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記事一覧

切手はどこへゆく 第二十八話

どさっと大きな音を立てて、日記帳を置いた。その風圧で真っ白な封筒が少し動いた。動いたところで、切手が出てくるわけではない。 意味が分からなかった。手紙は、切手が…

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5か月前

切手はどこへゆく 第二十七話

どのくらい時間が経ったのか、考えるのを忘れるくらいに翠と話を続けていた。話す頻度が減っても、顔が見えていなくても、ずっと話をできるのは、翠しかいないんじゃないだ…

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5か月前

切手はどこへゆく【第二十六話】

菜々と別れて、自転車をこぎ始めた。 予備校とか、進学塾とか、今まで派手な色だな、としか思っていなかった看板が、こんなに自分の身近なものだとは。文字としてだけ認識…

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5か月前

切手はどこへゆく 第二十五話

鉄板はいくらきれいにしても、また次のお好み焼きを焼き始めると、焦げ付いてくる。 追加注文したお好み焼きも食べ終わり、制限時間が迫ってきたが、誰も話が尽きる様子は…

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11か月前

切手はどこへゆく【第二十四話】

体育館を出て、駐輪場に向かった。 駐輪場につくと、わたしの自転車以外に置いてあった自転車が、数台なくなっていた。どうやらみんな、打ち上げ会場に向かったらしい。 …

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11か月前

切手はどこへゆく【第二十三話】

もう引退しているはずなのに、土曜日に学校にいくのが、なんだか不服だった。 部長からの「部室の片付けを土曜にして、みんなでそのまま打ち上げしよう」というメッセージ…

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11か月前

切手はどこへゆく【第二十二話】

ゴールを見つめている後輩の瞳に、光はなかった。どこにも焦点はあっていないし、体が動き出す気配も感じられなかった。この姿は、かつてのわたしだ。わたしのせいで負けた…

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11か月前

切手はどこへゆく【第二十一話】

練習は、あくまで練習なのだと、思い知らされたのは、高校生活最後の試合の日だった。 二回戦目で当たった高校は、ベスト8常連の強豪校だった。対戦表が発表された時から…

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11か月前

切手はどこへゆく【第二十話】

蒼太さんはこの前と変わらず、切れ長の穏やかそうな目をしていた。 小さく会釈するわたしを見て、優しく微笑んだあとに、古谷の方をちらっと見て、少し不思議そうな顔をし…

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11か月前

切手はどこへゆく【第十九話】

三上の提案に乗ったわたしと古谷は、自転車を押しながら駅前まで歩いた。三上は、古谷の自転車のかごに荷物を載せて、ずいぶん身軽な様子だった。 「チャリ通、楽でいいよ…

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切手はどこへゆく【第十八話】

古谷と三上は、わたしに聞かせているのか、自分たちで盛り上がっているのか、わからないくらいの雰囲気で、思い出話を始めた。古谷が部活を辞めたいと思っていた時に、三上…

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切手はどこにゆく【第十七話】

古谷を待つまでの間、わたしと三上はそれぞれ、ウォームアップをしていた。 脱げないように靴ひもをきつく結んで、アキレス腱を伸ばしてみたり、部活前よりは、緩めの準備…

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切手はどこへゆく【第十六話】

今日は、良い天気だった。 窓から入る日差しのせいか、いつもより多く寝たからか、いつもの日曜日より早く目が覚めた。二度寝をしてもよかったけど、二度寝をするには目が…

切手はどこへゆく【第十五話】

学校が休みの日の部活は、いつもより時間が長いけどあっという間だ。 空腹が通り過ぎた頃に部活は終わり、体育館の隅っこで、後輩たちがモップ掛けをするのを眺めながら、…

切手はどこへゆく【第十四話】

携帯電話を机に置いて、明日の準備でもしようと立ち上がったところで、通知音が聞こえた。 画面を見ると部長からで、同い年の部活のメンバー全員あてに、ご丁寧に明日の練…

切手はどこへゆく【第十三話】

三人で並んで校門を出てから、三上は古谷に、藤崎さんの話をした。古谷はあまり興味なさそうに話を聞いていて、それに気づいたのか気づいていないのか、三上は時折、古谷を…

切手はどこへゆく 第二十八話

どさっと大きな音を立てて、日記帳を置いた。その風圧で真っ白な封筒が少し動いた。動いたところで、切手が出てくるわけではない。
意味が分からなかった。手紙は、切手がないと届かないらしい。じゃあ、この切手のない手紙は、どうやって家に届いたのか。誰かが直接、郵便ポストに入れたのか。翠からの手紙だから、翠しか考えられない。でも、翠は山梨にいるはずなのに。どうして。
机の上に放り投げていた携帯電話を手に取って

