?」と笑顔で聞いた。 「うん、今日、慎吾が誕生日なの」 「そうか。気を付けて行って来いよ」 父親が、父親らしく優しく言った。 「うん、ありがとう」 娘が笑顔になった。 「おかあさん、行ってきます」 おかあさんの前で手を合わせた。ドレス姿の写真が目に入る

          「ファイト!」第8話。

          「ファイト!」第7話。

           それから、二年と半年の時間が流れた。侑里と慎吾は無事に三年に進級できていた。  「おじゃまします」 昼休み。慎吾がお弁当を持って音楽準備室に入った。いつからか、お昼のお弁当を侑里と慎吾と松下の三人で食べるのが日常になっていた。この部屋の雰囲気から、慎吾はいつも「おじゃまします」と言ってしまう。部屋の中では、もうすでに侑里と松下が談笑していた。 「でも、やっぱり先生に音楽習いたいです」 「そう?嬉しいね」 そんな会話が聞こえた。侑里が二年生に上がったときに松下は新一年生の担

          「ファイト!」第7話。

          「ファイト!」第6話。

           「おぉ~」 家庭科の調理実習の時間。侑里がフライパンの中のたまごを上手にくるくると巻くと、その手際の良さを見ようと集まっていた女の子たちが歓声をあげた。先生も「ゆりちゃん、上手ね」と感心し、侑里は照れくさくなった。  「…おいっし!」 焼きあがったばかりの侑里のたまごやきを食べた綾乃が大きな声を出すと、また周りの女の子たちが注目した。 「お弁当のも美味しいけど、作りたて美味しすぎ!」 絶賛する綾乃を見て先生も「どれどれ」と一切れ試食し、「ほんとだ、すごい」と褒めた。そし

          「ファイト!」第6話。

          「ファイト!」第5話。

           それから少し経った、ある日の午後。授業と授業の間の休み時間。侑里と綾乃が二人で一階の科学室に行くために、三階の教室から移動していた。侑里は昼休みに買った、飲みかけの「まっしろ」を手に持っていた。それを見て、「慎吾君、元気かな?」と綾乃が思い出したように言う。 「こないだは元気そうだったよ」 「こないだ?」 「こないだカラオケ行ったでしょ?あの帰り道にね、駅で慎吾君と会ったの」 「へー、そうなんだ。なんか話した?」 「前にケンカしてたでしょ?三対一で」 「うん」 「あの日さ、

          「ファイト!」第5話。

          「ファイト!」第4話。

           「おかあさん、行ってきます」 朝。準備を終えた侑里が母親に手を合わせた。 「おとうさん、今日何か食べたいものある?」 「カツ丼」 即答した父親に「ほんと、好きだね」と笑った。 「まぁな」 「わかった、頭に入れとく」 「行ってきます」と言い、父親の「行ってらっしゃい」を背中で受け止め、家を出た。  学校に着いて教室に入ると、綾乃を含めた女の子数人がイスに座る一人の女の子を取り囲んでいた。その光景に、昨日見た映画を思い出し、少しおかしくなった。 「綾乃、おはよう」と、その集団

          「ファイト!」第4話。

          「ファイト!」第3話。

           昼休み。お弁当を広げる侑里の元に綾乃が来た。 「ごめんねー、朝、一緒に学校来れなくて」 その日の朝は、綾乃は部活の朝練があり、侑里は一人で登校した。謝る綾乃に侑里は「ううん、いいよ」と答えたが、一人で歩く通学路は少し寂しかった。 「たまごやき、一個頂戴」と綾乃が箸を伸ばす。侑里も「いいよ」とお弁当箱を差し出した。 「侑里のたまごやきは、ほんっといつも美味しいわ」 「そう?ありがとう」と侑里が微笑んだ。  その時、同級生のちょっと派手めな女の子が二人の近くを横切った。 「え

          「ファイト!」第3話。

          「ファイト!」第2話。

           侑里が、ガスコンロのスイッチを入れた。 ちっちっちっちっち…ぼっ!  切れかけの電池の入ったコンロは、火のつきが悪かった。火を弱火に調節し、フライパンを乗せる。乗せながら、おかあさんがノートに残してくれたレシピを確認した。レシピも手順も完璧に頭に入っていたが、ちゃんと確認するのがクセになっていた。「料理がおいしくなりますように」という、おまじないのような感覚だった。  フライパンを温めている間に、冷蔵庫から卵を三つ取り出して殻を割り、ボウルの中に中身を落とす。最後に割っ

          「ファイト!」第2話。

          「ファイト!」第1話。

          (あらすじ)侑里は気が弱く、自分の事は後回しにしてしまう女の子。死んだ母親のドレス姿の写真に憧れ、夢はお嫁さんになる事。 優しい子だと褒めつつも心配する父親に、感謝と申し訳なさを感じていた。 高校生になり、死んだ父親の代わりに家を支える慎吾と出会い、付き合う。卒業を前に、夢を叶えるためにと結婚を申し込まれた。父親の反応が気になるが、きっと自分の幸せを喜んでくれると信じる。 しかし、挨拶に来た慎吾を、父親は冷たくあしらう。侑里は悲しみ、慎吾は父親とケンカになる。慎吾から侑里の気

          「ファイト!」第1話。

          「オレンジペコー」第6話。

           夕方、店の電話が鳴った。聡が帰った後しばらくして、さやかが遊びに来ていた。「ごめんね」と手で合図をすると、郁実は受話器を取った。さやかがカップを両手で持ち、「ずずっ」とコーヒーをすすった。  「はい、『フラワーショップいくみ』はウチですが…はい…はい…」 さやかは、「いつもの注文の電話とは違うみたいだな」と様子を見守っていた。 「警察!?」 郁実が驚きとともに放った言葉に、さやかも驚いた。 「はい…はい…知ってますが…」 さやかは、音が立たないように静かにカップを置いた。

          「オレンジペコー」第6話。