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切手はどこへゆく 第二十七話

どのくらい時間が経ったのか、考えるのを忘れるくらいに翠と話を続けていた。話す頻度が減っても、顔が見えていなくても、ずっと話をできるのは、翠しかいないんじゃないだろうか。お互いくだらない話で笑い合ったあと、翠が唐突に話を変えた。
「そういえば、遥夏ちゃん、手紙書いてくれた?」
「あ~……手紙……」
「絶対書いてないでしょ。返事待ってるのに。」
翠に不意を突かれて、わたしはたどたどしい返事しかできなか

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切手はどこへゆく【第二十六話】

菜々と別れて、自転車をこぎ始めた。

予備校とか、進学塾とか、今まで派手な色だな、としか思っていなかった看板が、こんなに自分の身近なものだとは。文字としてだけ認識していたそれが、情報になってわたしを襲ってくる。駅前は情報量が多い。ため息が出そうだった。

派手な看板から目をそらして、自転車をこぎ続けた。

高校受験をしたときは、どうしてたっけ。受験勉強をろくにしていなかったわたしを見かねて、母が、

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切手はどこへゆく 第二十五話

切手はどこへゆく 第二十五話

鉄板はいくらきれいにしても、また次のお好み焼きを焼き始めると、焦げ付いてくる。
追加注文したお好み焼きも食べ終わり、制限時間が迫ってきたが、誰も話が尽きる様子はなかった。真凛の「デザートを食べたい」という声に全員が反応し、バニラアイスが届くのを待っていた。
もう鉄板の出番がないことはわかっているし、きれいに鉄板をきれいにするのは、店員さんに任せればいいだろう。なのに、わたしの手はへらを手放さなかっ

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切手はどこへゆく【第二十四話】

切手はどこへゆく【第二十四話】

体育館を出て、駐輪場に向かった。

駐輪場につくと、わたしの自転車以外に置いてあった自転車が、数台なくなっていた。どうやらみんな、打ち上げ会場に向かったらしい。

ほんの10分間くらいで、自転車も、誰かの声も聞こえないくらい、みんなは学校から離れたらしい。そんなに打ち上げしたかったのか。いつもなら部長が、駐輪場で誰かを捕まえて話していそうなのに。

自転車に鍵を差し回すと、がちゃんと音がした。自転

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切手はどこへゆく【第二十三話】

切手はどこへゆく【第二十三話】

もう引退しているはずなのに、土曜日に学校にいくのが、なんだか不服だった。

部長からの「部室の片付けを土曜にして、みんなでそのまま打ち上げしよう」というメッセージを、わたしが見逃して、みんなが盛り上がっていたから、文句のひとつも言えなかっただけだけど。

不服な感情が、行動にも表れてしまったようで、寝坊した。はあ、とひとつため息をついて「遅れます」と連絡をした。あくびをしながら伸びをして、洗濯物の

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切手はどこへゆく【第二十二話】

切手はどこへゆく【第二十二話】

ゴールを見つめている後輩の瞳に、光はなかった。どこにも焦点はあっていないし、体が動き出す気配も感じられなかった。この姿は、かつてのわたしだ。わたしのせいで負けた、そう思った時のわたしだ。

なにか言葉をかけなければ、そう思った。後輩に伝える言葉なんて、なにも思いついていない。ただ、このままにしてはいけない。その思いだけが、わたしの足を、後輩へと動かした。

「……あの、さ……」
なんとも歯切れの悪

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切手はどこへゆく【第二十一話】

切手はどこへゆく【第二十一話】

練習は、あくまで練習なのだと、思い知らされたのは、高校生活最後の試合の日だった。

二回戦目で当たった高校は、ベスト8常連の強豪校だった。対戦表が発表された時から、ここが山場になると、予想はついていた。

対戦相手は、今まで公式戦では戦ったことはなかった。試合をしていなくても、噂話は入ってくるし、大会で試合の様子を見ていれば、強いチームだということはわかる。だからこそ、最後の最後まで、練習は怠らな

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切手はどこへゆく【第二十話】

切手はどこへゆく【第二十話】

蒼太さんはこの前と変わらず、切れ長の穏やかそうな目をしていた。

小さく会釈するわたしを見て、優しく微笑んだあとに、古谷の方をちらっと見て、少し不思議そうな顔をしていた。

古谷を見ると、愕然とした表情をしていた。人の顔を見て、いきなり「え?」は失礼だろう。愕然としたいのはこっちの方だ。

蒼太さんの前で失礼なことをするなんて。一言言ってやりたい気持ちもあったが、蒼太さんの前で文句を言うところを見

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切手はどこへゆく【第十九話】

切手はどこへゆく【第十九話】

三上の提案に乗ったわたしと古谷は、自転車を押しながら駅前まで歩いた。三上は、古谷の自転車のかごに荷物を載せて、ずいぶん身軽な様子だった。

「チャリ通、楽でいいよなあ。電車乗らなくていいし。」
「電車乗らなきゃ行けない高校選んだの、自分だろ。」
「お、なんだ喧嘩売ってんのか?」
はあ、とわざとらしい古谷のため息が聞こえた。また二人のふざけた会話が始まったので、黙って横を歩くことにした。

「ま、こ

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切手はどこへゆく【第十八話】

切手はどこへゆく【第十八話】

古谷と三上は、わたしに聞かせているのか、自分たちで盛り上がっているのか、わからないくらいの雰囲気で、思い出話を始めた。古谷が部活を辞めたいと思っていた時に、三上は部活を辞める、とは思わなかったが、同じように先輩が好きじゃなかったらしい。

というか、同級生の大半は、先輩とそりが合わずに、辞めるか続けるか、みたいな話を頻繫にしていたとか。

ほとんどは、文句を言いながらも続けていく中で、本気で辞めよ

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切手はどこにゆく【第十七話】

切手はどこにゆく【第十七話】

古谷を待つまでの間、わたしと三上はそれぞれ、ウォームアップをしていた。

脱げないように靴ひもをきつく結んで、アキレス腱を伸ばしてみたり、部活前よりは、緩めの準備をしていた。

三上も準備体操が終わったのか、シュート練習をしていた。男子とバスケをするのも、久々かもしれない。

高校に入ってからは、体育の授業も部活も、男女別で行われることがほとんどで、古谷とは中学生以来だ。三上にいたっては、体育館の

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切手はどこへゆく【第十六話】

切手はどこへゆく【第十六話】

今日は、良い天気だった。

窓から入る日差しのせいか、いつもより多く寝たからか、いつもの日曜日より早く目が覚めた。二度寝をしてもよかったけど、二度寝をするには目が覚めすぎている気もしたので、起きることにした。

ベットから出て立ち上がったまま、大きく伸びをしてから、部屋を出た。部屋を出てリビングに向かおうとすると、キッチンからほんのり甘い匂いがしてきた。

「遥夏、ちょうどよかった。一つ味見してく

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切手はどこへゆく【第十五話】

切手はどこへゆく【第十五話】

学校が休みの日の部活は、いつもより時間が長いけどあっという間だ。
空腹が通り過ぎた頃に部活は終わり、体育館の隅っこで、後輩たちがモップ掛けをするのを眺めながら、ストレッチをしていた。

今日は、悔しい思いをした。
最高のタイミングで来たボールを、シュートした瞬間に、後輩に弾かれてしまった。いままで簡単に入れられていたはずなのに、あのタイミングで弾かれたこともなかったはずなのに。

なぜ決められなか

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切手はどこへゆく【第十四話】

切手はどこへゆく【第十四話】

携帯電話を机に置いて、明日の準備でもしようと立ち上がったところで、通知音が聞こえた。
画面を見ると部長からで、同い年の部活のメンバー全員あてに、ご丁寧に明日の練習予定が送られてきた。
2年生がどうとか、1年生がどうとか、部長の聞いてよオーラ全快につづられた文章はスルーして、練習予定の中に、試合の文字があるかだけを確認して、画面をオフにした。
部長みたいに誰と合う合わないとかが、まったくないわけじゃ

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切手はどこへゆく【第十三話】

切手はどこへゆく【第十三話】

三人で並んで校門を出てから、三上は古谷に、藤崎さんの話をした。古谷はあまり興味なさそうに話を聞いていて、それに気づいたのか気づいていないのか、三上は時折、古谷を茶化していた。

それに対して、古谷がいちいちむっとした表情をするので、どうやら三上はそれが面白いらしい。三上がだんだんと饒舌になっているのが、ぼんやり話を聞いていたわたしでも、気づくくらいだった。

「そういや、藤崎って、高塚とも仲良かっ

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